エリーちゃんとクラウディア伯爵令嬢
パド家令「給料分以上の仕事はしてる」
「レズリー伯爵」
初日の勤務という名のギャンブルを終えた私は……逆か。ギャンブルという名の勤務のほうが正しい。
まぁとにかく帰宅直前にレズリー家当主である父に話しかけた。
「せめてこう……なにか別の言い方にしてほしいが……何か?」
「王城メイドシャディでございます」
「じゃあ話しかけたら不味くないか?接点はあるまい?」
「この声量なら内容は聞こえません、一応周辺に誰もいませんが……言い訳はどうとでも。上がりですか?」
「誰もいないのは私もわかるがね……。ああ、どうせ報告書の提出だけだ。仕事は財務省でやるからな」
「前財務大臣子息が問題を起こす前に財務省で何があったか見てください」
「……ああ、わかった。緊急のようだな。ではシャディ嬢、お疲れ様」
「ありがとうございます。レズリー伯爵」
さて、じゃあこちらは父にでも任せよう。
とりあえず、マッセマー商会に行ってみようか、防音個室もあるし……。
さて、いつものように男装して……。
クラウに戻るっすよ!
「いらっしゃいませ~。マッセマー商会へようこそ~。商会員のエリーちゃんで~す」
だめだ笑うな……。私とマッセマー商会員のエリーは公的に初対面だ。耐えろ。
危ないところだった、やり返さないと……。
「こんにちは、レズリー伯爵家のクラウディアですわ」
口元がひくひくしてるぞ、エリー……。そんなにおかしいか?ちゃんと令嬢やってる私が。
初対面の丁寧な挨拶で笑ったら失礼だって騒いでやるぞ。
「なにかお求めですか~。お約束ですか~?」
「そうですね、レズリー家が仕入れてるもので新しいものがでたので確認にきましたの」
「ン……かしこまりましたぁ~こちらへどうぞ~♡」
「グッ……では案内をお任せしますね」
案内された個室に入ってそうそう笑い始めたエリーもといエリーちゃん。
引っ叩いてやろうか?
「ブッ……ククク……ですわ……ですわなんて最近の令嬢は使わないですよ~」
「使いますわよ?」
自分の口調とか記憶から消しててる?
「まぁおふざけは置いておくっすよ、エリー」
「ここではエリーちゃんで~す」
「いいから」
「はぁ~い……それで、どうしましたの?」
ようやくしっくり来たな。にしてもこの変わりようは気持ち悪いわね、私もこんな感じなのかな。
「メイドになってパド家令に探りを入れてきたっす」
「……メイド?流石に顔バレするんじゃないですの?こんなメイドいたのかとか絶対言われますわよ?」
「普通に変装して就職したっす」
「学校どうしますの?」
「エリーが建国したら学歴関係なからいいっす」
「何故かは書けないから急に学校に来なくなったって後世言われますわよ?」
「レズリーは後ろ指さされた数だけ強くなるっすよ?」
「じゃあ第2王子に勝てないじゃないですの!」
「後ろ指さされれば強くなるレズリーと後ろ指差すどころか背中から刺されそうなのを一緒にしないでほしいっす」
「そういう問題じゃないと思うですけど……それで?」
扇子を出そうとしてエリーちゃんでは持っていなかったエリーは行儀悪く机に肘を立て両手の指を絡ませて手持ち無沙汰にしながら話しかける。
「王城の執事長は公爵家の人間でハウスキーパーは買収してたって本当っすか?」
「あら?そうなんですの?そちらはお父さまの管轄だからワタクシも初耳ですわね、王都はお父さま、公爵領と公爵家全域はワタクシ。向こうの政治はお父さま。だから寝返りも後で知る羽目になったりするんですわ。まぁ公爵領に直接関係するかは微妙なところが多いこととアーデルハイドが生きていた頃はアーデルハイドに手綱を握らせればよかったから放っておいたんですけどね……。この1年で北方の拡張に注力していたことと入学から波乱万丈過ぎて親子のすり合わせも出来ませんわねぇ」
どっちだ?とぼけている?
