かくして新たな役者は舞台に立ち
「アウストリ死刑囚?お答えをどうぞ。裁判の結果は決まりましたから御子息を族滅で処刑するかどうかです。もちろん不貞であれば証明の必要はありますが……。それは別の裁判で行えばよいでしょう。奥様……失礼、元奥様も出廷して証言していただきましょう、誰と不貞を働いたかを……。ああ、失礼しました。不貞と決まったわけではありませんでしたわね。では死刑でよろしいでしょう」
今のアウストリ被告は頭の中でそろばんを必死に弾いているだろう。
欲張りすぎだ、王家に忠誠を捧げて息子も守りたいのならどちらかに集中するべきだった。貴様らは敗北する危機感と奪われる危機感がなさすぎるのだ。
文字通り役者が違う。お前が勝つために出来たのは哀れで愚かな愚者となり傍聴人が怒りから呆れに変わったところで不貞をでっち上げて一挙に同情を誘うことだ。
嘘でも公爵の名前を上げておけば少しは戦えたかもしれないぞ?おそらく娘仕込みの法廷ミュージカルで不貞はなかったと証明するまでの短い間だろうがお前の株は上がって子供も保護されただろう。
場合によってはその不貞を認めて、お前の眼の前の蛮族がいいように利用したかもしれないがな。
義弟から王家の陰謀が出てきた、義父の計画と話していると会議で騒いで何故か新聞に掲載されるまでいったらもう王家も立ってはいられないんじゃないか?
5歳の言葉は信用に足らないと阻止してくれたら最高だな、逆手に取って王家派閥の子息に公爵家の陰謀を嘘八百を流して大問題にして同じことを言い返すぞ。
なぜ国王の信頼厚いアウストリの子息の言葉は信用せずに他は信用するのか、勘違いとは言え命を張って戦った人間の息子をここまで冷遇するのか、不貞の子であれば王家は協力した忠臣の関係者を見放すと好き勝手新聞に書き立てるだろう。
貴族も同じだ、不貞の子だと宣言通り信じるやつなぞいない、公爵家が同情して引きとって手駒にしてるだろうと言う認識になるだろう。
あれだけ体を張って王家を庇って死刑に処されたアウストリの嫡系を見捨てるたら、ただでさえガタが来てる国王陛下のお友達は何処までついていけるんだろうな?次は自分が使い捨てられ子供も見捨てられるとなれば……。
お前は見れないだろうが楽しい光景が待っているぞ?
「……」
「黙秘ですか、裁判は終わったのですが……まぁ、結構です。ではアウストリ死刑囚の死刑、もとい処刑後に御子息の処刑を決行します、お早く」
忠誠にいったか、判断が遅いね。お前は失策を犯しすぎたっていうのにな。
で?どうするんのエリー?
「さて、この裁判は終わりですね。では次はヴィルヘルム・サミュエル第2王子を告訴します。証人としてアウストリ死刑囚の出廷を求めるため死刑執行の一時停止を司法大臣に求めます」
ん?
……あー、はいはいそういうことね。
「認める、裁判に必要であるなら証人としてアウストリ死刑囚への出廷を許可し死刑を一時停止する」
「証人を拒否します!」
「理由は?」
「なんの証人かわかりません!なぜヴィルヘルム第2王子殿下を告訴するのですか!私には関係ありません!」
「理由にはなっていない、それにそれはいまから説明するだろう」
「ええ持ちろん。アウストリ死刑囚、おかしいですね?アウストリ死刑囚は確かに弁論ですべて認めると言ったではないですか?質問内容はすべて認めたことになりますが、なにせ元次長検事ですからそれくらいはわかっておられるでしょう?」
「それがなんの関係があるのですか!」
「証拠調べと論告に同じ質問がありますよ?ほら、見てください『第2王子が関与していたか?』貴方はすべて認めるとおっしゃったではないですか」
「は?第2王子が……?関与できるわけが……!」
関与できるわけがの中に知性の文字が抜けてるぞ。傍聴人の貴族も?が頭に浮かんでるぞ。
「ヴィルヘルム第2王子は司法大臣暗殺未遂に関わっていたこと、及び他の暗殺時家を指示していた疑惑があなたの証言でわかりました。ですが第2王子を立件する勇気がある人はいないでしょうね。ですから我々公爵家が告訴します、公爵家の関係者の暗殺未遂もありますので。ああ、先代国王を国家の法の原則を守り機密漏洩罪で起訴したアルベルド・ゲルラッハ伯爵のような方がおられれば!ああ、彼のような方が今、いままさにこの王国に必要なのに!御子息がおられれば……!彼の崇高な精神を引き継いだ立派な御子息がおられれば!」
その立派な御子息はさっき死刑囚になったよ。
裁判長すごい笑顔だな、裁判中は鉄面皮ゲルラッハなのになんかいいことあった?分家の元当主が死刑になったとかかな?それともキレの良い嫌味でワクワクしてる?
