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超絶悪魔的トークアバウトゴッド

大学時代に書いたやつ。

この短編集の一話目においてる「君の鼻歌は悪魔のしらべ」の続編です。

2024年3月に書いたらしい。

「そういえば今度、フランス行くことになった」


「フランスのどこ、パリ?」


「たぶんパリ」


「たぶんて。パリって何とかあるっけ」


「なんだろ。クロワッサンとか?」


「パリに行こうとする人としてはありえないほどパリへの意識がない」


「しょーがないじゃん。友達が行きたがっててさあ」


「まあ央太郎、あんま海外とか行きたがらなさそう」


「んなことない。ほらあそことか行きたいし……あそこってどこ? 全然思いつかんわ。やっぱ海外興味なかった」


「どっち〜〜〜」


「てか英次は、どっか行くの春」


「実家帰るくらいかなあ」


「実家、人間界のほう、悪魔界のほう?」


「悪魔界のほう」


「おけ」


 英次は、央太郎にとって無二の友達だった。それは小学生の頃からそうで、大学生の今でもずっとそうなままだ。


 英次は、実は人間ではなくいわゆる悪魔なのだということを彼自身の口から央太郎が聞いたのはほんの二年前のことだった。

 英次は、抜けたやつだった。それは彼が人でないこととはおそらく無関係な元々の性格で、しかしそのせいで彼が実は悪魔であるという証拠はいつでもポロポロこぼれてくる。具体的には、気を抜くと人間の擬態が雑になってしまうことなどで、そうして悪魔らしい角や尾がだらけた様子の英次からひょっこり生えているのを、央太郎は以前からよく目にしていた。

 央太郎は、あれこいつもしかしたら悪魔かな、と中学生の頃から既に察していた。その当時は実に英次本人の口からその事実を聞かされるよりも、更に六年ほどのことである。


「そういえばフランスってことは、飛行機乗るんだよな」


「たぶん」


「そこはたぶんじゃなくね〜⁉︎ てか俺飛行機苦手なんだけど、央太郎はその辺どうなんだっけ」


「超よゆー。クソ長くて盛り上がりに欠ける絶叫系の仲間だと思ってる」


「結局なにがしかのスリルは感じてるんじゃんそれ!」


「まあアホほど運が悪かったらスリル通り越して事故るし」


「そういうとこがなにより百倍怖いんだよ俺は。とりあえずあれだわ、祈っとくわ俺。安全な空の旅を」


「ん? 今なんて?」


「え、なに? 安全な空の旅?」


「そこじゃなくて! 悪魔って祈るの?」


「祈りくらいするだろ。人間もするんだし」


「そういうことでもなくて! 悪魔って……何に祈るの⁉︎」


「はー? そりゃこの場合……大悪魔神様に?」


「そいつは悪魔なの神なの⁉︎」



 央太郎は、英次のことは今でも大切な友達だと思っている。今まさに英次の部屋に遊びに来て、共に何をするでもなくそれぞれ勝手にゲームでもしながら適当に雑談するだけで時間を費やせるのだから、確かな関係がそこにはあった。

 それでも月日は少しずつ友情の形を変化させていった。

 まずは悪魔界のことは関係なく、央太郎も英次もそれぞれ別のコミュニティでの人間関係を健全に構築しているので、古くからの親友といえど互いに割く時間は徐々に減っていった。フランス旅行に行くのだって英次と関係ない友人とのことである。通う学校が変わった高校や大学の頃から特にこの傾向はあったと央太郎は感じている。

 もうひとつ悪魔界に関係して、央太郎と過ごす時の英次は、悪魔界についての話題や悪魔ネタについて日常的に話すようになったということである。これは二年前の悪魔カミングアウト以降新たに生じたことであって、おそらく英次はこれを無自覚に行なっている。「自分相手であれば人間への完全な擬態は必要なくなった」ということの現れだろうと央太郎は理解している。

 そもそも 英次は、場に央太郎しかいない時には簡単に油断してしまう癖があった。角や尻尾がうっかり飛び出ていたあの日も、央太郎が英次の家に来ていた時のことだったわけだ。英次の抜けたところ──それが明らかに表に出ているところは、裏返せば英次から央太郎への信頼の証でもあった。


「大悪魔神様は大悪魔神様だろ。それ以上の説明は……ちょっとわからん。大とか神とか様とかついてるからそれなりに偉い存在ということは伝わると思う」


「そこ! 悪魔的には神ってワードって敬称としてオッケーなわけ⁉︎」


「えー、まあ普通にあるかなって」


「悪魔って神と対立する存在的なアレじゃないの?」


「その辺は……悪魔界の宗教的にセンシティブな感じになるから俺もよくわからんけども」


「悪魔界の宗教観ってなに⁉︎」


 英次がちらっと漏らした悪魔界ネタに、央太郎がツッコミを入れる会話も、悪ア(悪魔カミングアウトの略。悪魔界では一般的に言う)以降の二人の定番だった。

 つまり大体二人で話すたびに高確率で何かしらそういうやり取りが発生しているわけであったのだが、いまだに悪魔界の全貌は央太郎にも全く把握できていない。少しずつ分かるネタは増えてきたものの、その成り立ちも社会構造もまばらにしか理解できていない。


