ロイヤルストレートフラッシュ
クラウ「人手不足でギャンブルってもうダメそうっすね」
トランプを眺めながらうんうん唸るパド家令はチェンジチェンジとぼやきながら話を続ける。
「いや、10年かなぁ?税金のことは財務大臣とか内務大臣に聞いたほうがいいんですけどね。とにかく先代国王と先代公爵の頃からずっと税金を納めてませんね。支援も何もないからこっちでやる。税金を納めてこちらになにもないのなら納める意味がないの一点張りで……。まぁそうでしょうな。これで金銭不足による宣戦崩壊で蛮族がなだれ込んでも知らんぞといって拒否して……先代国王が公爵家に暗殺されてですね……おっ!いいぞ!おっと、何でしたっけ?ああ私か!レイズ!それで今の陛下になってもずっと揉めてまして……北部の商会支店が蛮族に焼かれたんで結構身構えたみたいですよ。先代ヘス伯爵と国王陛下がなおも戦うつもりだったみたいですけどね、先代ヘス伯爵が公爵家に暗殺されたんで……勝負!えあっ!?キングのスリーカード!?」
話に集中してほしい。でもパド家令は王都商館支店焼き討ちは公爵家の手引ではないと思ってるのか。国王暗殺やヘス伯爵暗殺をしれっというあたり、隠してるわけではないですね。
公爵家に気を使うならそもそも先代ヘス伯爵暗殺も先代国王暗殺も出さないでしょう。
というかなんでメイドにそんな情報ペラペラ言ってるんだ、新人だぞ。
「へー、公爵様って先代国王様殺したんだ」
「先代公爵ですよ、当代は政治で勝つつもりだから興味ないんじゃないですかね?」
公然の秘密ではあるけどピア先輩は知らなかったんだ、ヘス伯爵暗殺に触れない当たりは知ってたのかな?
「それより公爵令嬢ですよ、あー……フォール!降ります降ります!」
「ライヒベルク公爵令嬢も誰か暗殺を?」
するかしないかだったらするだろうと思いながら問いかけると、次のゲームまで静観になったバド家令は財布から金貨と銀貨を出しながら答えた。
「今は大丈夫でしょう、何なら暗殺どころか堂々と公爵家騎士団を率いて相手を殺した後で『病死でしたわー(裏声)』とかしれっと言うでしょう。執事長は書類を複製して逃げましたし、ハウスキーパーは鍵を持って1日消えた後やめましたしね。あれは鍵の複製作られてるし王城の財務状況も警備も筒抜けですね」
ちょっと声真似似てるな。
「あの……大丈夫なんですか?」
「私は敵対してないから平気です、喧嘩を売ってたら今頃職を捨てて逃げてますよ。公爵令嬢は喧嘩さえ売らなければ何もしてきません、王家はもう喧嘩売ってるからどうあがいてもサンドバッグになりますけど……。第2王子の手先になって嫌がらせもしてない私は安全ですよ。全くろくなことをしないから仕事が増える一方だ」
「いえ、その鍵とか……警備状況とか……」
「別にいいでしょう、そこまでする給料はもらってません。第2王子手当申請してみようかな……。それに王家の生活スペースは私の管轄ですから彼らは関係ないですしね、私はあくまで王家家令が本業です、だからそちらは真面目に働きますけど。いなくなった彼らはあくまで王城の執事とハウスキーパーですからね、王家のプライベートルームは私の管轄です、といってもそのプライベートな部分なんて王城のほんの一部に過ぎません。それぞれの私室と寝室に食堂くらい、キッチンは王城の管轄ですけど……まぁ人も減ったしどうにかなるでしょう。第2王子はそのプライベート部分から出されてますし……まぁいいでしょう放っておけば。どうせそのうち公爵令嬢に殺されます」
「なにかやったんですか?」
「刺客でも送ったんですか?」
そう2人で尋ねるとしまった!という顔をしたパド家令は目の間を指でほぐしながら答えた。
「婚約が決まった際に第2王子が公爵令嬢に大変な非礼を働いたんですよ、その後は平民の娘と遊び歩いていたり、その子を王妃にすると喚いて国王陛下からも叱責されて、王家家令の管理範囲から退出させられていまは王城離れに飛ばされたというわけですよ。それであの第2王子なにしたと思います?」
「何をしたんですか?」
レイズをしながら尋ねるとパド家令はクックッと笑いながら話し始めた。
「公爵令嬢の取り巻きの婚約者いるでしょう?ほらあのバカ男たち。あれに婚約者を使って公爵令嬢の秘密や公爵家を聞き出せと命じたんですよ、多分取り巻きが公爵令嬢に報告して逆鱗に触れたんじゃないですか?まぁあのバカどもに婚約者に公爵家の秘密を聞き出せと直接行ったか言う勇気があったかわかりませんが誰もしないということはないでしょう。取り巻きのスペンサー司法大臣が王家派閥を逮捕してる辺りもう殺すに舵を切ったのでしょう。早くやってくれれば仕事が減るんですけどね」
そんなアホなことやらせようとしてたのか、少なくとも私が知らないあたり婚約者共は動かなかったんだろう。アーデルハイド死後で私がいないお茶会は数回しかなかったはずだから……。事後報告もないのはおかしい、エリーなら調査を命じる、もとい頼むはず。
アドマインはアンに怯えてるから不可能、ジョンは退学になってたか?なる前だとしてもベスにそれを命じていたら間違いなくベス自身がジョンに手を下しているだろう。弓で射殺してるんじゃないかな。モンタギューは意思疎通を放棄していたし、ジーナが言われたらおそらく真っ先に前司法大臣にチクるはずだから違う、やってない。ダニエル?論外だ。失脚してるしそんな事をすれば婚約破棄されるだけ、どうせ破棄されるだろうが今破棄されると用済みで現地担当者が勝手に処分してくれるだろう。
ネルソン辺境伯の息子?名前は……モーか。キャスに命じる?それを?宰相がいるのに?宰相を敵に回すような事をするか?宰相が公爵家と戦うのが信用できないというようなものだぞ?
