トップがいなくても回る組織じゃないとダメですわねぇ……
「それで……司法省に戻る話がなくなった……らしい……」
「ま、そうだろうな……(小声)」
まぁ、好き好んで次期王太子にも内定していた第1王子の不興を買おうとは思わないでしょうしね。
イアン・モンタギュー司法大臣も第1王子の不興を置いといても、ベガ子爵令息がそのような事件を起こしても特に大きく罰せられたわけでもない、断絶は家の罪であって個人の罪ではないわけですしね。そもそも第1王子婚約者候補に対するストーカー行為も重いといえば重いんですけどね。まぁ、私も不快だったから多少は、本当に多少は動きましたけどね。
結局ベガ子爵は親としても息子を制御できなかったわけですし……。
そんな無責任な人間を法務関係者に戻すなんていやでしょうね……。そもそもそんな人間司法省に入れたくないでしょうしね。
親として子どもを罰していないのですから……。
病死は貴族のケジメですわ。もしくは断絶前に廃嫡でも何でもしておけば、結果的に断絶後に同居したとしても断絶で職に困ることもあり、そうせざるを得ないと言い訳位は出来たはずですけどね。やったうえでダメだったのか、それとも……そもそもしていないのか。本当に病死なんだかわからない中で『病死』なのはむしろ大したものですけどね。
近衛騎士団の法務官みたいな裏方よりは司法省の法務関係のほうが給金も良さそうですけどね。実際は復帰したかったんでしょうけど。
「大した話ではなかったですわね、せいぜいワタクシに第1王子が罪を押し付けたくらいでしょう。それで?その暗殺をしたのがジャック・リッパー男爵ですの?」
「おそらく違うっす!第1王子の麾下にジャック・リッパー男爵はいないっす!それに……」
「それに?」
「雑すぎるっす、おそらくぎりぎり残っていたリッパー男爵麾下の王宮部署の暗殺担当者にでも命じたんだと思うっす!王宮部署解体後に残っていた少数の人間がこの前後に行方不明になってるっす!」
「あら、まぁ……。あら?そもそもアストレア王妃からジャック・リッパー男爵が追放された時の暗殺者達はどこへいったんですの?」
「年々使い潰されて王宮部署解体時にドサクサに紛れて処理したっす、省庁掃除課に異動してないところを見ると明確に区分けされてたか、重用したくなかったかだと思うっす!リッパー男爵家と連絡を取っていたとも思えないっす!」
「使い潰したのか、貴重な暗殺担当者だろうに」
「使い潰されるような相手にでも送ってたんだろうねー、エリーじゃね?」
「多分お祖父様が撃退して殺した連中ですわ、まぁよくは知りませんけど」
「砂糖で防壁を作って川に置いたところで意味はないだろう(小声)」
「無意味なのにやめないのはいかんなぁ……。損失が確定したらとっとと切るのが鉄則や、いつか上がると思って投資するには根拠と革新的な見通しが必要やしな」
まぁ、実際ワタクシのもとに来た連中かもしれませんけど、たいてい蛮族領域周辺で狩られたり、ワタクシにまで届くのはそういませんしね。
たまに来ても殺しましたけど……。有象無象が多いから正直知らないんですわ、拷問したところでどうせ情報は吐かないでしょうし、仮に王家の名前が出ても何ができるとかいえば……。まぁ、暗殺者を送り返すとかしか出来ないですしね、ワタクシが第1王子の婚約者候補だからこそそれは抑えていましたけど。
というか、お父様が暗殺者を送り返して国王を暗殺しないほうがうまく立ち回れると言うから王家に対しては暗殺系は何もしなかったんですけど。
単純にめんどくさかったのかもしれませんわ、お祖父様が好き勝手やってたし苦労したんでしょう。仕事が増えるのが面倒くさかっただけかもしれませんわね。
お祖父様はああいう方ですからね。
「そもそも……リッパー男爵家は王家の暗部……王家の命令で暗殺などの裏稼業をする組織をまとめていた……らしい……」
「ジャックさん、そんなとしてたんですか?」
「そうなんですのベス?……クラウ?」
「……そうっす」
「そんなリッパー男爵家の当主が王宮部署に舞い戻ってきていたのによく王宮部署解体のドサクサで処理できたな」
「監督官に舞い戻ったわけじゃないしあんま関係ないんじゃね?」
「まぁ、影響力を行使できてるならもっとうまくやれる場面はあったやろな」
「いくらなんでもそんな暗殺組織みたいな危険なところに手を突っ込むのはどうかと思うぞ?(小声)」
「そうですわ、それほど危険ならワタクシや公爵家も処理に噛ませればよかったんですわ、それこそ……」
「ああ、それならお父様がジャック・リッパー男爵から許可を取ってきたっす、もう当家は関係ないから好きにし……」
「あら?そんな大事なことを記憶から失ってましたのね」
「……今思い出したっす」
「いや、それは……苦しいだろう」
「夜会でしたらこれで政治的には終わりですね」
「大人しく謝っておいたほうがいんじゃね?」
「心配されたから思わず気を緩めたほうが悪いわな、ドンマイ」
「あえてじゃなくてマジでうっかりだな(小声)」
「仕事してる時もこんな感じですよ?」
「あら?クラウの意外な一面もしれましたわね、さぁクラウ?」
「危険だと思ったから伏せていたっす、それだけは理解してほしいっす」
別に一蓮托生、断金の契り、いまさら気にすることはなかったでしょうに……。
ベス「(そこで自分から失言する?あえてかな?)」
クラウ「(エリーが面白そうだと手を出したり、昔に喧嘩売ってきたり暗殺者を送ったりしたことを引き合いに出して殺しに行ったら色んな意味で)危険だと思ったから伏せていたっす、それだけは理解してほしいっす)」
エリー「(クラウ……感激ですわ)」