「ウチは新しめの悪魔だし、日系だからあんまその辺詳しくないんだよね。もっと古悪魔の方がその辺ガチかな」


「小悪魔が? 小悪魔なのに」


「あ、多分そっちじゃなくて古い悪魔って書いて古悪魔」


「ややこし」


「ちなみに悪魔に貴賎なしということで、小悪魔という言葉は悪魔界では爆殺十五年から使ってはいけないことになった。大悪魔神様の導きらしい」


「悪魔界の元号やっぱヤバいな。今なんだっけ」


「今は壊滅四百二十五年」


 英次は、悪魔界でいうところの壊滅四百三年生まれらしい。以前に聞いた。

 悪魔界の謎の雑学が貯まるばかりで、悪魔界における悪魔の概念のあり方とか発生が央太郎にはずっと分からないままなのだが、それはなんとなく英次には聞けないままでいた。

 自分から悪魔界についてどんどん積極的に深く首を突っ込んで聞くことは、なんか違う、とずっと思っていたからだった。



 今日も、英次の頭には角が生えているのが見える。えらくリラックスした様子で、適当になんかのゲームをぽちぽちしながらだらりと話していた。

 英次の部屋はつまるところ悪魔の領域で、人間界に侵食した悪魔界の一部みたいなものだ。その空間が、央太郎には心地よかった。悪魔界について語る英次の言葉も、耳を喜ばせた。

 会う機会が減ったとしても、とにかく英次と央太郎は友達だった。そこに悪魔の力が差し込んだとしても、とにかく二人は友達だった。

 自分が見聞きする英次が、その容姿が、語る言葉が、生きる世界がどんどん悪魔めいていったとしても、やはりきっと友達なのだろう。


「そういや子供の頃、大悪魔神様に頭噛んでもらったことあったなあ」


「え、獅子舞? てか大悪魔神様って実在すんの?」


「めっちゃ実在してるよ。ご存命」


「じゃあそれはなんかもう神とかじゃなくて普通に偉いお年寄りの悪魔だろ」


「なにかしらが神ってるのかもしれない。性格とかが」


「普通に偉くて優しいお年寄りの悪魔じゃん」


 大悪魔神様に噛んでもらうと、何かいいことがあるのだろうか。大で悪魔で神の様だし、きっと何かはあるのだろう。


 悪魔たちがどんな悪辣な種族で地獄みたいな世界に生きているとしても、あるいは全くそういうのではない善良なものたちであったとしても、友達が悪魔で、悪魔が友達で。こんなに付き合いの長くておまけに悪魔の友達なんて、央太郎にとって英次以外にはいないのだった。

 英次が悪魔界ネタを何か言うたびに、英次が悪魔に近づいていく気がする。いつか英次は立派に悪魔になって、央太郎に魂をねだるのかもしれない。しかしそこまでの過程をいっぺんに消費し尽くしてしまうのは、つまらないことなんだろうと央太郎は思わずにはいられなかった。無軌道な会話の中に、悪魔になりかけの何かがいた。それがどうにも愉快で、二人の友情の今の形であるとなんとなく感じていたのだ。


「悪魔界の話めっちゃしてたら、なんかすげー今すぐ帰りたくなってきたわ。里帰りめっちゃ楽しみかもしれん」


「お土産またあれ買ってきてよ、おいしかったわ、なんだっけ、あのキモいいぶりがっこみたいなやつ」


「逆にいぶりがっこが何?」


「たくあんの仲間だよ」


「あ、じゃああれか、毒マンドラゴラの炎スライム漬け」


「それだわ。名前に食べていい要素が微塵もないやつ」


「炎スライムが偉いんだよ。あとパリ土産もよろしくー」


「クロワッサンとかか?」


「持ち運びの過程でパリパリ感全部削げ落ちるだろそれ!」


「パリだけに?」


「パリだけに」


「すごすぎる、ウケる」


「本当にそう思ってる言い方ではない!」


 ……それでいてこの英次という悪魔はどこまでも案外人間じみていて、そういうところがなかなか面白い。ウケると言いつつ言葉が笑っていない央太郎も、内心ではしみじみと面白さを深く感じていた。おそらく。


「にしても、マジさー、マジで飛行機気をつけてな」


「乗客には別に気をつけてなんとかなることそんななくない? 英次はなにがそんなに怖いわけ飛行機の」


「あー、それな。あのー……悪魔界の昔の知り合いに、飛行機にちょっかいかけるのを生業にしてるタイプの悪魔がいてさ」


「縁切れ!」


「いや別にあんま仲良くはないけど。あとはそれでなんか別に人間界で飛行機事故のニュースとか見るとウワ〜ヤバ〜ってなる」


「悪魔もやっぱヤバいやつはヤバいんだなあ。僕は英次ん家しか知らんけど」


「根っからの悪魔界暮らしのヤバいやつは大概ヤバいんだよな。だから央太郎の乗る飛行機だけにはくれぐれも手を出さないように、って大悪魔神様から言ってもらおうと思って」


「もしかしてそれが、さっき言ってた大悪魔神様への祈り……?」


「そうだけど」


「英次、それは……もはや祈りとは言わない。祈りよりもっとド直球の何かだ」


「そ、そうだったのか……」


 つまり央太郎の見立てとして、悪魔は祈ることはできない。人間の持つ祈りに対しての、神秘的な部分が悪魔の祈りにはない。

 だからこそむしろ安心感があると、央太郎は思った。ふわふわした神頼みよりも、よっぽど即効性と確実性があるらしい。

 そういう考えに至る央太郎は、他の人間たちと比べると、極めて悪魔的な人間といえるのかもしれない。


「君の鼻歌は悪魔のしらべ」が大学時代最初にサークルへ寄稿した作品だったので、こちらは最後に寄稿した作品です。

作中の彼らと現実の時間経過は確か同じだったはず。卒業はしたけどのんびりした生活は今後ともずっと続くんだろうなと思います。そういう話。

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