いや、いまちょっと忙しくて……
王城清掃をしているシャディのもとに届いたのはエリーのお茶会のお知らせ、シャディことクラウディアは仕事を投げ出すことはできないと父の忘れ物を届けにきたが見当たらないので王城に参内しましたとすっとぼけるレズリー伯爵家からの連絡役の暗号にそのように答えたのでした。
あー忙しい忙しい。
「シャディってさっき何聞かれてたの?」
「ああ、レズリー大臣を見ませんでしたかと聞かれたので今日は見てませんと」
「え、さっき王城図書にいたわよ?」
「え?そうなんですか?まだ王城にいますかね?」
「うーん、まぁシャディは知らなかったんでしょ?そんな給料もらってないしわざわざ言わなくていいんじゃない?」
腐敗ここに極まれり、と言いたいがこの給金ではそう言いたくもなるか。安いしな、今日の清掃だけでもう給料分の仕事しただろう。むしろ清掃だけで給料分とも思えない、増やせ!
まぁ、だからここで稼ぐんだけど、いや金に不自由するような家ではないけど。これはコミュニケーションの一環だ。だから工作費は家から出る、出るったら出る。
「じゃあ、いいですね」
「そうよ、とっくに掃除も終わって後はいつもの時間なんだからね」
「待ってました!」
「貴方も大概ギャンブル好きよね、身を滅ぼさない程度にするのよ。私はこれで生き延びてきたんだけどね」
「ギャンブルは5歳の頃に一番大きい賭けをしたのでそれに比べたらひどく楽です」
エリーゼ・ライヒベルク公爵令嬢に全ベットしたからな、いまの頭で5歳の頃に戻れたら家を含めて全部をベットしただろうか?
したかもしれないな、5歳の私から見てももはや王家は敬意を払う価値はなかったのだから……。
だからこの程度は端金、お茶会に贈れるのも情報収集でしょうがなく、本当にしょうがなく。
本当だからな?
「掃除中も今日はポーカーにしますかブリッジ?とかやたら聞いてくるからなんか不安だったけどそんなときから勝負師なのね」
「勝てば総取りと勝ち抜きって素晴らしいと思いませんか?」
「まぁ、賭けてもないのにチップにされて消費されるよりはね」
「第2王子ですか?」
「あの下半身性欲バカじゃないわよ、あんなのにチップにされて消費されたら流石に刺して逃げるわね」
メイドすら側室も玉の輿も狙ってないと見るべきか、その程度の面倒も見ない相手に身を委ねたくないからというべきか、どちらもかそれ以外に不安要素が多いからか、悩ましい反応を見せるピア先輩。
この短い会話で私が銀貨を5枚失っていた現実が冷静さを促す。
「消費でもされたんですか?」
「6年前にね、それからは振り回されるばっかで……」
コンコンとノックをされ、大丈夫ですよと伝えるピア先輩の答えを聞くとあっさりと扉が開く。
「やってます?」
「見ての通り、私が勝ってますよ?さぁ、さらなる勝利を私に与えてくださいますか?」
「今日は私が打ち負かしますよ、ピアさん」
「大丈夫ですよってなんだったんですか?」
「ここ着替え場所でもあるからね、うっかり入ったらパド家令は解雇のあと裁判所よ」
「離婚されてしまいますよ。おお、恐ろしや恐ろしや」
ここで着替えてるの?ここは休憩所では?ああ、メイド休憩所か……。そりゃ従者とかは入ってこないか……。
「私はここがメインだからね、着替えも何も全部ここでやるのよ」
「ほかは閉鎖されてますしね、メイド用の着替え場所は遠いですし」
「王宮部署の解体で私もメイドになっちゃったしね」
「元は違ったのですか?」
「ああ、元は王宮部署の……」
「ピアさん、ダメですよ……王宮部署の名前を出しては……漏れたら公爵家から殺されますよ?」
「私はただの案内役でしたし、悪事に手を染めてた人はみんな消えましたからあんまり関係ないですよ」
「公爵家がそこを配慮はしてくれないでしょう」
へぇ……ピア先輩って元々は王宮部署の案内役だったんだ、ってことはエリート女官だったのか。王宮の顔だからな、王宮部署案内役は何人いたかはわからないけどその中の一人というだけで相当な地位と評価だしね。いまと比べるとだいぶやさぐれたのか……いやこの給金で真面目に働く気は起きないか。王宮解体は4年前だしね。
というか公爵家のイメージ悪!
「公爵家ってうわさ話だけで人を殺すような家なんですか?」
「いや、過激ですからうっかり巻き込まれて死ぬくらいはあると思いますよ」
「私は別に……あの時に殺されてないのなら多分問題はないでしょうしね。せいぜいその日までここでトランプでもやってます、パド家令?残念私の勝ち」
「そんな……金貨が……」
「ちゃんと家もあるし暮らしに問題はないから危険だったら仕事辞めて逃げますよ、別に他の国でも暮らせるくらいは……」
「まぁ、それは私も同じですね。いざとなったらベッド下のカバン持ってすぐ逃げます」
公爵家の評判悪!巻き込まれたら逃げる気満々なあたり王家に殉じる気はサラサラなさそう。当然だと思うけどな。
その後は数試合を繰り広げ、今日はまぁまぁ負けた。まだ明日がある……。
あ、お茶会いかないと……。いかないといけないっすね。
「シャディちゃんは今帰り?どこ?平民外の入口までなら乗せてくよ?」
遠くなるな……。でもなぁ……乗せてく?
「乗せてく?」
「一応馬車の送迎あるからね、どう?乗ってく?」
「ええ、貴族街の入口までお願いします」
馬車ということは貴族関係者、まぁそうか……元エリート女官が平民である可能性はそうないし。王宮部署案内役の肩書があればほかでも働けるしな。
仕事がない平民がメイドをやっているのと元エリート女官がメイドで席を置いているのは全く違う。
事前に調べた情報だと一応平民のあたり貴族の血縁か愛人か建前上認知でもされてないのか……。パド家令が採用したこと以外不明だからな。俺もこの期に及んで残ってる人間を調べても怪しくなければ深堀りなんぞ……。
「どうせだし一杯飲んでく?今日はパド家令早めに負けちゃったしね、明日は金貨多めに持ってくるわよ?あれは」
「それは楽しみですね、では1杯だけ」
まぁ、お茶会の前にお茶を飲んでもいいだろう、どうせまだお茶会は開かれまい。
集まるのはもう少し後だろうしな。
使者「レズリー伯爵令嬢は遅れるそうです」
エリー「そう、大変なのね……」
シャディ「はい、上がり。総取りですね」
パド家令「あっ!」
ピア「セブンブリッジは強いのね」




