じゃ説明お願いしますわ、退路は潰しておきますわね
「記憶……戻ったっす」
「消えてたのか?」
「あら、良かったですわ。でも当時の記憶がないだけで今は記憶をなくしてなかったはずではなくって?」
「たまにこうなるっす」
「それは医者に行ったほうがいいと思いますけど……」
「まぁ、いんじゃね?話してもらおーよ」
「……クラウが話すなら……安心……」
「クラウが忘れてるかもしれないからベスが細く補足してくださいまし」
そう言うとベスは安心した顔から婚約者の話題を出されたときのような顔をしてうげっ……みたいな表情を一瞬だけ見せました。
クラウがちゃんと話せば仕事はありませんわ?ねぇクラウ?
あ、ようやく動揺しましたわね。遅い遅い……ベスを見て動揺してますわね?
何したんですの?
「わかった。でも……補足の必要はないと思うよ?ねぇ……クラウ?」
「そ、そうっす!」
これだけスムーズに話すということは会話前に考えるようなことはないってことですわね。頼もしいことこの上ないですわね。
ベスが饒舌なときは確証があることのほうが多いんですもの、だからきっとクラウはすべてを包み隠さず話してくれると思いますわ。
「まず……えーと……そうっすね……」
「そこまで濁すことあるんか?元暗殺者とかそんな疑惑があるくらいやろ、せいぜい暗殺者の家系とかそんなんやろ」
「まぁ、その程度にしてはバカに言い淀むなとは思うが……」
「クラウ……」
「いや、どこから説明すればいいか悩んでただけっす!それだけっす!まず王宮部署の監督官が家職なのはそうっす!代々リッパー男爵家の担当する仕事でしたっす!」
「では、なぜジャック・リッパーががその職にないのかしら?」
「憶測もあるんすけど……」
ちらりとベスを見るクラウ。間違って訂正されても見解の違いですっていいたいんでしょうね。
まぁ、地位によって見るもの見えるものは違いますから多面的な見方は重要ですわ。
続けて?
私が目で合図を送るとクラウはハァ……とため息をついてしまう。
まぁため息程度で止めるような話ではないんでしょうけどね。
「先代国王王妃アストレア様の意向っす」
「ああ、なんか産後の肥立ちが悪いとかで亡くなられた……」
「産まれたのがあの国王なら腹に抱えたまま死んでほしかったですわね」
「エリー……気持ちはわかるけどさー……」
「まぁウチらはどんな人間かも知らんからなんともいえんな」
「そもそも亡くなられた今の国王陛下の王妃様だって私は知りませんけどね、当時は婚約者でしたけど」
ああ、世代的にそんな……あれ?ピアってワタクシ達より上の世代ですわよね?
王宮部署で働けているから断絶時には最低15歳のはずですし……。
「失礼かもしれませんけどピアは……今はおいくつですの?」
「今は21歳ですね……」
「もう少しお若いかと思ってました」
「意外……」
「なんか使ってる美容品あったら教えてくれへんか?仕入れるわ」
「私も知りたいぞ!」
「へぇ……21歳……あれ?ピアはグリゼルダ王妃のことは知らないんですの?えーとそうなるとグリゼルダ王妃が亡くなった時の年齢は……」
「10歳ですね、少なくとも5歳以降のパーティーで見た記憶はありません」
「えーと何年でしたっけ?」
「王国歴858年、丁度フリードリヒ第1王子が産まれた年、当時の宰相であるホルガー・ランツィンガー子爵が会議中に報告を聞き発作で急死した年」
「ああそうそう、私が5歳の時の社交界デビューがちょうどフリードリヒ王子の生誕祭だったわ、そこで見た記憶はないしそもそも挨拶した記憶もないわね」
「年表をありがとうベス、これもしかしてなにか引っかかることあるんじゃないですの?クラウ」
「それは……いや、まだわからないっすけど……」
「そうですの、楽しみにしておきますわ」
生誕祭で顔を出さない第1王子婚約者、産まれたのがフリードリヒ第1王子なのを考えたら体調不良もあるでしょう。
いや、当時は現国王がウィリアム第1王子だったからあくまでフリードリヒ王子ですわね、王太子が確定しなかったあの次期では継承3位の王子だから盛大に祝ったでしょうね。
で、問題はその後のパーティーでも見ていないことですわ。
「クラウの話の途中ですけども……ピアにとってはグリゼルダ王妃は叔母ですわよね?知らないということは……」
「ああ全く知らないわけではないですよ、5歳以前の記憶は自信ありませんが……国王との婚姻前には会っていたらしいです、ただそのころは2歳か3歳ですので……。申し訳ありませんが記憶がありません。ライエン侯爵家令嬢時代は建前では一応会ったことがあるということにはしてましたけど、実際はないですね。そもそもライエン侯爵家主催のパーティーでも見たことがありませんし、王家のパーティーですら見たことがありません。第1王子婚約者なのでアストレア王妃が亡き後はグリゼルダ伯母上が取り仕切るべき場面は多々あったと思うのですが……」
おかしいですわね……。不義密通疑惑で疑われていたとしてもそう言うときほど表に出して仮面夫婦っぷりを見せつけるものなんですけど……。
まぁ、それをやるのが仮面夫婦と決まったわけではないんですけどね、我が家だとお母様はクセが強いですけどあれでお父様に甘えてますし。
仮面夫婦のように見えて全く違うタイプですわね。
はて?それすらしない理由とは?
ベス「(絶対自分で説明しきるんだぞ)」
クラウ「(いや、リッパー家を相手にしたくないっす)」
ベス「(相手にしたくなるうような情報エリーに伝えようか?)」
クラウ「……」




