夢じゃありませんわね……
いい天気ですわね。
こんな日こそ遠乗りに出かけたいですわ、馬車よりも馬に乗って駆け抜けるあの快感……たまらないですわ!
でもキャスには令嬢が直接馬に乗るなんて!って怒られてしまいますの。
でもいいですわ、妥協して馬車でも。みんなで旅行にいきましょう!そして料理に舌鼓を打って風光明媚と名高い景色を見て談笑しますの。
「エリー!」
「はいっ!」
どうやら……現実だったようですわね、夢であることを祈りたかったのですけど……。
でもまだ聞き間違いである可能性がありますわ、あの娘は事故で死ぬような女じゃないでしょう?殺したって死にませんわよ。
「……はい?エリー、落ち着いて。ベス!詳しい説明を!」
「全容がわかったわけではありませんが……。お二人が亡くなられたのは確かです……」
「それを説明しなさい!」
「キャスこそ落ち着いたほうが良いですわ……。ベスが話してる途中で遮ってはいけませんわよ、詳しくお願いいたしますわ」
聞き間違いではございませんでしたわね……。第1王子はともかくアーデルハイドが亡くなるなんて……。軍隊で襲撃でもされたのかしら?でも事故死?この世の終わりかしら?
「失礼、私も混乱しました。ベス、続けてください」
「王太子の儀でロンドニへ向かっていたのはご存知だと思います……経由地のマルバッハ男爵領で落石により死亡したと……」
「落石?暗殺ではありませんの?本当に事故?」
「間違いなく事故だと……。名所の夫婦岩が落ちてきたそうです……」
将来の夫婦に夫婦岩が落ちてきて死ぬだなんて縁起が悪いですわね……。死んだ時点で悪いですわね、人生はままならぬものとはいえ突然過ぎる別れですわね。ワタクシもちょっと整理ができませんわ。
一度限りの人生、やはり妥協よりも前を向いて障害を突き破り、力尽きるまで戦うほうが良いですわね。アーデルハイドの分まで活躍してやりますわー!それが弔いというものですわ。
せめてものね。
「本当に事故ですか?直前のゲーリング子爵領で重税から逃げ出して野盗化した農民に王太子の儀の行列が襲われるところだった事件があったばかりではないですか」
「目撃者が大勢いたそうです……」
そういえばそんな事件もありましたわね。まぁ、襲われても護衛がなんとかしたでしょうし実際そこまで関係ありませんわね、役立たずかもしれませんけど。
キャスが代わりに聞いてくれるから楽ですわね。聞きたいことを聞いてくれる、やはり友情の素晴らしさを感じますわ。
正直言葉が出てこないだけと言えばそれまでなんですけどね。
「そうですか……そうなると王太子候補は第2王子殿下に……」
「ええ……」
「アレは評判がよろしくありませんわ。傀儡なら務まりますけど自分がトップとして采配を振るうのには器も能力も足りませんわー」
「「……」」
正直言って小物ですわ。職場で一番嫌われるタイプの上司ですわ。噂が全て本当でなくとも入ってくる情報がそれを明らかにする、そういうものですわ。
第1王子との婚約が失敗した時点で私の婚約相手の有力候補になりましたけど……。公爵家の婿にしてうまく操って外征して独立するくらいしか偉くなる方法がないんで手間のかかるハズレくじでしたから計算に入れたこともないですわね。
でも、第2王子が王太子になればワタクシが王妃、どうせ小物は能力もありませんし私が王国を差配してさらなる栄光を掴みますわー!
制御できる程度の知性もあるか怪しいところはありますけどね。
「そういえばゲーリング子爵領の襲撃未遂はどうやって防いだんですの?」
「周辺にいた住民が注進したそうです……。賊徒共は護衛よりも多かったので……。練度で勝てるとしてもわざわざ危険を犯す必要は……」
「ベス、賊徒に対して逃げたような物言いは……」
「王太子の儀をするのにわざわざ余計なことをして時間食ってもしょうがないですの、延期理由が賊徒襲撃では権威が落ちますわ」
「それはそうですが……」
それに注進されるだけいいではないですの。
重税の責任が王家にあると認識されていたら黙認されて、楽しい楽しい盗賊刈りの始まりでしたわね。
それにしてもキャスは硬いですわねー。頭は周りますが杓子定規で臨機応変さが足りませんわ。演劇でみんなのアドリブに合わせて脚本は直せても、自分が役者としてアドリブを振られたらに対応できないタイプですわね。将来の王妃側近として柔軟性を鍛えなければなりませんわね。まだ婚約内定してませんけど。
まぁ噂で判断するのは良くないですわね、たとえボロクソでも実際あったら第2王子もマシかも知れませんし。
「とにかく今は前を向くことですの!友人であるアーデルハイドの死を悼みましょう」
「そうですね」
「はい……」
「失礼いたします、マーガレット・バルカレス男爵令嬢、アン・アレクサンダー伯爵令嬢、ジョージアナ・スペンサー男爵令嬢から先触れが……」
「会いますわ」
十中八九この件ですわね……。ベスが緊急で来てくれて助かりましたわー。
考える時間が増えますし。
「ベス、このように先触れは出すものです」
「緊急の要件でしたので……この件で後手に回るのは……」
「それでも礼儀として必要です」
まだ言ってますわね……。礼儀で固まるといざというとき動けませんわよ?
