かくして女優は舞台に立ち
エリー「やはり演じて難しいのは令嬢ですわね」
友人たち「普段から演じろ」
あくまで子どもの命を守りたければ不貞というだろうな。まぁ妻の方は終わりだがな。
もしそれをするのならば、それは不貞相手が大事だ。さぁ、誰にする?誰が浮かぶ?事前打ち合わせもなく不貞をしたとなすりつける相手は?
族滅はないと踏んで押し切るか?たしかに微妙だろうな、だがお前はすべてを認めたんだぞ?
国王の関与は否定した、それは事前の裁判打ち合わせ通りだ。こちらもそれは飲んだ、証明できなかったしな。
あくまで王家の暗殺者を勝手に動かした。それが争点で論点だった。王家は関係ないのではなく直属である国王は関係ないということにはなるだろう?苦しいかも知れないが認めたのは国王の関与がなかったことだ。
なぜなら第2王子のそのような知能はないと手伝っていた検事たちすら思っていた。俺が証拠を固めてるときですらあれは論外だろう、命じていれば証拠はゴロゴロ出てくるだろうと甘く見ていた。超法規的措置の行使ですらあの様に馬鹿げた大騒ぎで商人を根こそぎ殺し回っているのだ。ちょど収まったのはモレル前伯爵の死後。
と言っても滑り込みで打つ手は全て削がれた、王家とて全くの間抜けでもバカでもない。
王家派閥も、公爵家派閥もあのバカは眼中になかった。もはやお前たちすら王家の枠からも意識的に漏らしているんじゃないか?
だからこそ罠を仕掛けた。
第2王子が関与していたか?という質問を入れておいた。誰も信じない、否定される、肯定されても平民すら信じるか怪しい。
でもお前すべてを認めた、じゃあ関与してるとも言えるんじゃないか?
全面肯定で流して問題がない質問だが突こうと思えば突ける、突いたところで内務大臣や宰相、国王すら鼻で笑うだろう。
でも今のお前にその判断が何処までできるんだ?観客相手に演技をしているエリー相手にどこまでできる?
族滅回避のために弁護するか?妻の不貞を認め、自分の子供ではないと宣言するか?
さぁどっちを取る?
第2王子に飛び火させてやるぞ?たとえあの国王でも第2王子の関与を超法規的措置以降の事件でも再び疑われたら原因になったお前を、お前の一族をさぞかし恨むだろうなぁ……。
「そ、そもそも!それは死刑決定後に語ればいよいこと!このような場で堂々と……!」
「スペンサー司法大臣は公正な裁判を目指しています。冒頭陳述で家族構成もなにもかもを肯定していたので傍聴人に説明する意味はあると考えますが、裁判後族滅なのに家族が殺されなかったらさて?どう言うことだろうと傍聴していない方々は考えるでしょう。もちろん新聞にも書かれるでしょうが……それが嘘である可能性もあるので……閉じられた部屋で不貞だったことにしてほしいと懇願して同情を誘い有耶無耶にされては困るのです。これは明らかにすべきことです。裁判長、司法大臣、いかがでしょうか?」
「認めます」
「司法大臣としても公平さは見せるべきであろう、族滅に関わるから公表するべきだ」
「待った!異議あり!それはすでに公爵家批判の範疇から漏れています。ライヒベルク公爵令嬢が仕切るのは間違っています!」
排除に動いたか、だが遅い。
最初期であれば平民の声も疑問に持っていけたかも知れないが今や不信はお前にあるんだぞ。
そして意味はない。
「これはこれは、アウストリ弁護士は検事がだれかをご覧になっておられないのですか?」
「ルーデンドルフ侯爵閣下でしょう」
「よくご覧になってください、2人いるでしょう?23ページ目からは私が書いたもので名前も入っております、この裁判において2人目の検事である担当するエリーゼ・ライヒベルクです。以後お見知りおきを」
まるで令嬢のごとく丁寧なカテーシーを披露したエリーはニッコリとアウストリに微笑む。
「関係者が検事なんて!公正さに反するでしょう司法大臣!」
「問題ない、暗殺事件に関しては担当してないからな。それ以外を担当にしているから問題はない、最もその職務の範疇に関係があれば暗殺事件の質問をすることは問題はない」
そう言うとエリーは軽いアイコンタクトをして傍聴席を見た。
ああ、平民の傍聴人にわかりやすく言えってことか。
「そうだな、例えば横領の原因や理由が暗殺の資金集めだったら質問できるということだ」
「そもそもなぜ検事が2人なんですか!通常では1人……」
「もちろん、アウストリ被告がすべての罪を認めたのでまとめて裁判するためです。組織的な殺人が大規模すぎるので元から裁判は分ける予定だったのですが……アウストリ被告が不要とおっしゃるので……」
「なら分けてください!」
「いまさら出来ないでしょう?裁判長、司法大臣」
「無論ですな」
「裁判終盤でそれは通らない、序盤であれば考えようもあったが最後の最後でやっぱりなしでは通らない。注文した料理を直前でキャンセルは出来ないだろう?」
なるべくわかりやすくい、噛み砕いて……面倒だな、エリー毎回支持を得るためにこんなことやってるのか?
「そもそも貴女が検事なのはおかしい!検事の職を貴女は持っていなかったはずだ!」
「いいえ?たしかに持っていますよ」
「検事の職は年に2回の試験の必要がある!あなたは持っていない!私は名簿を把握しているが貴女の名前は何処にもなかった!」
少しだけざわつく傍聴人に対してもエリーは動じずにいる。
まぁ当たり前ではあるが。
「私はライヒベルク公爵領の最高責任者です。つまり領主権の中にある裁判権を持っています。つまり公爵領においては罪あるものを裁けるのです」
「ここがいつから公爵領に……!」
「そして領地を持つ貴族、領地貴族でも領主貴族でもいいですが……そのように裁判権を持っている人間は王都では検事、弁護士としての権利を持ちます。当然ですね、領地の法律と王都の法律が違うこともあるのです。一方的に裁かれるようなことがあってはなりませんから。あら?まさか王都の法が優先とはいいませんよね?公平さがありませんし、もしかして知りませんでしたか?検事の職を持っていれば領地貴族の権利である裁判権なんて気になりませんよね?裁判長でもあり検事でもあり弁護士でもあるんですもの、まぁ貴族として裁判する時に弁護士をすることはあまりないでしょうが……」
ひどいイヤミだ、傍聴人は理解してないが貴族の傍聴人はニヤニヤとアウストリを見ている。嫌われてるな……。まぁひとえにお前の親父が偉大でお前が国王に阿諛追従をするだけの能無しだからだ、だから諦めな。
「失念なさっていたのですよね?アウストリ被告、貴方も同じ権利を持っていたのですから同じ職があれば忘れるのも当然こと」
「……ありません」
「何がですか?」
「私は領地貴族ではありません!」
「あら、それは失礼しました、それでは知らないのも無理はありませんね。私が検事あることは傍聴人の皆さまにもわかっていただけかと思います。裁判長?すべて罪状認めたので仕事はないとこちらにいましたが検事席に戻っても?」
「認めます」
あーあ、大人しく死んでおけばよかったのにね。
ジーナ「イキイキしてやがるな……」
普段を知ってる傍聴人貴族「(別人かな?)」




