おこることなどなにもありゃしない
国枝さんとの公園での出来事から、1週間程度経った。先生は人間の形を保っているし、他の皆もそうだ。でも、中身まで見ることができない。姿形は人間でも、中身までそうとは限らない。
おそらく、俺が一番人間じゃない。
海岸に来ていた。どこか遠くを見たかったからだ。隣には舞島さんがいる。釣竿を持ってだだっ広い水たまりに糸を垂らしていた。
「今日の釣果はダメだね」
「そうなんですね」
「でも、角谷君が釣れた」
「釣られてない」
舞島さんは、意地悪そうにからかうようにニカーッた笑った。
「私がここに糸を垂らしたから、角谷君が来たんだよ」
「そんなわけないでしょ」
「どうして、そんなことが言えるのかなぁ」
「いや、だって糸と俺は全く関係のないものでしょ」
「いやいや、違うんだなぁこれが」
「何が」
「因果関係なんてものは語り得ないことなんだよ」
「そんなわけないじゃないですか。物体を押す力が最大摩擦力より大きくなると物体は動きます。物体を押す力が原因で、結果物体は動きました」
「それ、本当に押す力が原因で動いてるのかな。君が押す時の力具合を妖精が見ていて頑張ってる君の代わりに妖精が物体を動かしたと考えることができるよね。この時、君が押す力は原因じゃない。妖精さんが原因だよ」
「俺が押して妖精が動かすなら、俺が元々の原因でしょ」
「いやいや、あくまで君が押すタイミングで妖精さんが押してくれてるだけで、君が押しても妖精がサボったりしたら動かないなら君は原因じゃない」
「君は,いや人間は自分の力で何かを変化させていると思い込んでいるだけで何も変化させていないじゃないかな」
舞島さんの釣り糸が張る.下からの引力.糸の先は不透明で見えない.これは魚が糸を引いているのか?針が底に引っ掛かったのか分からない.
「国枝先輩の言うことはあまり信用しないほうがいいよ」
舞島さんはつぶやく.その声は海風に乗って俺の耳に入る.
「舞島さんは国枝先輩を知ってたの」
「全くわからない先輩だよ.知ってるのは名前ぐらい」
嘘だ.今,舞島さんは俺に国枝先輩の言うことを信じるなということを言った.それは,つまり,俺と国枝先輩が知り合いであり,国枝先輩から俺が何かを聞いたことを知っている.
なぜ,なぜ,なぜ嘘をつくのか.
俺は,舞島さんを海に突き落とした.