礼儀で足を掬われるのならやって掬われるよりやらなくて掬われたほうがマシですわ。
「かまいませんわー。たしかに緊急だったじゃありませんの。それにベスが先触れもなしに来ることなどそうありませんわ、だからこそ先触れなしでも会ったんですの」
「先触れなしでも私達だったら会うのでは?」
「もちろんですわー!出す暇があったらすぐ来てほしいですわー!」
当たり前ですわよね?領地ならともかく王都にいる期間はどうせ家にいるんですもの。
キャス!変な目で睨まないでくださいまし!
何かで外出するとしてもワタクシは全員誘うからその日いるかどうかくらいわかるじゃありませんの。ワタクシ相手では先触れは無駄ですわ。無駄無駄。
時間は効率的に使うものですわ。
でも、ワタクシは出しますわ。みんな婚約者がいるし邪魔してはいけませんわ!
でも私が第2王子と婚約しても先触れはいりませんけど。
噂通りならあんな小物がデートに誘う訳ありませんわ、せいぜい季節の手紙と夜会にシブシブ顔で同伴して嫌味を言うくらいのことしかしてきませんわー!噂通りならね。
もし婚約したら適当に妾を見繕って後宮に閉じ込めておけばいいですわね、あれは聞く感じは女で身持ちを崩すタイプですわ。そう考えると婚約破棄とかしてきそうですわね。
頭がよろしくないから真実の愛とかほざいて卒業式とか国家儀式をぶち壊しにするタイプですわー。
あーめんどくさい……。噂が嘘だと否定できない要素が多すぎて……。
ま、やはり会ってからでしょう!どんでん返し位はあるかもしれませんわ!
「そういえばシャーリーとクラウの名前がありませんでしたわね?」
「クラウには何かを頼んだのでは?シャーリーはタボット子爵のところへ商談中です」
「クラウはシャーリーが手が空いていないので……アーデルハイドの王太子妃祝の贈り物を調達しに代わりに国外へ……」
「国外に?大事な時に……いや、こうなるとはわかりませんでしたしね。頼んだというのは?」
「そうでしたわ……ワタクシがアーデルハイドの好きな画家の絵を仕入れるように頼んだのですわ……。シャーリーのマッセマー商会は北方にはツテがなかったので……。北方商圏は一応我が家の管轄ですしね……。まぁ北方組合も駄目でしたけど仕方ありませんわね、冬の買付は今の時期から行わなかれば夏や秋に足元を見られますし」
そうでしたわ、アーデルハイドの好きな草原の絵を頼んだのですわ。お父上のブランケット侯爵に届けるようにしておきましょう。
この程度のことが抜け落ちるなんて私も、いいえワタクシもずいぶん気が動転してますわね。
「ブランケット侯爵家は……ドゥエイン君が心配ですわね」
「ええ……姉の婚約と同時に寄ってきた下卑た輩が落ち目だと吐き捨てて去っていくでしょうね」
「まだ10歳になってないのに……」
これは姉の親友として面倒を見るべきですわね。
それにしても腹ただしいですわね……。
「決めましたわ!」
「何をですか?」
「ドゥエイン君の面倒を見ることをですか……?」
「そうですわ!」
ベスはすぐに分かりましたわね!キャス!判断が遅いですわ!
「ベスはなんで分かるんですか……」
「エリーですし……」
なんかちょっと嫌そうな感じですわね……。
もちろんです!エリーのことなら何でもわかります!みたいな満面の笑みで言ってくれてもいいじゃありませんの!ベス!いいことしたと自画自賛しても許されると思いますわ!わ!
クラウ「出番まだないっす」