かくして喜劇を悲劇にし
ルーデンドルフ侯爵「(これじゃ黒子だな)」
「ひとえに私の能力のなさとしか申せません、内務大臣にはご苦労をかけたこと謝罪いたします」
ここで謝罪ね、まぁ公爵家批判を撤回も謝罪もしたわけじゃないんだが……傍聴人の平民からは勝ったと言わんばかりの雰囲気を感じる。
なるほど、平民を味方に取り合う戦いを本格的に始めたわけか、元検事らしく弁護士の戦い方はわかってるわけだな。傍聴人を味方にして見えない圧力として戦う戦法を学習したな?
死刑をどう良い方に持っていくかに切り替えたいわけだ。族滅はやりすぎという論調にして公爵家を平民が批判する方に持っていくんだな。エリーは支持が厚いから公爵の方にするわけかな?
さすがに父親の顔に泥を塗るだけでその地位にいるわけではないな。
「父にはアウストリ氏から特捜本部長時代に内務省地方局の不正を暴けなかったことの謝罪があった旨を伝えておきます。忘れてるかも知れませんが」
それとこれは別だと言ってるわけだな、まぁわかってない傍聴人もいるが……あんまり噛み砕きすぎるとセリフが格好悪いとかそんなところだろうな。
かっこよければ長くて無意味な繰り返しでも言うのにな。
まぁ、ここで謝罪をして終わらせたいんだろう。
なにせ蛮族の話題はアンタッチャブルも良いところだからな。
まぁ、それを許すような相手ではないが。
「では続けましょうか」
「…………」
な?面の皮が厚いんだよ。戦いは10を持って上、相手達が死に絶えれば最上って思考なんだよ。
相手を追い詰めるなとか全く思わない、窮鼠猫を噛むのならぜひ来てご覧なさいというタイプだ。相手が追い詰めて向かってくることを楽しみとし、自陣営の慢心で誰それはこの場には向いてないと遠ざけるようなタイプだ。
相手を有罪にして求刑を飲ませればいいだけの検察では刃が立たない。
「蛮族にこの国を売り渡そうとしている、アウストリ被告?こうおっしゃいましたね?」
「……」
「おや、お忘れですか?それとも黙秘でしょうか?」
公爵領最高責任者にそれを言う勇気は大したもんだと思うぞ。いや本心であんたは勇気があるよ。
知らないだろうが蛮族と戦ってきた本人に言うんだからさ。
「何を持ってそうおっしゃるのでしょうか?証拠があるか何か理由があるのでしょう。私は公爵領最高責任者として蛮族と戦ってきました」
まさかガチな決闘で切り合いやら殴り合いだとは思わんだろうな、凛とした令嬢に見えるが強いようには見えないだろう。
まぁ新聞が言うには窓破ってアウストリ被告を捕らえたんだけど誇張だと割り切ってるかな?
「王国が建国されてから874年、公爵家は……ライヒベルク家は常に蛮族と戦い続けてきました。100年ほど前に蛮族に押され領土を失い、50年前に曽祖父が喪失した公爵領土を蛮族から取り戻しました。蛮族と戦ってきたのは誰でしょうか?王国?いいえ、公爵家、ライヒベルク家こそがバーゼル山脈の守護者として王国の北方を守り抜いてきたのです!」
手振りを交えて演説しているな。独壇場とはこのことだな。ルーデンドルフ侯爵が置物だぞ。
「──曽祖父は王国の援助を望みましたが自力救済だと拒まれ、自力で公爵領を奪還しました。そして祖父が蛮族戦線安定のため戦い続けていた時期、村が焼かれ、街が破壊され、死体が散らばる領土を守りきった際に王家は恩賞と報奨と見舞金を出したでしょうか?いいえ、私の記憶でも父の記憶でも、公爵家の記録でもそのような事実は存在しません。その時、王家や貴方方は何処で何をしていたのでしょう?融和派の蛮族が崩壊させられ過激派、侵略派の蛮族が暴れ、またも村や街が焼かれ、虐殺が起きていた時……私は北方王領周辺の公爵領地にいて蛮族から襲撃されてつつも領民を鼓舞していました。その時には王家や貴方がたは何処で何をしていたのでしょう?蛮族が勢いづき王都の大手の各商会の北方支店が略奪されたとき王家と貴方がたは公爵家に、私達に何をしたのでしょうか?公爵家に責任を押し付け王都商会の賠償と王領の復興費を請求しました。そうです、過激派や侵略派に支援をして融和派の蛮族を攻撃させ、人質を取り、公爵領の領民を危機に陥れた王都の各商会に謝罪と賠償をするよう公爵家に求めたのです!摘発し切る前の内務省の腐敗していた局や貴方方検察に、大臣に……そして蛮族戦線では来ることもなく全く役に立たなかった軍部に付け届けをしていた各商会に賠償せよと王家は命じたのです!」
貴族もざわついてるな、まぁ……ここまでしてるのは想定外だったと言うよりは軍部に矛先を向けたことかな?まぁそれ抜いてもここまでやらないわな。蛮族支援してどうするってことだしな。
むしろ平民のほうが困惑している。これが事実とは思えないのだろう。そりゃそうだな。さ、平民にのるか?アウストリ?
「で、でたらめだ!王家はそのようなことをしない!」
「あら?どれですか?恩賞も報奨も見舞金がないことも傍聴人である貴族の方は周知の事実です。それとも表に出さずにねぎらったとでも?当家は、いえ公爵領最高責任者として全く知りえません。それともねぎらった事実が出せない理由でもお有りで?」
だろうな、それはどれだけ裏で支払ったと言っても嘘でしかない。そもそも仮に出していたとしてもエリーすら知らない極秘情報を検察のお前がしっているのがおかしいということだ。
「そちらではありません!まるで王家が蛮族を支援したような……」
「あら?無体を働いたのは確かでしょう?事実蛮族は勢いづき私が住む街も襲われたのですから、私は4歳にして命をかけて蛮族と交渉いたしましたがアウストリ被告はご経験が?」
「ありません!ありませんが……。いえ、4歳にして蛮族と交渉するライヒベルク公爵令嬢の態度はご立派です。まさに淑女、貴族の鑑でしょう」
平民相手に媚び売ることも忘れてないわね、ここで褒める方に持ってくのは適応の早いこと……。
王家を追い詰める公爵家を、エリーを褒めるなんて業腹でしょうに。
「しかし……蛮族が戦線を抜いて王領北方都市を攻撃したのは事実ではないですか!公爵領最高責任者となった今ならば賠償する理由もあるとは思いませんか?」
「いえ、まったく。王国は曽祖父の代から自力救済を命じたのです。ならば王領も国王陛下が自力救済をするのが筋でしょう、それが領主の、この国の王たるものの義務なのです。貴方の領土が盗賊に攻撃された際に近隣の領主が止めてくれると思ったのに止めてくれなかった、当てにして兵を置いてなかったと言ったら相手は申し訳ないと賠償金を払っていただけるかしら?ああ、失礼……領土はお持ちでありませんでしたわね」
煽る時は本当に輝いてるな……。
エリー、お前は立派な悪役令嬢だよ。
ジーナ「実際検事になったら証拠捏造しそうだし、弁舌で死刑に持ってきそうなんだよなぁ(小声)」
エリー「冤罪では殺しませんわ?」




