魔界のレストラン
ここは魔界のレストラン。
エリート悪魔しか入れない、超高級レストランだ。
昨日、懇意にしているオーナーから「レアものが入った」という連絡があった。
魔界一のグルメと自負する私は、本日、早速ここへ来たのだ。
一番奥の席へ通されると、まず食前酒が運ばれてきた。
「大量殺人を犯した人間の魂を発酵させたワインです」
あぁ、もったいぶって。
この手のワインは飲み飽きた。
二千年の間、同じようなワインは量産されている。
前菜。
「小悪党の脳みそのマリネでございます」
食べ飽きたメニューにウンザリした私は、思わず強い口調で言った。
「良いから、メインを出し給え、メインを!!」
ウェイターは、三つの目を三つとも閉じて、赤い冷や汗を流しながら厨房へ戻った。
今度は、シェフとオーナーが出てきた。
シェフが言った。
「上物の肉です」
皿の上の小さな肉。
これが、上物?
訝しげな顔の私にオーナーが微笑んだ。
「日本という国で、総理大臣をつとめた者の舌肉でございます。
腹肉は、色は黒くて味は鳩肉、とても出せるものではございませんが、
舌肉は見た目も素晴らしく、きっとお気に召しましょう」
ほほぅ。
どこの国であれ政財界トップの人間の肉は、噛むと濃厚な悪汁がにじみ出てくる。
そしてそれが、えもいわれぬ美味なのだ。
私は、思わず知らず、舌なめずりをした。
興奮しすぎて、舌先が自分の耳にまで触れた。
フォークに刺した舌肉を頬張ろうとした、その時。
少し離れた席に、ライバル悪魔のギャジが座っているのに気づいた。
ギャジは、すでにこちらに気づいていたようで、
私のほうをニヤニヤと見ていた。
ギャジは成り上がりのエリート悪魔だ。
私のような伝統ある魔系の悪魔とは違う。
「これはこれは、ギャジさん。奇遇ですね。
小悪党の脳のマリネでも堪能されていますか?」
皮肉を込めて、私は言った。
ギャジは、
「いえいえ。今日は、レア物が入ったということでして、へへへ。
生粋のエリートの貴方でも手に入るかどうか」
軽薄そうな笑顔を浮かべて答えた。
「ほほぅ、どんなものですか、そのレア物とは?
聖人の頬肉ですか? それとも」
「日本の総理大臣の舌、ですよ」
ギャジは私を遮り言い、それを聞いた私はオーナーを睨みつけた。
どういうことだ。
「オーナー、説明してもらおうか。
私と彼、どちらかにニセモノを出しているのかね」
私は、怒りを抑えながら言った。
オーナーは穏やかに、
「いえいえ。どちらもホンモノでございます」
そう言って、深々とお辞儀をして続けた。
「この総理大臣は、素晴らしい二枚舌の持ち主だったのでございます」