賭け事の理由
「ま、誰でもいいわね。私の勘が囁いてるわ、安心しろ、もういいぞって。お願いするわね?ああ、メッセンジャーとして使われて利益がないってことなら別になにかお礼するわ。なにか求めてるものは?お金?肩書?ある程度は融通がきくわよ」
「……」
な、だからこういう野生の勘相手は嫌なんだよ。エリーに紹介するしかないと諦めた途端これだよ。まったく……厄介だよ。
欲しいものなんてなにもないさ、与えられるものなんていらない。勝ち取ったものが欲しいんだよ。
勝ち取るしかないから余計欲しいんだ。勝ち取らなければ失うから欲しいんだよ。
与えられる程度のものは私達は持っているからね。
「いらないの?それとも……私程度では与えられないもの?」
「端的に言えばそうですね」
「そう、じゃあ公爵家ね」
そうだがなぜ……?
なぜあっさりとその結論にたどり着く?外国の工作員である可能性だってまだ十分あるだろうに……。
私が貴族が嫌いで何もかも引っ掻き回そうとしている危険人物である可能性も捨てきれないだろう?
「何故ですか?」
「何故って……。勘よ」
「…………」
「冗談よ、そうね……伯爵家、まぁ一応元侯爵家の息女ってある程度財産はあるのよね。流石に財産没収はされてないの、一応表には全財産は国庫にっていうけど断絶って文字通り誰も継ぐ人がいないからこそ王家が国庫に納めるのよね。謀反断絶も皆死ぬわけ、でも私は生きてる。はたして幸か不幸か……。命を助けられ、断絶した家に近い親戚が必死に頼み込み、父の親友が頼み込み、命と財産だけは相続された」
なるほどね、流石に本当に断絶した、させた家の財産を相続させてるとは私も思わなかったよ。
ならば何故……あんなにギャンブルで賭けを?これで生きているというのは私へのブラフだった?そうだとしたら最初っから負けていたわけか……。
「つまりツテはあるのよ、そんな私でも与えられないものは大臣の地位とか……でも私に工作する意味もないし……。そう考えるとそれ以上のものを求めている、そんなものを求めそうなのは公爵家かなって感じ。財産もあっちが上だろうし」
たしかにそうだな、求めてるのは王位だしな。正確には大陸そのものだが。
多分金は一番あるな、エリーは。
「まぁ私のにある財産と言っても領地継承はダメだった、まぁ、あたりまえよね。屋敷も断絶を命じて相続させるわけにはいかない。別に法的に問題はないと思うんだけどね。屋敷だけは同額の代金、家にあった財宝は大まか処分して物を変えて後は倉庫ね。手元に残ったのは大量の金貨、この期に及んで離れなかった父の……侯爵家の部下の人たち……」
「お金はあったのですね」
「そもそも平民が派手に使えないでしょ?結構念入りに隠してるしね」
ああ、正直想定外だったからな。今でもなんでこんなところにいるんだよって思ってるよ。
「だから賭け事で小銭を稼ぐのよ。大金貨が腐るほどある家なんてヤケクソで強盗に襲撃されたらいつかは死ぬわ、人を雇っても信頼できなければ強盗に早変わり、王家も大金を持った平民が雇った警備や護衛に殺されただけなら知らん顔して自己責任で終わるか、なんなら王家が雇った警備や護衛を唆すくらいはするんじゃない?」
するな、絶対すると思う。
ただでさえ金がないこの国の財政で金を持った元貴族の平民が死ぬ。しかも雇った警備や護衛に殺されるときた。
ついでに犯人を殺して口封じ、財産はもちろん没収、リッパー男爵家に行くかもしれないが……。どうせ阻止するか王家の権威を持って放棄させるだろう。
先代国王ならまだしも今代のアホ国王の権威が通用するかわからんが……。
しかも助命した相手で残ってる中では唯一の親族か……。王家の関与を疑われたら流石に心が離れるんじゃないか?
もう離れてるかもしれないけど。
「では、賭け事で生きているというのは……」
「金貨で毎回パンなんて買える無いでしょ?大金貨なんてもちろん使えないし、王城メイドの月収の1000ヶ月分をコロコロ両替してたら嗅ぎつけられて終わりよ。そもそも両替したとして金貨1000枚持って帰るの……?重すぎるわよ……。使い道なくて本当に困るわね……」
まぁ普通の貴族なら適当に大金貨で買って細かく崩すだろうしな。
貴族の屋敷に住むメイドなら事情を知らなければ住み込みで働いてると思うはずだ。
それが大金貨を交換して毎回持ち帰ることが続けば流石におかしいぞとなる。両替を任せるのもおかしいが、何度も任せるのはもっとおかしい。
普通は横領の方を疑う、次に帰り道を襲撃しようと考えるだろう。普段のピア先輩が仕事以外で場所を使うのかはわからないが……おそらく使わないだろう。
馬車も単純にここから王城へ行くのが楽だから、乗っていても誰が乗ってるか知らないし、わからないからという理由の使用だろう。
馬車を停車位置に持っていった後はしれっとしていればいいのだし、おそらく……担当者もメイド服だからなにか用があると思っているのだろう。
もっとも馬車の運転手を毎回変えている可能性もあるし、馬車に家紋がないから下級官吏の報告だと思って一切記憶してない可能性もある。そんな給料もらってなさそうだし……。
「では本当に死活問題だったのですね」
「そう、おかげで大変なこと大変なこと……」
金はあるのに使えないって飢饉の時の状況のようだな。
なんにせよ飢饉にあっている令嬢を災害の前につれていかなければいけなくなった私の苦労を知ってほしいものだけどね。
仕方ないね……。
国王「王家の信頼低すぎ……」
エリー「当たり前でしょう?」




