バンサ伯爵家が何をやっていたかまでは知らないということですわね
「考え事は終わったっすか?」
もしかして深く考えすぎたかしら?数秒考えたくらいだと思ったんですけど?
「ええ、ジャック・リッパー男爵は動けないという結論に達しましたわ」
「そうか、まぁエリーの判断を信じるわ」
「その手の政治的なことはまかせてるしねー。別の政治判断なら口を出すけど」
「……それでいいっすね?」
「ワタクシの読みではね、キャスは?」
「確証までは……」
「では、確証に変えてきましょうか。クラウ、明日は?」
「メイドで出るっす」
「見に行っていいか?」
「イヤっす」
「…………許可を取らずに見に行けばいいのに……アンはなんでいうかな……?」
「それがあったか!」
「根回しして王城に入場させないからいいっす」
「クソ!」
「そこまでっすか……?」
「姿絵だったらクラウほどじゃないけどワタクシが描けますわ。クラウのメイド姿をちゃんと見ておけばいいんでしょう」
「エリーのマッサージ師の姿描いておくっすよ?」
「いいですわ、何ら恥じることはありませんわ、ワタクシの変装術の素晴らしさをとくとご覧あれ!」
「役者が違ったな(小声)」
「うまい言い回しですね、まぁどちらも役者みたいなものですが」
「私は貴族っす」
「私も一応そうですわ」
「一応……」
「ウケる、本業は何ー?女優?」
「本業はエリーゼですわ。女は皆、女優。生きるその姿こそが演劇ですわ」
「良い返しやな、今度使うわ」
「このセリフ商人なら使い道があるのか……」
「私も……使うね……?」
「存分に使ってくださいまし!」
「そろそろ、いいっすか?」
クラウが折れた、つまり……勝ちましたわね。今日はよく勝ちますわね。
敗北を知りたい。
いや、やっぱり知りたくないですわね。
「とにかく10くらいあった公爵家を減らしていったのはレズリー伯爵家とリッパー男爵家です」
「バンサ伯爵家は?」
「……わからないっす、少なくとも私は知らないっす」
「『クラウディア』が知らないのね?」
「『レズリー伯爵家』が知らないっす」
「────そう、ならいいわ」
わからない、つまり全く関係はないというわけではない。
クラウが、レズリー伯爵家が全くのシロではないと断定した。
そのバンサ伯爵家はピアの手にある。何をやっていたかはわからないけれど何かをやっていた。
なるほど、さてどれをどう処理するか。
「予測はあるっすけど、予測でしかないっす。だから……」
「結構、貴女が予測が精一杯で口が重いのなら確定には程遠いのでしょう?ライエン侯爵家は王家の頭脳で良いんですのね?」
「……そうっす」
「じゃあ私が当主になったら結局終わってたかもしれないですね、ライエン侯爵家」
「そうかしら?いい線いくと思いますわよ?」
王家は自分の頭脳を切り捨てた……?裏で使う分には良かったが表に出てきて宰相位が近いから危険視した可能性もありますわね。
いや、シャルロット侯爵が公爵家と仲が良いとはいえ、これを公爵家と敵対するにしてもおかしい判断、やはり王家は別かしらね?
シャルロット・ライエン侯爵が本当に病死であった可能性は、ない。
病気を押してそこら中に移動してるのはおかしいですからね、別段政治工作の形跡はない、あったらもう少し次代の際に工作の結果の不履行関連で混乱があるはず。
ですが、跡を継いだマルゴー・ライエン侯爵は特に問題なく業務を回していたはずですわ。王城で暗殺されるくらいで、しかもそれをもみ消したということはそれなりに王宮部署に顔を出すほど。パド家令もご友人みたいですし……。
妹が第1王子……いえ、国王に嫁いでる時点で当たり前ではありますけど、最初もちゃんと捜査をしていたあたり信頼はされてたはず。
よって別口ですわね。
「クラウ」
「なんっすか?」
「続けてくださいまし、それとレズリー伯爵家がリッパー男爵家王宮追放後に先代国王から命じられた暗殺業務は?」
「アストレア妃付き女官、及び連絡役の一部を事故死に見せかけた殺害。ロバツ王国主犯らしく」
「手が早いな、それがリッパー男爵家の王宮追放に功績があった連中か」
「結果は?」
「成功っす。当該妃がいないのに妃女官室を使おうとしたと給金の請求で揉めていたのでどうやっても疑われると言ったらそっちは普通に罰したっす。その後でロバツの工作員とわざと接触させてその場所を強襲して殺害したっす。表には出していないし、強襲時にはオーランデルクの関係者もロバツの工作員の確認のためつれてきてたっす、これで多少外交に有利になったっすけど、その後はあっさり降伏したんで無意味っすね」
「生かしておいたほうが厄介だったし良いんじゃないかしら?」
「それで?それだけではないんでしょう?」
「なんだか罪の告白みたいっすね」
「正当性があるんだし、ええやろ」
「罪はロバツにあるし良いんじゃないか?」
「仕事は……仕事……」
「気にするな(小声)」
「まぁ、私が生まれる前だから関係はしてないんっすけどね。後は、そうっすね……直々に命じられた暗殺で聞かされているのはそれくらいっすね」
「それで?他の仕事は?」
「それはいつもどおりレズリー伯爵家の仕事をしただけだと思うっすよ?お父様も話ししていないことが多いですしね」
「あら?ワタクシのお祖父様の暗殺とかしてたんじゃないんですの?」
「リッパー男爵家に投げられないなら拒否一択っすね。レズリー伯爵家の本職は暗殺じゃないっす」
でしょうね、できるけど本業ではないから情報収集や隠密の技術面に特化していると言うべきかしら?
マーグのほうがよっぽど向いてますしね、というか暗殺の実行部隊ってマーグのほうがやってそうですしね。騎士も色々大変そうですし。
「まぁ、先程言ったロバツの工作員に対する強襲もバルカレス男爵夫人がやってたっすから、本当に家の暗殺技術だと武装した相手には難しいんすよね」
「マジ?まぁママならやるか~」
「そうなんですの!?」
「ママ、アレで怖いからね」
意外ですわねぇ……。温和な方だという認識なんですけどね。
クラウ「弱い相手は結構殺してるんすけどね」
エリー「まぁ嗅ぎつけられてる時点でダメですしね」




