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ライオンの作るパスタを食べない話

ドBL ケモ うっすらエッチ

2025年6月の作品

「君が作るパスタは不味い。新発見だなこれは」


「はぁ!? うるせ! 文句あんなら食うなし! バカクソアホボケ馬面ボケクソアホバカアホ!」


「馬面は単なる事実じゃないか。馬だし。前の、焼きそばは悪くなかったのに。なんで腕前が落ちるんだ?」


「そりゃ焼きそばは、ソース付属だし……切らしてたんだよパスタソース! うるせえな! ごちゃごちゃ言ってっとマジで下げるぞボケタコ!」


「タコではないな。馬だから」


 獅子倉はいつもこんな調子だ。馬場は時折獅子倉の自宅にお呼ばれしては、最後適当に二人で食事を摂る。なぜか決まっていつも獅子倉はそそくさと台所に立ち、手料理を振る舞う。

 エネルギーをとりあえず確保できればよし、といった様子のざっくばらんな獅子倉の料理は、凝り性でねちっこい馬場からすればあまり好ましいものではなかった。それでも基本は、馬場も小言は言いつつも大人しく食う。手料理を自分のテリトリーで食わせるということが、獅子倉のプライドを何とか維持するための涙ぐましいマウンティングだと理解していたからだ。別に、馬場だって獅子倉との関係を急激に悪くさせたいわけではないのだ。

 それにしたって、今日のパスタはだいぶよろしくない。合成肉と麺を一緒に適当に煮たのだろうか、肉につけられたわざとらしいフレーバーが全部抜け切って、食器用スポンジのような口当たりの具がぐでぐでの麺の中に転がっている。そこに、デタラメな量の油がかかって、なおさら口当たりが悪い。


 草食動物でも食べられるという触れ込みの合成肉が、肉食動物の舌にとって実際どの程度食えたモンなのか、馬場には当然ながら分からなかった。

 ……食べられなくはないけど、わざわざ食べたいわけでもない。そんな塩梅に感じられるその食材も、肉食動物にとっては必須栄養素のカタマリであるということを、馬場は毎度不思議に興味深く思っていた。こうして肉食動物の男と、仲良く二人で食卓を囲むようなことがある度に。そんな大切なものの摂取の仕方が、こんなおざなりな形でいいのだろうか? 自分ならもっと上手くやれるさ。


「なあ、ちょっと塩と胡椒取ってくれ。あと水と乾麺と合成肉とチーズと鍋も」


「ゼロから再構築しようとしてんじゃねえよ!」


「いいからいいから」


 ぶうたれた獅子倉に自分の分のパスタも押し付けて、馬場は他人の家の台所に立った。普段からあまり使い込んではいない場所などなんだろうな、ということは、動線が整えられていない物の配置から分かることだった。



「うわ、クッソ、美味いし……腹立つ……」


 獅子倉は、よく食べる。二人前のパスタをたいらげたあとに、馬場作のパスタもガツガツと飲み込んでいく。


「合成肉を他のとまとめて茹でるの、やめなさい。アレはそんなに長いこと火を通すようなもんじゃない」


「めんどくせぇ注文ばっかしやがって。えらそーに」


「いつも最中に、あれこれ注文つけてくるのは君のほうだろ。やれもっと奥だの、止めてだの止めないでだの、もっとして欲しいだの」


「ばっ、お前……バカ! マジでバカ! ヤッてる時のセリフとか、ねーだろ! いちいち覚えて言うとか!」


「してる時は、それでも子猫ちゃんみたいでかわいいのにな。終わった途端いつもこれだ。いい加減そんな照れ隠しみたいに騒ぎ立てるのもやめればいい。僕は君の本当の素直な姿も知ってるんだぞ」


「ホントの姿とかな訳、ねーじゃん……お前がおかしくしてんだろ。バカ。こっちのが素だかんな! 言わせてんだよブイブイ、いつもは!」


「あんな雑な料理で、何も格好つかないぞ。現代の肉食動物は、肉を食うのも下手くそでまるでダメだな。そんなんだから僕みたいなのに食われてしまうんだ」


「うるせ……うるせうるせうるせ! ……はあ、お前、マジで……。いやクソ、そんなキモい小言どーでもいいっつーの! あー、あのさ、そんでお前次、いつだよ……来れんの」


「来月になるかな」


「……今月中に、ならねーの」


「考えるだけ考えておくよ一応」


「早くしろよ。空けとくから……ウチ」


「君がうちに来たって構わないのに。それならもう少し早くなる」


「そんなんしたら、俺は終わりだ」


「一生分からん感覚だな、それ」


 不味いパスタを振る舞われて、正直なところ、馬場は嬉しく思った。何度も何度も抱き潰してきたこのライオンの男、それでも平時は強気なふりをして見せる男に、まだまだ自分が新しく付け入る隙があるということが改めて分かったからだった。

 獅子倉のどんな欲望も、いつかは自分の手中に収めたい。ツンとした彼を完全に屈服させて、それを愛でていたい。実際にそうなるとかえって寂しいかもしれないが、それを押し進める今の時間はまだ楽しめる。それが愛しい。


 皿を洗いに流しに立つ。そのくらいやらせろ、と獅子倉がよこからぐいと割り込むように入ってくる。獅子倉は力で馬場を押さえ込んで、流しの主導権を奪取してみせた。それから、ざまあみろと言って笑った。

 そういう獅子倉の無邪気さが、それも、愛しい。馬場にとっては。

当時「君が作るパスタは不味い」から始まるケモBL小説を書こう、というムーブメントがツイッターでじんわり話題になっており、ブームに乗って書いたもの。

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