これは……誰もやってない?もしかしてあのバカども……。
事件を起こす前から第2王子を見放していた?
そうだ思い出せ、ジョンは第2王子と一緒に公爵令嬢を糾弾した、そう一緒にだ。罰せられたのはジョンだけ、未だ第2王子は謹慎程度で済んでる。
ノーマンは第2王子と一緒に司法大臣室から資料を持ち出した、超法規的措置だ。これが使えないと本人も知らなかった。
アドマインは?なぜだ?アンが怖いからと言われたら反論はできないが、公爵を捕らえるとまで言った辺り……公爵……?何故違法な超法規的措置で捉えに来た近衛騎士に公爵を捕らえると?バカだけどそこまで救いようのない馬鹿だった?だめだこっちも否定できない。救いようのない馬鹿ではあるんだ。
「リレイズ、オープン?」
「オープン」
「あー難しい顔してるのにフルハウス?そんなポンポンとフォーカードもストレートフラッシュもでないわよ。ツーペアだったんだけどね。今日はやけにフルハウスが出るわね」
「お金戻ってきました!」
危ないところだった、真面目な顔が長すぎたか。
「ああ、だから難しい顔してたのね……」
「さ、次は私も戻りますよ、取り戻して差し上げます!減ってきましたね……カードは私が切りましょう」
自発的に動く気はないが第2王子の直接的な後ろ盾では動く?何故?特にノーマンは父親のイアン・モンタギュー司法大臣は中立派の筆頭だ。むしろモンタギュー家自体が彼の代で中立の代名詞の家の一つだったほど。これで動くことで起こる利益は?そこまでバカか?財務大臣子息のジョンは何故動いた?
だめだ!アドマインが元が馬鹿すぎてノイズになる!
思い出せ、ジョンがあの馬鹿げたことを起こす前は何があった?
「しゃあ!レイズレイズレイズぅううぁわぁああああ!」
「あ、パド家令が興奮してる……イカサマしてないですよね?」
「バレたら全部失うしそれじゃ賭けは楽しくないでしょ?」
「信じますよ……?フォール。シャディは?」
そうだ、相手が馬鹿すぎるからと言って必ずしも頭が悪いわけではない。自分の身くらいは守りたいはずだ。エリーを見すぎて麻痺してた。
あれこそ頭が良いバカみたいな人だ、大陸の王になるのも、すべての人間を救ってやるという傲慢さと、苦労を背負う無駄な行動。賢くないが賢い矛盾した存在。
人間は矛盾の塊なんだというのはエリーが婚約者の座をわざわざ投げ捨てて相手に委ねたり、その危険な物を投げ返さず他に渡した恋愛バカの第1王子が表している。
彼らは間違いなく王国ではトップの賢さだったし、大陸でもトップクラスだ。
でもその判断をした。なぜ?エリーに言わせれば賭けだった。
第1王子もその後のエリーがどう出るか賭けたのかも知れない。もしかしたらそれでも自分を落としに来るか。本来は落とさなければいけない王家側が落とす権利をやろうと傲慢にも示したのかもしれない。
「シャディ?」
「リレイズ」
「うふふ,取り戻してあげますよ……オープン!」
私の手札はロイヤルストレートフラッシュ。パド家令の金貨は根こそぎ頂いた。
なるほど、賭けは面白い。こういうこともあるんだな。
「えーっシャディさん!イカサマしてませんよね!」
「カードきって配ったのパド家令じゃないですか、それにシャディは交換してませんよ?」
「あー切りが甘かった!どんな確率ですか!もう一戦!」
「ええ、チップが増えたのでいくらでも」
人間こうして賭けで人生を狂わせていくんですね。
エリー「深読みしなくても敵だったらぶっ飛ばせば勝ちですわ」
クラウ「台無しっす」




