一旦話を変えますわよ
「じゃあ、バカ王子の生誕祭でもいなかったんですのね?社交界デビューからグリゼルダ王妃が亡くなるまでの5年分を含めて主要なパーティーでも式典でもライエン侯爵家の主催パーティーでも?」
「はい、全く記憶にありません。父から紹介された覚えもありませんし、先代国王陛下の挨拶の際にも第1王子……現国王のそばには誰もいませんでした。ですので病弱なのだと思っていましたが……」
確かに胡散臭いとは言え、バカ王子出産後の肥立ちが悪く翌年死亡という病弱さを表すような話はありますけどね。本当に病弱なのかと言われると……。
どうなんでしょうね?
「で?グリゼルダ王妃、まぁ王妃は死後の追贈で当時は第1王子婚約でしかありませんでしたからそこまで前面に出ることなかったとは思いますけども。実際どうなんですの?キャス、ベス、クラウ」
「父からは病弱で顔を見ることはなかったと、母も茶会を主催しないことを不思議に思っていましたが病弱であると言われていたので……」
「少なくとも……王家のプライベートルームから出ることもあまりなかった。と、聞いています……。状況はクラウが話します」
「必要最低限の他国との仕事はしてたっす!使者の謁見に立ち会うことや王宮部署の仕事を一部していたのは確かっす!」
「あと……」
「あと!?……あっ!侍女を周辺からよく遠ざけて部屋によらないようにしてたっす!……えっ?あ、えーと……あっ!第2王子!ジョージ第2王子がよく仕事の関係で第1王子婚約者の部屋を訪れていたっす!えーと侍女立会のもとっす!たまに癇癪を起こした際は第2王子と二人っきりにしてなだめてたことがあったっす!わかってる限り5回っす!」
ふーん、なるほどねクラウの方でもそんなものね。でも5回ねぇ……。そもそも淑女としては異性と2人きりで会うのは致命的な失態……。婚約者がいる状態で行うのは正気の沙汰ではありませんわね。ま、だからこそ不義密通疑惑があったんでしょうけど。
よくあっていたのは確かで2人きりが5回だから噂がねじ曲がって頻繁な密会になったのかしら?
あとクラウ?安堵してるけどワタクシはリッパー男爵家のこと忘れてませんわよ?ワタクシが話す内容に関係があるから先に聞いてるだけですわ。
纏まったら話を戻すから今のうちに頭を整理しておきなさい、これは貴女が話すのに悩んでるから考える時間を与えてる一面もあるんですのよ?
「じゃあ、ジョージ第2王子とグリゼルダ第1王子婚約者の不義密通の話はそのへんから出たんでしょうね、ただ怪しいのが実質片手でぴったり程度の回数ではなんとも言えないですわねぇ……」
「えっ、そんな話があったんですか?」
「へー、なんか王族っぽい話……いや、家族内でそれはさすがにねーし」
「小説みたいだな、うん、浪漫があるぞ!」
いや、現実であったら最悪でしょうに。アンはもう少し現実で小説のような出来事があったらどうなるか考えたほうがいいですわ。
白馬に乗った王子様は貴女をさらいに来ませんからね……?
というか、聞き捨てならないのはピアが知らなかったことですわね。表情的にキャスも知ってるか知らないかくらい。多分信じてないけど噂があったくらいは伝えられていたんでしょうね。
「ということはライエン侯爵家でその話がされることはなかったんですわね」
「子どもに聞かせる話しではなかっただけかもしれませんが……」
「そう言われるとそうですわね……」
流石に言わないと思いますわね、うっかり外で子供が口を滑らせたらどうなるかわかりませんわ。
ワタクシでもやるかやらないかで言えば……多分やらないでしょうね。裏ではともかく表で堂々と不義密通の話題を会話でするのはちょっと……ね。
危険ではないですけど面倒事がやってくるからイヤですわ。
そもそも仮に不義密通が真実であった場合ライエン侯爵家にとって大きな痛手ですからね、なかったことにしたい出来事でしょうし、わざわざ子どもに聞こえるようなところで話す訳ありませんわね。
そもそも当主の妹が第1王子に嫁いで懐妊したと思ったらそれが第2王子との子どもだったかもなんて話、本来であれば噂であっても漏れるほうがおかしいんですのよね。どの立場でも隠蔽一択で知ったものは暗殺くらいするでしょうに。
ですがピアは知らなかった。当時は完全に秘匿ができていたと考えるべきですわね。
社交界にデビュー済みの5歳の子ども。貴族連中で噂が耳に入れば噂程度でも遠回しな嫌味にしろ何にしろ子供相手でもチクリとクギくらい刺すつつ反応を伺うでしょうに……。
当時直接関わっていなかったゲルラッハ伯爵が不義密通の話を聞かされたということはほかに聞かされた人間も副官たちに話してる可能性だってある。貴族の口は他人の醜聞であれば軽くなるもの、それがいと尊き方々ならなおさら……。法務関係者は口が硬い方が多いから重要な秘密は守られるものと過信してるところがありますからね。事が起こった後に受け入れられたということは不義密通の堂々とした話でなくとも何らかの噂は流れていたはず……。
いや、仮に噂を聞いた貴族がいてもそれだけ第1王子が信用されてなかったから第2王子の子どもが継承3位ならもし負けても儲けものと思ったのかもしませんわね。
普通は敵対派閥の人間がそれとなく言いにくるものですけどそれだけ必死に庇われていたのか、シンプルにピアがバカか。
ですがピアはバカとは思えないんですわよね。多少ブランクが長いから取り繕えてない感じはありますが。根本的な部分は貴族の教養が見て取れますわ。
仮に市井で出会った場合は変装した貴族の令嬢か貴族の隠し子で市井に紛れてるか家を追い出されたと思うくらいには普通に貴族ですわね。
うーん、現状では王妃が引き困って重要な仕事だけやってた。これだけですわ。
これが何を意味するのかは全くわかりませんわね。
「聞きたいことも聞けたし、リッパー男爵家の話に戻しますわよ」
クラウ「(こんな感じかな)」
ベス「(少なすぎるだろ)あと……」
クラウ「(もっと出さないと危ない!)」




