マルゴー・ライエン侯爵とシャハト
オーランデルクはこの婚姻に依って同盟国を作りロバツへ対抗したかった。
アストレア先代王妃はだからこそ親オーランデルク派を作り、反ロバツの強化をしたかったのだろう。
結果的に先代国王は直属のリッパー家を王宮から出す羽目になり、土下座を一緒にするほどの友人かつ側近ジャックを失うというひと粒で二度痛い損害を出した。
これでは王家から暗殺指令を出すのにも打ち合わせや独自裁量の範囲を与えるのにも無駄な手間がかかる。今回はここまで、コイツは必殺、あとは臨機応変みたいなことはひっそりやったほうがいいのに間に人を挟まねばならない。
王宮部署はその関係で存在した組織だ、まさか直属暗殺家のリッパー家を王宮から出す羽目になるとは流石に思わないだろう。統率してる家を叩き出すなんて信じられない。
が、アストレア先代王妃の顔を立てねばならず、そのうえ当時のロバツは戦争に強かった。ここでしっかりと同盟を結んで対抗しなければならない、事が終わればリッパー家呼び戻そうとして機会もなく、王妃も病死、しかし呼び戻す理由はなく、ロバツ王国は先々代公爵と先代公爵に叩き潰され、好戦派筆頭の将軍を数人打ち取りろバツ戦線は安定した。
あらためてよくこんな公爵家にあんな仕打ちが出来たものだ、いや……あれだけ強かったロバツ王国を完膚なきまで粉砕したからか?もしくは対ロバツ戦争で何らかの功績を上げたことにしてリッパーを復職させるつもりだったのかも知れない。
わからなくもないがよくもあの時期にやったものだ。
さすがにロバツ戦争では報奨は適切に出したらしい。
「政治的ですか……。重役でもなければ友人の一人くらい不祥事を起こしたわけでなければいいのでは?貴族は大変ですね」
「まぁ、政治的な話だしね、私も幼い頃だからその手のことは叩き込まれる前だったし、そもそも実家の断絶で知識として仕入れる理由もなくなったからね。勝手に殺し合えばいいんじゃない?私を巻き込まなければどうでもいいよ。紅茶の入れ方は一度覚えれば役に立つけど政治のノウハウは地位が落ちれば使いようがないからね。淑女教育のおかげで生きられるかと思うとホッとするわ」
「王国は女性当主にも寛容ですしね」
「当主同士婚姻だったら2人産んでどっちも継がせればいいからね、最悪爵位を残して家や組織領地の統合もできるし便利なものよね」
「そうですね、市井のお店じゃそうもいきませんからね」
「パン屋と喫茶店じゃいいけど鍛冶屋と花屋じゃ相性も悪いしね、そう考えると貴族ってめんどくさい家臣のことを考えなければ楽なものよね、私の実家も優秀だけど面倒な部下がいたし、まぁ独立したようなもんだけどどこいったんだか」
優秀なやつはめんどくさい決まりでもあるのか?
それともめんどくさいやつだから優秀に慣れたのか?疑問だな。
「行方不明にでもなったのですか?」
「お父様が死んだ後逃げたんだって、まぁ後見人が言うにはいちゃもんで断絶させられたわけだしね。責任取らされて殺されたくなかったんでしょ、わかるよ」
「恨んでいたりはしないのですか?」
「彼がいたところで断絶から逃れられなかったと思うし……。私でも逃げるもの、自分でも逃げる状況で相手に逃げるなっていうのは違うと思うしね」
「どんな方ですか?他国へ逃げてるかも知れませんよ?」
「いや、多分殺されてると思うな~。あれで逃げられたら大したもんだと思うけどね」
「何か危ない容疑でも?」
「いや、ありったけの財産を馬車に積み込んで妻と娘を捨てて逃げたくらいだし……どっかで野盗に襲われて死んだか王家の追手に殺されてるでしょう」
「…………外道ですね」
「でしょう?私嫌いだったけど仕事はできるみたいでね。大臣をやっていたの」
ライエン家で働いてて大臣?まさか……。
「シャハトって人、昔経済大臣やってた人」
あー……あのクソ……。野垂れ死んでるんじゃないかな?
「そんな人が!?」
「うん、公爵家とレズリー家と王家と断絶した実家の残党に命狙われてるからどこかが殺したんじゃないかな?」
「実家の残党?」
「私の実家は取り潰されても寄子貴族とか取り潰されたわけじゃないからね、シャハトが我が家を売ったとか思ってる人たちは結構いたし、お父様を暗殺したんじゃないかって」
「えぇ……」
「お祖母様の暗殺もした話もあったわね、まぁそれだけ嫌われてたってことだと思うけど。元は平民だしね、貴族の人たちがいい顔しなかったんでしょ、結局王宮に仕えるようになって半ば独立みたいな感じで出ていったみたいだけど連絡役の仕事してたんだって、お父様が信頼できるって言ってたのは覚えてる」
あれを信頼ねぇ……ジョージ第2王子の取り巻きみたいなもんだったと思うけど。
いや、取り巻きの取り巻きだったかな?あんなのが信頼できるってことは中からはそれに足る人物だったのかね?それとも最後のライエン侯爵であるマルゴーに見る目がなかったか。
ああ、そうかマルゴー・ライエン侯爵がシャハトの反対派を抑えてたのか。ライエン侯爵家は流石にレズリー家が叩くには厄介だったしな……。
シャルロット・ライエン侯爵時代と比べればだいぶ差はあるとはいえ腐っても侯爵家だしな。
シャルロッテ「娘を第1王子に、夫の実家の血筋が第2王子母に、安泰ね」