あと、すり合わせられないのは公爵のほうじゃないかな?エリーのやったことどう落とし込むか苦戦してると思う。
「それならマッサージ師にならなくてよかったですわね、王城執事長から話しでも聞きますか」
「執事長もハウスキーパーも逃げたっす。資料の複製作って鍵の複製をして辞めたそうっす」
「あら、そうすると警備が厳しいかしら、鍵も変わってるだろうし」
「王城の鍵は変わってないらしいっす、王家の私室は管轄が別だから持ち出される鍵はないらしいっす。あと買い替える金もないらしいっす」
「金欠?おかしいわね……第2王子の支出は……」
「王城勤務の人間の給料は下っ端メイドで金貨1枚と銀貨30枚っす」
「うーん……王城勤務にしては少ない気がしますけど新人だし仕方ないんじゃなくって?」
「ベテランもっす!王家家令は高給だけど王宮家令は王城執事長と王城ハウスキーパーの職務を足して金貨1枚と銀貨70枚らしいっす。本来でも金貨2枚と銀貨80枚だけど似通った仕事で減額されたらしいっす」
「本来でも安いですわね、執事長もハウスキーパーも金貨3枚も稼げないとは」
「違うっす、メイドの給金に銀貨10枚足したのが執事長とハウスキーパーの給金っす」
「へ?」
ポカンとしたエリーを見ながらまぁそうなるよなとも思った。
公爵家じゃ下っ端のメイドや従者でも金貨3枚だろう。後は実績とかで勝手に上がっていく。
公爵家の執事長とかハウスキーパーじゃいくらなんだか。
「メイド長のモリーでも金貨20枚ですわよ?執事長とハウスキーパーが金貨1枚と銀貨40枚?流石に執事長やハウスキーパーの給金は知りませんけど。というかワタクシの部屋に寄り付かないから話しかける機会ないんですわよね……。」
避けられてるんじゃないっすか?
「王城ですわよね?王家の執事長がケチられてるんじゃなくて?」
「王城っす!」
「えぇ……?そっちケチりますか普通?」
「王家のプライベート空間はパド家令がしっかり管理してるっすけど、王城は給料が安いから仕事は手を抜いてるっす。3日後の会議に合わせて2日後に掃除をしてあとは大体の部屋を閉鎖してるっす」
「末期ね、人手がなくなったの?」
「我が家が40人くらい引き抜いたっす」
「あー……そうなのね」
苦笑気味に答えるエリーは指の運動を止めて何かを考えていた。
「エリー、いいっすか?」
「どうぞ、友人の問いかけは何でもウェルカムですわ」
「お茶会メンバーのみんなのバカ婚約者達が公爵家の弱みか秘密を探るかを脅して聞き出すように第2王子が命じてらしいっす。確かっすか?」
「へぇ……そんなこと……やる度胸があったんですの?初耳ですけど?お茶会で皆様に聞いてみましょう。馬鹿らしくて話題に出さなかったかも知れませんし」
何もいえない。やってなさそうだし、言われてみればやったところで相手にしない可能性も確かにある。
おそらくやってないと思うんだけど……。
「話を戻しますけど結局パド家令はどうなんですの?」
「王家家令としては真面目に働く気はあるみたいっす。ただ王宮家令として真面目に働く気はない、あとエリーに喧嘩売ってないから安全だって第2王子がどうなろうとどうでも良さそうだったっす」
「王家家令としてどうなんですの?」
「第2王子は王家のプライベート部分から追い出されて王家家令の範囲から王宮家令職務範囲になったからじゃないっすかね」
「安い金額であんな相手できませんわね、ワタクシでも金貨50枚でもいやですわね。ご愁傷さまですわ」
どうしよう、女を求めてること言うべきかな?いや、でも言ったところでなぁ……。
「侍女とメイドに愛想尽かされて今は従者しかいないらしいっす、問題が起きたら責任を問われるスケープゴートっすね」
「残機に限りはあるでしょうに、今の王宮じゃ残機使い切ったら終わりですわよ?」
「残機だって使われたくはないっす」
「それもそうですわね。じゃあ3日後の会議次第で決めましょうか。そういえばあのお馬鹿な元次長検事の裁判はいつでしたっけ?」
「明日っす」
「ふーん、ジーナがでますの?」
「出ないみたいっす、ゲルラッハ伯爵が裁判長でルーデンドルフ侯爵が次長検事として出るそうです」
「錚々たるメンツですわねぇ……向こうの弁護士は?」
「自分でやるそうです」
「それはまた……勇気がありますわね。賭けてもいいですわ、証拠提示で死刑で終わりですわ。暗殺者も同じ日に別の法廷で裁判でしたわね?」
「そうっすけど、王家の命令としか言わないし命令したのはその馬鹿な元次長検事っすからね。どうにもならないっすね、普通に死刑っすよ?多分早く終わるっす」
「まぁ、顔くらいは出しておきましょう、クラウは?」
「遠慮するっす、調べることがあるのと、明日もメイド仕事っす」
「激務ねぇ……」
いや、明日もギャンブルするだけだけど……。
言わないほうがいいか。
「頑張るっす!」
優しい目で見るエリーには余計なことは何も言わずいかにもメイドとして働きますと言わん態度で答えた。
「メイドって今日ここに来たときみたいな態度でやりますの?」
「もちろんっす」
「なんだか初めて会ったときみたいな態度だったわね、すぐにその口調になったけど」
あんな昔のことを覚えていたのか……これだからエリーは侮れない。
翌日
シャディ「はい!ブタ!負け!」
ピア「まいどありー」
クラウ「はぁ…」
エリー「(よっぽど激務なんですのね)」
ジーナ「(大変そうだな)」
ベス「(王城でやる作家仲間の茶会の近くで見ないけど何処で働いてるんだろう?)」




