かくして一人芝居は始まり
エリー「原案・脚本・演出・主演はワタクシ!」
キサルピナ「法廷は公爵領の広場と同じかぁ……」
検事席でルーデンドルフ侯爵の隣に立つエリーはなんとも頼もしく、まるで自分以外は舞台……いや、法廷にいないもののように、そして平民の望む公爵令嬢を演じていた。
「さて、中断しましたが追求しましょう。貴方の奥様は不貞を働いており、御子息は他の誰かの子供ですか?5歳の子供です、離婚もできす、さりとて病死も事故死もしていないあたりはさぞかし高名な相手と不貞を働いていたと考えますが……ああ、失礼しました。まだ不貞であるというわけではありませんでしたね、ここにはおられぬ夫人に謝罪いたします」
「……」
「黙秘ですか?構いませんよ?黙秘権は認められておりますから。まぁすべての罪は肯定してましたので問題はありませんからね」
族滅されない方に賭けたか?その場合は様々な点を突くだろうよ。
「では黙秘するということでいいでしょう、被告人に不利になることは証言できない決まりがあるのです。不利な発言を強要するわけにはゆきませんから」
黙秘してるということは不利なことなんだという印象を傍聴人に記憶づけてるな、記者もいるだろうし、ここでの話なんて明日の新聞が出る前にすぐに王都に広がるだろう。
どちらに転んでも嫌な噂になるだろう。
「では、死刑は族滅かどうかの話にしましょうか。まず公爵家が王国に仇なした、これが事実なら由々しき事態です。私は被告席に座るでしょう、これが正しいのでしたらこの後すぐ私の裁判をしましょう。
公爵家ではなくエリーの裁判か、そりゃ意味がないだろうな。エリーが王国に仇なす策謀を計画していたことになる。貴族はともかく平民は信じない、また王家の陰謀かとささやくだろう。そもそも証拠がないだろう?
「さ、細かい事情をお願いします。公爵家がどのような陰謀を考えたか」
「……」
「黙秘ですか?」
エリーが公爵領の最高責任者であるなら蛮族のことも答えられるし迂闊なことは言えない。公爵家が蛮族対策でどれだけ王家に怒りを持ってるかは貴族なら周知の事実だ、演技でも激怒して王家を批判すればアウストリ氏の首が締まるだけだ。
公爵令嬢から王家の批判が出た、新聞に書かれる、王都で噂が広まる。さぁさぁどうする?内務大臣に矛先を変えるか?
お前の眼の前にいるのは公爵令嬢を演じる蛮族で、演じなくても残念ながら公爵令嬢だぞ?元は第1王子婚約者筆頭候補だ、アホそうな言動はしても頭は確かだぞ?
多分な。
「さて、では貴方が言った非難を私がここで説明しましょう。まず地方の困窮と国家の財政の再建ですが、これは内務大臣の権限でしょうか?アウストリ被告」
「……」
「黙秘ですか、まぁどちらにせよ説明は必要ですからね。皆様に勝手に説明させていただきます。まず地方の困窮、これはゲーリング子爵の領民蜂起などでしょうか?なぜ領民が蜂起したか、それはひとえにゲーリング子爵家の統治が悪いからです。なぜ内務大臣が個人の領主貴族の失政の責任を取るのでしょう?王国主導でなにか政策をしたのであっても責任は認可をした国王陛下と宰相でしょう、実務で内務大臣が出るような政策が果たしてあるのでしょうか?もしかして内務省の地方局のことでしょうか?地方局はその権限がありません、この地方局は父が内務大臣になる前は腐敗の温床であり、賄賂で不正な統治をもみ消し税収をごまかした貴族の巣窟でした、彼らはいまはもうおりません、父が処断しました。そして本来の姿を取り戻しました。各領主は地方局の指導やお願いを全て無視して食糧増産すら無視しています。そしていざとなれば税を上げて食料を買うか、意見を一切聞かなかったのに父を糾弾して宰相や国王陛下から援助を受ければいいと思っているのです!彼らのような人間がこの国を腐り果てさせた元凶です!なぜ父がこの地位になるまで見過ごされてきたのか……それはひとえに検察の無能に他なりません!」
「異議あり!」
「被告が黙秘を辞めたようで何よりです、いいえ違いましたねアウストリ弁護士ですか何か?」
「この件は事件とは無関係で!」
「ですから先ほど許しは得たでしょう?」
「領主貴族批判と検察批判は全くの無関係です!」
「ですから反論だと言ったではありませんか、アウストリ被告の勘違いを説明しようとしているのです。何か問題でもあるのですか?」
「公爵家の反論にとっては関係がありません!」
「あるから説明するのです、アウストリ被告が勘違いしたように傍聴人が勘違いしてしまうかも知れない。名誉毀損です。裁判長にはどうか公爵家の反論をお許しいただきたく……」
「異議を却下します、弁護士は静粛に、同じことを質問し異議をとなえないように」
まぁこうなるか、全部敵だもんな。お疲れさん。
「では続けます。検察が父が内務大臣になるまで彼らを摘発しなかったことがなぜ起こったのか。検察がそれを捜査しなかった、ただこれに付きます。本来であれば検察は省の調査も仕事の内ですが……なぜ働かなかったのでしょうか、教えていただきたいですね当時の特別捜査部長だったアウストリ被告」
「つかめなかったからです」
「父が摘発、処分した中ではそこから検事数人にお金が流れていましたが?」
「おとり調査によるものであり後手に回ったことは申し訳ないと思っています」
「合わせて月に金貨100枚ですか、数年でまだつかめなかったのですか?」
「ひとえに私の能力のなさです」
自分が無能だから仕方がないというが、それは特捜本部自体が無能ということになるがいいのかな?
「では仕方ありませんわね、莫大な予算を使っても無能である特別捜査部は司法大臣が然るべき処置を下すでしょう」
もう下したよ。公表はまだだけどな。
「もちろん、厳しく処罰しよう」
「司法大臣の頼もしい言葉も聞けましたし国民も胸をなでおろすでしょう。圧政を働く領主がいるのでしたら摘発、処刑されることで王国はまた繁栄の道を進むことでしょう」
まぁやってるのはだいたい王家閥だからな、だから超法規的措置で大臣たちが拘束されてる時に内務大臣は連中を全員処分しなかったのか。見せしめにちょうどいいんだな。
特捜の奴らちゃんと働かせるか。公爵派閥でいらんやつもこれで処分するんだろう。
「国家の財政の再建ですが……これに関してはもう前の財務大臣と宰相と国王陛下にでも言ってもらいたいですね。最も公爵家の最高責任者で公爵令嬢でしかない私の立場では国家の財政がどれほど悪化してるかはわかりませんが……おそらく蛮族の侵略を毎年絶え間なく防いでいる我が公爵家よりも悪いのでしょう。元次長検事は国家財政にも明るいようで何よりです、父の前の地方局の不正に目を向けてほしかったのですが」
領地経営で財政に触れる立場でもわからないが領地のないお前がなぜ財政が悪化してることがわかるんだということだな。
傍聴人の貴族が口元を隠して笑っている。
まぁ平民にわかりやすく貴族的イヤミを説明口調で言うということは、貴族に対してはお前は貴族じゃないからわからないかって意味だしな。領地なしには堪えるだろう。
アウストリ氏の内心は煮えたぎってるだろうか、平民を味方にしようとしてるエリーを見て冷静さを取り戻してるか。
次はどうでる?
心の中のエリー「もっと令嬢っぽく!頼りになるように!ここでちょっと儚さ!はい!ポーズ!」




