厄災に向かう令嬢
「ピア先輩、この後はお暇なんですよね?この後誰も来ないと考えても?」
「ええ、誰も来ないわ。この屋敷に来る人間なんて私が呼んだ人だけ。来たところで留守ばかり」
「一応警備がいるとはいえよろしいのですか?」
「ああ、あれ?もういっちゃうけど最低限の警備も実は騎士団の派遣。近衛騎士じゃないから信用はできるわ。少なくとも屋敷の財産を奪って逃げることはないでしょう、王家の命令でもない限りは」
あっても動かないだろうな、バルカレス男爵は……マーグの父親だけあってその手の命令は大嫌いだ。
近衛騎士にさせようにもゲドリドル近衛騎士団長はバルカレス男爵の右腕だ。
いままで何の動きもなく令嬢一人が生活する屋敷を何の容疑で捜査するにせよ財産の押収なんて拒否するだろうし、警備していた騎士に事情を聞くだろう。
ありえぬと判断すれば今の王家だ、命令拒否するだろうし場合によっては抗命もあるだろう。
これで騒ぎになればエリーが新聞社を使って書き立てる。
把握した事情をこねくり合わあせて王家がライエン侯爵家の財産目当てで暗殺し断絶、財産を没収しようとしていたところで忠臣からライエン侯爵家息女の助命をされて意見を飲まざるを得なかったためにずっと財産没収の機会を伺っていた。
これによって旧ライエン侯爵家と相続予定のバンサ伯爵家の財産を国庫に入れて部下もいない令嬢を犯罪者に仕立て上げ処刑を企んでいる。
とでも書き立てるだろうし、王宮に連行されたこととバカ王子こと第2王子の名前も出せば王家は第2王子の癇癪で女を拐わせて財産も奪おうとしたと考えるだろうし、そういう意見に誘導するだろう。
王宮で脳みそ性欲下劣バカ王子の部屋で2人きりで引き合わされたなんて醜聞にしかならない、醜聞しかならない……?
よく考えたらなんでこれが醜聞になるんだ……?私達も王都の民衆も麻痺してないか?
普通は名誉だったんだがな、第1王子がいた頃はそうではあった、私は国家を捨てる選択をしたあの色ボケには欠片も評価してないが……。
いや……なにかおかしくないか?本来は王家を貶めて王朝交代論や第2王子廃嫡路線に持っていくはずだが……。
そこで王位の継承で筆頭であるガルニ・ライヒベルク先代公爵、ゲハルト・ライヒベルク公爵、次期公爵エリーの三人がいる公爵家を推して継承を変え国民に王国の安泰を宣言する予定だったはずだ。
廃嫡されたゴミに価値はないからエリーが婚約を破棄し……次期王太女か王太女に就任する予定のはずだ。
果たしてエリーが王太女になるか、もしくはライヒベルク公爵が王太子になるか。
その程度の話だったんだが。
民衆の空気は危うくないか?もはや王家を見限っているのはそうだが、何だこの不安は……。
本来は次期国王のお手つきになることは別段不名誉になるはずが……。
いくらなんでも、あのバカでもだぞ?王妃はともかく側室にしろなんにせよ……。
「もし……」
「ん?」
「もしピア先輩が第2王子から言い寄られたらどうしますか?未来の王妃にするとか言われて」
「あれから?もちろん殺すわ」
清々しいほどきっぱりと言うな……。
「……ちなみに理由は?」
「あれが王太子になったら国が終わるし、国王になったら国民が終わるわ」
「王妃として手綱を握って処理できれば……」
「私にできるわけ無いでしょう?貴族としてはまともに教育は受けてないし、貴族学院も除籍で存在すら消されてるのよ?」
「存在を?」
「いたら困るでしょう?断絶したライエン侯爵家の息女なんて、助命ですらその後は修道女にでもなってると思われてるんだから。私の存在を知ってるのは当時の高官か伝え聞いた人たちだけでしょう。でもまぁ、人の口に戸は立てられぬとも言うし、生きているだけならもう少し知ってる人は多いと思うけどね……。顔まで知ってるのは……そうね……ルーデンドルフ侯爵は知ってるかも、ゲルラッハ伯爵も知ってると思う。えーと……公爵様も知ってるんじゃないかしら?宰相は多分知らないわ、私も知らなかったし死罪通達の時もいなかったはず、確か……多分……。あっ、レズリー伯爵は知ってるはず」
父上!なんでそんな大事なことを……!言うには言ってたか……情報程度で。
助命されて生きてる話で十分と言われればそうか、1年前に伝えられてもそうかとしか思わないしな。
エリーに言ったところで「はー……そうですの。はー……」とかで終わるだろうしな。
「それにアレじゃあ、側室どころか使い捨ての愛妾にされて飽きたら毒殺でもされるでしょう。仮に王妃となったとして民衆に殺されるか、国が荒れてロバツに攻め滅ぼされるか、蛮族が攻めてくるか、公爵家が潰しに来るか……。仮に子どもでもできようものなら……これほど厄介な存在はないでしょうね。2代続けてライエン家からの血筋だなんて……滅亡していたとしても厄介事が舞い込むでしょう?何なら私が死んだら合法的に財産も没収されるし、従姉弟婚するほどの問題があるのかとか、公爵令嬢を押しのけて据え置く意味もないし、第一……どうあがいても公爵家に処分されるじゃないの」
「……たしかにそうですね」
この考えができる人間にそう思われてるのはわかる。
民衆が同じことを考えていたら……予想より末期なんじゃないか?
レズリー伯爵「ライエン家息女は助命されて生きてる、あとこの家は孤児院に送られて病死してて」
クラウ「うん、聞いた話は覚えた」




