一旦考えましょう……
グリンド侯爵は間違いなくワタクシに屈した。
クラウが調べたところでグリンド侯爵は私生児もいない、愛する人の子供を後継にするため妻との子どもたちなんてどうでもいいとか暴挙に出る理由もない。
それをしたらバカ王子にしろ国王にしろこの2人がつけ込んだにしろ貴族間で完全に終わりますしね。そのうえその状況に追い込まれて救いの手を差し伸べなかったら暴露するでしょうし。
そもそもグリンド侯爵程度がレズリー家を出し抜けるわけもなし。
つまり、ロバツがなぜ動くかまでは牽制程度でしか知らないということ。ロバツが動くことは確か。でもなぜ?
うーん……?
たしかにこの情勢で動くのは妙ですわね。蛮族がワタクシの手駒であることは知られていない、知ったうえで接触するのであればもう少し情報に毒を含ませるはず。
こっちの王家が関わっているとか。もちろん知らなくても有効ですわね。
しかしその程度のこともない、蛮族に説明する必要がないといえばそうですけど。言っておけば、もしも傘下部族にロバツとサミュエル王国のお墨付きだとでも吹聴していれば嘘でもこじれる。
なにせ前科がありますからね。
そうすると……協調してる?
いや、流石にそれくらいの動きをしてたら宰相の耳にも入る、ベス、クラウのどちらかにもそれとなく伝わる。キャスにも探りをいれる可能性がある。
宰相が裏切っている可能性……だとしたらお父様が出し抜かれている。それもありえない、宰相はそもそも安定派だ、わざわざ虎の子を起こして大事件にしたいタイプではない。隙を見せなければ作るより待つタイプだ。外務大臣を国外において帰ってこさせないようにしてるのはそうせざるを得なかっただけだ。
そもそも宰相がこの1年もの間、外務大臣のブランケット侯爵をしょっちゅう他国へ派遣させていたのはワタクシと手を組んでいるから海運と良港を抑えて小さいとはいえ王国海軍を完全に麾下に収めないため。どちらにせよアンのお母様であるアレクサンダー女伯爵が王国軍総司令官代理である限りはどうにも出来ない。
単なる嫌がらせですわね、あとは反王家に真っ先に名乗り出たからでしょう。公然の事実で対立してる公爵家と違ってブランケット侯爵家は国王派、そのうえ娘は第1王子婚約者で何事もなければ王太子婚約者、王太子妃に数年でなるという立場だった。
事故死はまぁいいでしょう、よくはないですが……。
近衛騎士のマルバッハ男爵家への責任転嫁。この辺もまぁ……許容範囲でしょう。国王派の高位貴族であれば多少飲み込まざるを得ないともいえますわね。
後は遺体の到着を第1王子とずらしたこと、これはダメですわね。同時に持ってくるべきでしたわ。一番ダメなのは第1王子婚約者だったのに葬儀にお悔やみの代理出席者すらよこさなかったこと、その上葬儀まで被せたことですわ。お陰で儀仗隊は第1王子の葬儀に向かい、ブランケット侯爵家派から宰相派に鞍替えしましたわ。
なんのために第1王子の遺体の輸送を早めましたの?アーデルハイドの到着日時から葬儀日程も決めて通達した翌日に被せてくるなんて心の底から馬鹿げてますわね。本来であれば王子の逝去なんてもう少し葬儀には時間をかけるものだと言うのに……。ワタクシへの嫌がらせなんでしょうけど、国王かバカ王子かどちらが主導したんだか……。王家とどちらを選ぶかとするなら第1王子の婚約者だった相手でやるべきではありませんわ。たとえ実質的にワタクシ達の派閥だったとしてもね。
この手は宰相ではないですわね、明確に反王家を出すまではブランケット侯爵家に対しては中立でしたし。儀仗隊をやるはずの貴族家が宰相派に寝返って第1王子の葬儀に出て職務を放棄した話を聞かされて絶句していたと聞きましたしね。
翌日にはそりゃあもうひどい会議だったそうですわ、本来であれば王家からも見舞いがあってしかるべきなのになにもなし、先に葬儀をしようとしたら後から予定を早めてぶつけてくる。儀仗隊の貴族の人間は職務放棄で第1王子の葬式に行く、王家に人の心はないと言い放って辞任しようとしたところを宰相に引き止められ、個室での説得は失敗した。辞任は撤回されたものの国王派閥からは明確に抜け、堂々と国王を非難して、こんな家に娘を継がせなくてよかった、婚約者になってもこの扱いだと各国大使にすら吹聴して明確な敵に回った。外務大臣時代の人脈もノウハウも後任に引き継ぐ気もなく、すべての交渉過程の書類を焼き捨てようとしてすらいた。だからこそ関わりの薄い遠方、国外に飛ばすしかなかった。
そして子息のドゥエイン君は政務を出来ないから影響力を行使できない、ドゥエイン君の権限でワタクシがブランケット侯爵海軍や商業の提案など多方面でで動かせることは出来ない。よってブランケット侯爵家を政治的に封じ込めた。
もっともそれが出来ないのはドゥエイン君の権限の問題でしかないんですけどね。
アーデルハイドと生前に作った遺言とブランケット侯爵の承認とドゥエイン君の後見人の一人であるワタクシならやろうと思えばいくらでもできる。実際バレないであろう部分はやっている。
ただわざわざ公表しておらず、明確な問題もないし王家に報告する義務もないから言っていないだけ。
それだけですわ。
ブランケット侯爵「いや、本当この国王は外道で、利用価値がないと思ったら条約くらい破棄しますよ」
大使「えっ?」
大使「と言われたのですが」
国王「そのような信義に劣ることはしない!」
大使「でも第1王子婚約者の葬儀に何もしなかったんですよね?」
国王「あちらが葬儀日程をぶつけてきたからだ」
大使「でも葬儀に間に合わない国もありましたしもう少しずらしても良かったのでは?」
国王「遺体の腐敗が酷かったからな」
大使「そもそもなぜ婚約者なのに合同葬儀にしなかったのですか」
国王「(ヴィルヘルムがどちらを選ぶかで貴族を選別しようとしてたからだがそれを言うとなぁ……)あくまで婚約者だったからだ、王太子の儀の前であるから……」
大使「ですが婚姻ではないにしろ婚約であるのなら過誤でもない限りは合同で良かったのでは?」
国王「……そもそもそれは国家のことで内政干渉ではないのか?」
大使「……そうですね、撤回します(質問でこんなこと言ってくるようじゃ信義はないな、関わるの辞めて距離をおいたほうがいいな)」
宰相「大使が後任が決まる前に帰国して、そもそも後任が決まってない?」
外務大臣「信義がない国にいてもしょうがないからなぁ」
宰相「(ダメだ、全力でこの国を孤立させる気だ。近くにいたら公爵家とどこかの国と手を組んで攻めてくるから遠方に派遣しないと……。大臣権限の書類が王家管轄でなく秘密交渉を含むからブランケット侯爵家に付随しているし、辞めさせたら書類を全て捨てて、王国側の交渉過程を暴露するくらいやる。そして王国を孤立させたあと公爵家が兵を挙げる可能性が高い、一部の外交は私が引き継いで……)」
1年後
大使「次期王太子が街中で女遊びをしたり臣民からものを奪っているがこの国に法はあるのか?」
宰相「うう……」