あんたはどれだけ煮え湯飲まされてきたんだ……。
「彼のような方がおられれば!そうすればヴィルヘルム第2王子殿下のこのような暴挙を阻止してくれたというのに!先代国王の信頼厚いアルベルド伯爵が国王陛下のお傍に控えていただければこのようなことはきっと起こらなかったでしょう!」
もう確定事項のように話しているな、きっかけはアウストリ死刑囚で、しかも裁判は
終わっている。全部認めたうえで死刑では控訴も棄却だしな。
「撤回します!」
「裁判は終わりました、証言したアウストリ死刑囚は公爵家が告訴したヴィルヘルム第2王子の裁判で証言するように」
「この裁判を控訴します!」
「ヴィルヘルム第2王子の関与証言はアウストリ死刑囚の死刑を覆す、もしくは族滅を覆すことになりえません。全面無罪を主張され控訴されるのですか?その場合は……」
「全面無罪を主張します!冤罪だ!」
あーあ、王家関与疑惑作ったらもう息子は助けてもらえないね。証言拒否も正当な理由がないならだめだからね。
死体をすり替えるくらいはしてもらえるかとか、こっそり死刑直前で入れ替えてもらうかも期待できなくなったね。
まぁ元からアイツラがそこまでやってくれるとは思えないがね。
「つまり偽証であったと?」
「はい!偽証です!そう伝えるように検察から指示されました!」
「打ち合わせ数回ですべて認めるの一辺倒でしたが?」
そりゃルーデンドルフ侯爵もそういいたくなるわな。貴様は検察の可視化に向けての第1号だぞ?聞き取りすら検察以外の人間も呼び寄せてやっていたんだがな。
「圧力がありました!」
「どこから?」
「公爵家です!」
「なら先程の公爵家批判の時に言えばよかったのでは?」
「公爵令嬢がいたので言えませんでした!」
「あれだけ弁論と最終陳述をつかって冤罪で公爵家を批判したのにですか?それと私に気がついてなかったようでしたが?書記官の方、私が出てきたあたりを出してもらえますか?」
流石にエリーも呆れ気味だな、呆れから同情はまだ行けるかもしれんが。見苦しいから同情に持ってくのは難しいぞ?
書記官もペラペラとページを戻している、流石にここでは騒がないんだな。
「『あなたがどなたかはご存じないが内務大臣の部下のどなたか?』と当時アウストリ被告は発言しています」
「それで?私が誰か知っていたのですか?検事であることも知らなかったのにですか?」
「それは……嫌味です!このような状況に追い込んだライヒベルク公爵令嬢に対して嫌味を言いたくなったのです!」
「見苦しいぞ!」
「大人しく死ね!死んでくれ!」
「これ以上喋るな!バカモン!」
苦しすぎるだろ。それにしても必死だな、今更もう無理だろう。
ん?いま罵声飛ばした数人は貴族の傍聴人だな。関係者が第2王子から逃げられないやつかね?貴族がやるのはめづらいいな……いや見たことないな……。気持ちはわかるけどな
じゃあトドメは俺が刺すか。
エリー「ワタクシの主演の座が!」
ジーナ「真打ち登場だぞ(小声)」




