ロバツの動向だと思いますわ
やはり宰相の裏切りはない。そもそも国土に被害が出る方法は反対だろう、公爵家は明確な敵だから致し方ないとしても国境沿いはグリンド侯爵もいるし、その子飼いの貴族だっている。なにかあろうことなら王家は北部国境の公爵家、南東のブランケット侯爵家、国境のグリンド侯爵家一党にワタクシのお友達の貴族を敵に回すことになる。リスクはあるけど実入りは無に等しいですわね。だいたい蛮族がワタクシの手駒でなかったとしても別に王家には利さないですわよね、これ?
むしろ蛮族が流入したら国家が終わると思うんですけど……。今の王家は蛮族を支援していない、いや、するように言って商人に投げているらしいが誰もそんな事はしていない状況。たまにもの好きが関心を得るためにやっていますが……商会ごと消えたのでどうでもいいですわね。
これは宰相も知らないですわね。間違いない。
となると考えられるのは……バカ王子の独断?そんな脳みそがあった……ああ中途半端で使えるはずのない超法規的措置の行使未遂といい自分にとって有利なものをどう使うかまで見ずに覚えていたみたいな?
説明書を読まないでガラスにお湯を入れて割るタイプですわね。いや、お湯も沸かせないか。
一応ロバツのそそのかしはバカ王子の独断の可能性が高いとしておきましょうか、そういえば国境にマーグの元婚約者飛ばしてましたわね?
あんまり覚えてないんですけどあったことあったかしら?評判最悪だった気がしますけど……。
「クラウ」
「…………なんっすか?」
「国境に送ったバカどもの監視は?」
「してるっすよ」
「全員?」
「全員ではないっす……」
「ロバツと密約の可能性がありますわ、バカ王子の独断で。国土を明け渡すレベルの物があると踏んでいますわ。公爵領かしら?」
「流石にこの短期間で頭が回るか?」
「グリンドのバカ息子、マーグの元婚約者、前者だけでもお誂え向きでしょう?グリンド侯爵領はロバツと国境が近いから関係も深いですし、前の戦争でも被害がないからから領民感情への配慮もいりませんからね。バカ王子に切り捨てられたのではなく次策として動いていた可能性がありますわ」
「そんなに……頭回るかな……」
「悪知恵は働くだろ(小声)」
「元からグリンド侯爵家の既定路線だった可能性だってありますわ、ほら、ワタクシのお祖父様と曽祖父様がロバツを叩きのめすまではサミュエル王国が不利だったではありませんの。その時寝返る約定を交わしていたって不思議じゃありませんわ。国境沿いの貴族家なんてよほどの恩か恨みがなければひっそりパイプは持ってるものですわ」
「……エリーもか?」
「次代がアホの時点で意味がないですわね。それにロバツからしたら落ち目のサミュエル王国をじわじわと苦しめていたら一発逆転されて占領地すら奪回されて北部は蛮族に奪われた、パイプ持つくらいだったら王家と作るでしょうね」
「では王家が主導してロバツをけしかけた可能性があるのではないのですか?」
「蛮族がいますわ、もし国境をロバツに抜かれ蛮族が呼応したら……王都は落ちますわね」
「……王家がやっていたら驚きですね」
「ピア、流石に国王にもその判断力はありますわ、動くであろうロバツの軍は少数、蛮族に呼応して蛮族との国境を固めると動員してサミュエル王国の国境兵力を抽出させない程度が仕事でしょうね。蛮族の規模は流石にロバツも王家も知らないでしょう、動かせるも蛮族としては少数だがそこそこの規模程度だと思ってるはずですわ」
知っていたらとっとと和解に走るでしょうしね。
「国王がこれをやるとしたら流石にどこからか漏れるしバラされます、秘密裏にやるとしても国王周りで動きはあり、宰相も拒否するでしょう。そもそも国王一人がロバツと密約を結んだところで大臣級の承認なしではね。対外的に国王派の宰相の承認すらないとか疑ってしかるべきですし。金銭であれば金欠の王家には捻出できない、よって国土の割譲でしょう。公爵派閥の、あるいは国境貴族はすべて見捨ててるかもしれませんわね。この密約を押し通すには割譲しかないと大臣たちを納得させたうえで正式に割譲する条約を作って秘密条約を完遂させなければならない。秘密条約にしろ通常条約にしろ大臣の三分の一は賛成しないと効力のこの字もありませんからね。強行したところで乱心で終わりですわ。ロバツとて秘密条約を暴露されたら周辺国からまさかと思われて攻撃されるから適正であってほしいし、秘密条約協定に国王のサインしかなければ行動には移したくないでしょう」
「なら安全っしょ」
「契約って甘いもんやないからな」
「普通ならそうね、でもいるじゃないですの。超法規的措置すら理解できてなかったおバカさんが」
「バカだな……(小声)」
「まぁ……頑張ってくれや」
「ロバツはバカ王子の要請という形を持って、まぁ幽閉されているとか適当なことを言って国土を割譲して救出してもらう形に持っていくでしょうね。蛮族はロバツの兵とでも偽って王都を落とした後で即位するんでしょう。もしバレても先程の通り蛮族に備えて兵を動かしただけ、このような国王も大臣も王太子の署名もなければなんの価値もない秘密条約にサインするわけがないとすっとぼけるでしょう。無能な王子の言うことを信じて動くと思っているのか?でこちらが引かざるを得ないのって……ダメだと思いますけど」
蛮族「うちはママの派閥だ」
ロバツ「ママ……?新しい族長?」




