かくして第1幕は終わり第2幕が始まり
アウストリ被告の敗北宣言で公爵家の名誉は回復された。
と言ってもこの男がヤケクソで適当なことを言っただけだから果たしてエリーが出張ることなくこのまま終わったところで信じた人間がどれほどいたんだろうな。
正直ここまで公爵令嬢エリーゼ・ライヒベルクの評判が良いとは思わなかった。
平民の変装バレてるんじゃない?気軽に接して失言してるとかでさ。でも真面目に平民モードはわからないだよな、貴族令嬢モードも検事打ち合わせで確認するまで誰だコイツってなったし。
それに演じてる時はあんまり隙がないんだよな……。
「では……謝罪を持って私の最終陳述は終わりです」
「ああ、そうだ少しだけ疑問に思ったのですが」
「なんでしょう?」
「どうして王家が蛮族の支援をしているとおっしゃったのですか?」
ん?どういうことだ?
「それはライヒベルク公爵令嬢がおっしゃったのでしょう?」
怪訝そうな顔をしてアウストリ被告は尋ねた。
まぁ俺もよくわかってないが。なんだ?
「私は一言も王家が蛮族を支援していると言った覚えはないのですが、なぜそのような勘違いを?私も何を言っているのかと聞き返したのですがそれに関しては返ってくることがなかったので」
「えっ?いや確かにそうおっしゃって……」
「書記官の方?私が発言したところで蛮族関連があったところを抜き出していただきたいのですが、おそらく商会の賠償関連でしょう。商会が支援していたことを伝えていたので」
「少々お待ちください……。『公爵家に責任を押し付け王都商会の賠償と王領の復興費を請求しました。そうです、過激派や侵略派に支援をして融和派の蛮族を攻撃させ、人質を取り、公爵領の領民を危機に陥れた王都の各商会に謝罪と賠償をするよう公爵家に求めたのです!摘発し切る前の内務省の腐敗していた局や貴方方検察に、大臣に……そして蛮族戦線では来ることもなく全く役に立たなかった軍部に付け届けをしていた各商会に賠償せよと王家は命じたのです!』の部分でしょうか?」
ああ、確かにいってないな。あれだけ王家批判はしてたのに。
──そういうことか。逆手に取ったんだな。
「ええ、おそらくそうでしょう。違いますかアウストリ被告」
「──私の聞き間違いだったようです。あらためてその件に関しても謝罪いたします」
「受け入れましょう。不思議ですね……何処をとっても別に王家が蛮族を支援したとはかけらも思えないのですが、これじゃあまるで王家が蛮族を支援していた事実を知った上で必死に隠そうとしているみたいでしたね。ああ、勘違いでしたから仕方がありませんね、国王陛下の信頼厚いアウストリ被告です、そう言う反応をしてしまうのもしょうがないことです。なにせ次長検事の職にありながら国家財政に詳しく地方の困窮事情を把握しつつ国王陛下の身近にいた方です。それでも打つ手はなかったようですが……」
「それは!」
「ああ、もちろんただの間違いで謝罪も頂いたことですからそう過剰な反応をしなくても良いではありませんか、それこそ王家が蛮族を支援したみたいですよ?」
同じワードを何度も出して傍聴席の平民に刷り込もうとしてるな、実際王家が蛮族を支援した事実が公爵家に把握されてることは国王の側近はみんな知っている。
そして公爵家に近いものも王家が支援したことも事実であることを知っている。
そして事実かどうかは置いといてその話が出たのは、王都各大商会が蛮族を支援したのも事実であるのは前公爵が前ヘス伯爵と激論を繰り広げた際に暴露したからだ。
そして前ヘス伯爵は暗殺され、王都大商会の各本店で暗殺事件があったことで彼らの蛮族の支援はあったことは公爵家のみせしめで事実だと認識されている。
だが、王家が支援したかは公的にはいまだ疑惑程度しかないし、公爵家ですら突ききれない、泳がせてるか、もしくは何処かで手打ちにしたのかも知れないが。
ただ一つわかっていることは王城で働く人間はともかく王家で死んだものはいない。公爵家ですら、あの王家の敬意を溝に捨て煮込んだ後で川に流して汚染させたような前公爵ですらみせしめに出来ないから大半の貴族は事実かもしれないがまだ疑惑という範疇なのだ。
王家が支援した疑惑と王都各大商会が支援した事実は大きな差がある。
法とはそう言うものだ、疑惑で証拠がなければ王家相手ではやりようがない。木端貴族ではないのだから力押しで死刑にできるわけでもないのだ。
だが、ここにいる貴族は全員その話を知ってる。だから王家が蛮族の支援をしていると聞き間違えた、いや錯覚したと言うべきか?
