ジョージ・サミュエルの賜死って……まずあんまりその方知りませんわね
エリー「醜聞しかない王家ですわね」
国王「醜聞公爵令嬢がよ……」
「まず、ワタクシはあまり王弟殿下を存知ませんわ、まぁ亡くなった時は第2王子でしたからというのもあるでしょうが……」
「そうでしょうね、醜聞の方は?」
「まったく」
「まぁ……醜聞の方は……冤罪ですからな。わざわざ話さぬでしょうね。よほどの阿呆でなければですが」
どちらかといえばクラウかベス、キャスの方でしょうね。その手のものは。
私自身は宮中政治を回す力がない。私自身は、ですけどね。
そのために棲み分けしたわけですからね、武力と内政がワタクシ、宮中政治はお父様、対外外交はお母様、その横で陰謀担当がお祖母様お祖父様。他国で大層暴れてるでしょう。
それにしても冤罪で賜死とは驚きですけど、冤罪ということになったのか、本当に冤罪であったのかは重要ではありませんこと?
「冤罪?冤罪にされたのですか?」
「──いいえ、間違いなく冤罪です。当時はわかりませんでしたが」
「あれがなければ……もしくは冤罪でなければね……」
冤罪でなければ?あればよかったみたいなことを……。
謀反?じゃ賜死なわけ無いですわね、それこそ病死か急死で……もしくは処刑でもいいはずですし……。
「それは言えることですか?」
「ええ、今となってはただの冤罪、馬鹿らしい話ですよ。荒唐無稽な、おとぎ話ですかね?どうですルーデンドルフ侯爵?」
「さて、どうでしたかね……。証拠はなかったですよ。状況証拠はありましたけどね、直接なものはなにもなかった、父はそう……報告しましたね……」
「お父上は当時警察の長官でしたか?」
「ええ、それと王城警備関連の仕事をしてましたね、もっとも数年後には辞めざるをえなかったのですが……」
「それは……その事件に関してですか?」
「はい、冤罪でしたからね。発覚してからは長官の方は据え置きで済みましたが……おかげで刑事局捜査課に異動になったのですよ」
「それは公然の事実なのですか?」
「はいでもあり、いいえでもあります。ゲルラッハ伯爵?私では知りすぎているので……お願いいたします。一般に伏せられているが知っている人間が知っている範囲の話を」
ある程度は知られてるけどと言ったことですか。
まぁ、言うほど驚くようなことでもないでしょう。
「ジョージ第2王子殿下がウィリアム第1王子婚約者グリゼルダ・ライエン侯爵令嬢と不義密通をしている。以上です」
は?
「生まれてくる未来の第1王子はジョージ第2王子殿下のお子である。計算ずれか、身に覚えがあったのか、不信がウィリアム第1王子にあったのか。とにかく捜査され、逆算した時期に寝所近くにいたジョージ第2王子の目撃情報があったり、ウィリアム第1王子が国王陛下に訴えて捜査の状況証拠をいれてでてきた結果が賜死ですね。結果的に生まれた子供が成長するに連れて疑惑が溶けた、髪の色がジョージ第2王子は側室の母親と同じ茶色だったのですよ。だが成長した姿はウィリアム第1王子と同じ金色、そして当時婚約者だった王妃様は銀色でした。以降この時の上層部だけが知っており、これはタブーになった。それだけです」
ああ、それは冤罪ですわね。ただでさえ少ない王家が数を減らしただけですわね。
なんでまたそんなことを?
「そういえば子供もいるのに王太子の儀は行ってなかったんですのね、結婚式も」
「────今と同じといえば?」
ああ、今のバカ第2王子みたいな第1王子だったんですのね。
「当時このことを知っているのは?宰相閣下とかですか?」
「いいえ、宰相閣下は陛下の即位後の任命ですので知りません。せいぜい賜死を受けたことくらいでしょう。こんな話し漏れませんからね、漏れたら死にますから。私の知る限り法関係ではアルベルド司法大臣、その秘書官だった私くらいです」
「お父様は?」
「内務大臣就任前だから知らないかと……おそらくですが」
「私が父に着いていった際には外で待っていましたが……退出したのは当時の司法大臣アルベルド伯爵、財務大臣シャハト氏、軍務大臣先代ヘス伯爵、当時の宰相ホルガー・ランツィンガー子爵、パウエル子爵。王の相談役だったメンバーですね」
「ランツィンガー前宰相のことはあまり知りませんね」
「第1王子誕生後に過労でなくなりましたから」
「そんなに忙しかったんですか?」
「…………公爵家が王家に税を払わなくなったのがこの時期です、この頃のほうが多少払わない程度でしたね」
それは自業自得だから知りませんわ。
「そういえばこの時期から王家が公爵家に対して対立姿勢を出し始めましたね。ジョージ第2王子をそそのかしたとでも思ったのかもしれません、先代公爵も血の気が多いのでこちらも引っ掻き回されて大変苦労……失礼しました」
「いえ、お祖父様はそういうところがあるので。家族でも知ってますわ」
あの人は自由に生きてますからね。
なんですのその目は?
「まぁ、そうですね」
「それは否定することはないですからね」
「ええ、そうでしょう?」
「まぁ、陛下も公爵を内務大臣に付けたあたりで融和に舵を切ってましたが……」
「あら?前国王陛下が?意外ですわね、てっきり……」
公爵家の行動を阻害するために激務の職を与えたのかと思いましたわ、王家派閥を動かして仕事を停滞させるとか。
嫌がらせの一環だと思ってましたわ。
「確かですよ、まぁ建前では公爵の、ああいえ当時のゲハルト公爵子息の婚姻を理由にしてましたが……アルベルド司法大臣から聞きましたから。当時は裁判所のほうで実務を積んでましたが一応当時は未来の司法大臣候補でしたからね。イアン・モンタギューの次にですが……」
「ゲルラッハ伯爵も優秀だと思いますわ」
「いえ、アルベルド・ゲルラッハ伯爵のあとを継ぐのは彼のほうがよかったでしょう。彼が自裁した際の遺言を聞いた時にはそう思いましたよ」
「ああ、あれですわね。遺族に報いる覚悟は確かにそうですわね……。ワタクシも彼は立派な司法大臣だったと思います」
「でしょう?」
おちゃめにウインクをしたマッセナ・ゲルラッハ伯爵を見て、彼がアルベルド・ゲルラッハを慕っていた理由が能力以外にもちゃんとあることを知って、なんとなく私は彼の本当の人間らしさを初めて垣間見た気がしますわ。
ええ、本当に……彼ら2人は立派なことですわね……。
でもきっとジーナも負けていませんわ?
アルベルド「マッセナ、お前が将来の司法大臣になるためには各部署の下積みが必要だ」
マッセナ「はい!」
アルベルド「イアンのやつは能力があるが仕事以外が疎かになりがちだから家庭はちゃんと見とけよ」
マッセナ「はい!」
アルベルド「じゃあ裁判所で経験を積んできてくれ」
マッセナ「はい!」
アルベルド「うっ……」
イアン「空席が1年なので繰り上がり私が司法大臣になりました」
マッセナ「最高裁判所長官でも目指すか……」




