本当に面白いとは思いませんでしたわ
「どう面白いんですの?」
ワタクシはドキドキ、ワクワク、ウキウキと続きを促す。
面白いとわざわざいうくらいだからちゃんと面白くないとだめですわよ?
そりゃあもう、国王に顔面パンチしたとか全裸で王都を一周したとか、それくらいのものがほしいですわね。
あとは趣味で芸人やってるとか、腹話術でしか喋れないとか、常にボックスステップを踏んでるとか、歌いながらじゃないと喋れないとか。
「貴族肖像画がすべて道化師の格好をしてるんです」
めっちゃ面白いじゃないですの……!?
完全に発想力で負けましたわ!その手があったか……!たしかに絶対相手は驚くし笑わせられますわね、歴代当主肖像の中に自分の肖像だけ道化師の格好……。
これはアリですわ。
あえて普通の場ではちゃんとした服で会うことによってギャップ受けもできる、その上でもしかして触れてはいけないのだろうかと相手に聞けない空気にさせることができる。そのうえで真面目に会談する、これはもう笑いをどこまで堪えられるかに寄りますわね。笑っていいのかいけないのか来客は大変でしょう。
それを見てるこっちは大変面白いんですけどね。
「えーと……それはなぜですか?」
キャスも困惑して要領を得ない質問をしてますわね。それ答えられるんですの?
「いや、バンサ伯爵家のことはよくわからないので……」
「伯爵家の決まりではないか?元は宮廷道化師だったとか」
「その時点で結構すごくね?あえて宮廷道化師をやってたやつでしょ?地位高すぎて危なくね?よく今まで残ってたねー」
「いえ、その……」
「触れちゃいけないやつみたいやな」
「確か……バンサ伯爵家は……そんな血筋ではなかったはず……多分だけど……表に出てる限りは……」
流石にベスも歯切れが悪いですわね。まぁ公式で誇る先祖が必ずしもそうだというわけではないですからね。盗賊退治をして子爵位になった貴族は実はその盗賊そのものだったなんて腐るほどあるでしょうしね。
そういう意味では怪しい出自の貴族だなんてごまんといるでしょうね。当時のゴロツキのトップが王家になっただけとも言えますしね。
そう、大抵はそんなものですわ。始まりは簒奪だったり、ただの侵略者だったり、ろくでなしの体現者そのものだなんて珍らしくもないですしね。
むしろ他の国にいる神から遣わされた救世主とその子孫という肩書が本当だったらそれこそ謎ですわね。なぜ大陸を統一して人々を救わなかったのか?
まぁ嘘だからですわね、だからこそワタクシのような人間が人の身として救世主にならなくてはいけないんですけども。
まぁそもそも救世主本人の子孫とか別に神に遣わされてないから使えなくて当然ですわね。あの国って政治不信とかどう対処してるのかしら?神の与えた試練とか抜かしてたらお笑いですわね。
いや、笑えないんですけども……。
「他の当主の肖像は普通の格好です」
「ああ、まぁ……変わり者と言えばそうだが……」
「まぁ、それくらいはたまにいますからね……。妙に派手な格好の貴族当主とか」
「貴族よりいい服着てごてごてした指輪つけてる商人とかもおるなぁ……」
「…………変わり者は多いから……」
「まぁそれくらいはいいっしょ」
「そうっすね……変わり者の貴族は多いっすからね」
「そこにほら(小声)」
微妙にワタクシ見てますわね、クラウ?なんですのその目は?逸らすな、逃げるな、目を合わせなさい?
ジーナは逆にニヤニヤしながらこっちを見てますわね、覚えておきなさい。
ベスもちらりと見てますわね。
まるでワタクシが変わり者みたいじゃないですの。
「いえ、その……道化師のメイクをしてる肖像なのです」
もっと上でしたわね、想像よりも面白いですわ。
そりゃあ自信を持って面白い人と言えますわね、これは負けですわ、降参降参!
道化師のメイクをした貴族当主肖像……こんな貴族の肖像そのものの意義を含めて矛盾したものを伯爵の地位にある人間がやったとは……。
脱帽ですわ、生きていたのならお会いしたかった……バンサ伯爵、オドニー・バンサ伯爵……。
「どのようなメイクですの?宮廷道化師の格好ですからさほど化粧は必要ないと思いますけど!」
「なんでそんな事が気になってんのや……」
「エリーだぞ?」
「そんなに気になりますか?市井の道化師のようなメイクですよ。服装は宮廷道化師ですが……。顔は白塗りで鼻を赤く塗って……えーと……あとは肖像によってまちまちですね」
「ピエロ……?」
「肖像そんなにあるの?へー……本当に伯爵が職業なの?」
「多分そうです、あとどんな感じだったかな……」
「目の部分に星のメイクを入れてるもの、両目の部分に細い線をいれるもの、涙を流したメイクもあったっす」
「随分と数が多いな、本業は諜報か?」
「だったらレズリー家が知らないわけ無いっす」
「それで元の顔はどんなものなんだ?」
普通の声で聞くほどジーナも気になってますのね。ワタクシがメイクしてあげましょうか?優しそうな司法大臣メイクにでも……。
「いえ、それはわかりません。それらしき肖像画が見当たらなくて……」
……え?
エリー「この発想がないからワタクシは……!いずれ立派な役者になってみせますわ!」
キャス「まず公爵令嬢を常に演じませんか?あと役者を本業にしないでください」