そしてこの話を知らないのは……ただでさえ最近の問題続きの王家に不信感を持っていた平民たちだ。いまや不信感の塊のようでアウストリ被告を見ている。
なにせ、蛮族支援の下りは貴族も全く驚いていなかったのだ。平民たちもこれが打ち合わせの裁判でないことくらいは知っている。
賢いか裁判傍聴が趣味のやつなら気づくだろう、王家が蛮族を支援していたという話は公然の事実だが証拠がないだけで聞き流されていたのだと。
こうもすっとぼけるエリーの態度で確信する。王家こそが蛮族をなだれ込ませ国民を蔑ろにしようとしてるのではないかと。
「…………」
そうだな、何も答えられないだろうさ。でも忘れてないか?そもそもこれは何だった?
「以上を持って公爵家の疑惑を晴らすことが出来たと確信を持っています。なにか気になることがあったら傍聴席のみなさまも質問をどうぞ。こちらは裁判ではなく公爵家の疑惑ですので何でもどうぞ。ええ、そちらの茶色いコートの方」
「本当に王家は蛮族を支援してないのですか?」
「それは公爵家にはわかりかねますが……。もし事実であれば公爵家は兵を挙げるでしょう!王国を守るため!敵対している蛮族が国民を襲わないために!」
敵対してる蛮族ね、自分の騎士団や執事は公爵家の雇用下だから違うので問題ないってことだな。
これで王家に対する謀反や何やらは言えまい。蛮族を支援してるような王家は謀反を起こされて当然だろうさ。蛮族を支配してる公爵家とは別だな。蛮族の一部を支配してるの事実だしな。
今や一部以外を支配してるんだが。
「他にご質問は?はいそちらの御婦人、どうぞ」
「地方はそんなに危ないのですか?」
「少なくとも公爵家と派閥貴族は手厚い支援をしています。他の貴族はわかりませんがゲーリング子爵のような領地がある可能性は否定できません、領主が無能とは恐ろしいことです。悪政を働く人間を裁ければいいのですが……現行法では難しく力なのなさを痛感いたします」
「いえ、エリーゼ様が悪いわけではありません」
公爵令嬢が平民に気軽に名前呼ばれても平然として接してるのはなかなかだな。俺でも少し顔に出るが愛称で呼ばれても気にしないんじゃないか?
「他にどなたか?ああ、できれば私が答えられることでお願いします。あら、もうおりませんか?ではこれで公爵家の疑惑は晴れたと確信します。では裁判長?これで……アウストリ被告の族滅は確定ですね」
「えっ?」
「公爵家に落ち度はなかったのです、暗殺事件に関して情状酌量はないでしょう。そもそも司法大臣暗殺未遂は公爵家と関係ありませんし、先程の話でもスペンサー男爵家は出てきませんでしたからね。さ、すべての罪を認めたアウストリ被告に判決を、評議は不要かと思いますが一応私は族滅に。どうかしましたか?アウストリ被告何かあるなら特別に発言を許可されるかも知れませんが……族滅を回避する証拠が出せますか?」
「……ありません」
だろうね。足掻けば足掻くほど泥沼だ。大人しく死刑になっておけば国王でも評価したんじゃないか?
「私も族滅が相当かと」
「では判決を」
「失礼、一部修正が必要でして……族滅の部分を書き直す必要が」
「主文だけでよいでしょう、土壇場で無罪判決を勝ち取るために戦わない限りは決まっていたことですので」
「えーでは主文。被告を死刑、族滅とする」
「……」
覚悟を決めた死刑囚は戦う気力もなくこれ以上は何一つとしてミスしないように受け入れている。おそらくどんな死刑でも諦めるだろう、超法規的措置裁判で同日に公開処刑されたケチな詐欺師のように殺されてもだ。
まぁ、なかなか頑張ったんじゃないか?
「では重大な話をしましょう、よろしいですか裁判長」
「ライヒベルク検事?裁判は終わりましたが……」
「お忘れですか?族滅ですから聞き忘れがありますよ。アウグスト死刑囚、結局貴方の5歳の息子さんは不貞の子でしたか?死刑は即日執行が基本ですので」
カーテンコールにはまだ早いか。
エリー「ワタクシのワタクシによるワタクシのための舞台!」
ジーナ「裁判だって言ってるだろ」




