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オープニング・アクトはくだらない食事のように

三題噺もういっこあったわ


「ここに、卵があるとする」


「あるとするというか、あるじゃない今まさに」


「あるけどもさ」


 こんこんガツ、とちゃぶ台の端に卵を打ちつけた。その瞬間に奴は口を開いた。


「TRICKてドラマあったじゃん。わかる?」


「仲間由紀恵のやつ」


「そう、阿部寛のやつ」


「戸田恵梨香のやつ」


「それSPECだろ。で、TRICKのオープニングで毎回、怖い曲流れて卵がだんだん割れてくの。覚えてる?」


「あったな。なんか、中身が変な色だったりするやつ」


「いくつかあったっけ? 俺、青いやつとヒヨコが出てくるやつしか覚えてないけど」


「えー、ヒヨコなんかあったっけ。紫とかはあったな、青は分かるわ」


「俺TRICK見た時、全然子供だったからさ。すげートラウマになっちゃって。その、青いの。卵割ったらいつか、その青いのがでろりと出てくるんじゃないかって。いまだに卵割る時、三分の一くらいの確率でうっすらそのこと考えちゃうんだよね。今三分の一きてる」


 割りかけの卵に手をかけ、奴は器の上にその手をピタリと止めて、懐かしのドラマの話を不意にする。


「……なんで、すき焼き食べるぞって卵割る時にその話するの?」


「TRICKのオープニングの卵の話なんて、卵割る時以外思い出さないじゃん」


「TRICKの話する時に思い出すだろ普通に」


「それもそうか」


 奴の無駄話は完全に無視し、俺は卵を器に割り入れた。白身が二段の層を作る、黄身にもツヤのあるぷりぷりの新鮮な卵だ。

 俺はそれをすぐさまかき混ぜて、ツヤめきも何もないオレンジの卵液を仕立て上げた。


「そういえば、ヒヨコは黄色いから黄身だけど、例えば青い鳥の卵は青い黄身なのかな。青身?」


「早く食え」


「真面目に答えて!!!」


「鳥博士じゃないもん知らんよ」


「うわーもう黄身気になって食事どころじゃない。黄身に胸焦がさない」


「まあでも、黄身って言うからにはだいたい黄色いんじゃないの。考えてみろよ、普通に青い黄身の卵が実在してたら、TRICKのオープニングがカッコつかないだろ」


「んー、まあ」


「ふつーに卵が割れて黄色い黄身が出てくるオープニングから、いい物語が始まるもんか。せいぜい3分クッキング程度がいいとこだ」


「3分クッキングのオープニングはなかなかクレイジーだった記憶あるけど」


「そうだっけ?」


「とりあえず、言わんとしてるところはわかったよ。俺の人生は平々凡々でくだらないから、卵を割っても青い卵は出ないんだ。奇妙な事件は起こらないし、本物の超能力者もいないし」


「そんな卑屈な話だったかなあ。てかマジ、早く食え」


「よーし割るぞ割るぞ割るぞ卵割るぞ……」


「気合いすご」


 開きかけの卵、封印が解かれかけたヒビ、奴はそこに手をかけて、厳かかつ強引にそして物語の始まりを明かした。でろんとしたものが、皿に滑り落ちて少し跳ねた。


「うわ」


「やっば」


 奴の割った卵は、綺麗な黄身の双子だった。


「えキモ……」


「いいじゃんレアだろ。縁起いいって言わない? 双子」


「青い方が逆にマシだったかもしれん。なんかこう、生き物の生々しさがさ」


「文句の多い奴!」


「……ところでこの場合、お前の解釈によればどういうことになるんだ。青くはないけど、双子の黄身」


「まあ、なんか、それならそれで、なんかちょっとくだらない程度の物語とか、事件がさ、始まるんじゃないか。これから……」


「ん〜〜〜〜そうかも。……あっ、やばい……しまった!」


「あれ、なに、早速なんか起きた?」


「やっばいわ」


「黄身の双子以上に何かが?」


「マロニー買い忘れた……すき焼きなのに」


「くだらねえなぁ……」


「いや大事だろマロニーちゃん!」


 すき焼きがちゃぶ台の真ん中でぐつぐつといって、奴の皿に落とされたっきりそのままの双子は両の瞳のように俺たちを見つめている。そこで起きている物語を静かに鑑賞するように。

 別に、大したことは起きていないし起きる予定もない。ただマロニーを買いに行くべきかどうかと騒ぎ立てているだけだ。

 

 それともあるいは、すき焼きがちゃんと美味しいというだけでも何か意義のある物語になったっていいはずなのだ。


 さて、卵は開かれた。その後の卵を誰がどうしようと自由だ。肉をつけてもいいしご飯にかけてもいいし割下と混ぜてもいい。結局のところ、物語とはそうだった。

 

お題は「卵」「青」「物語」。

ゆるゆるとした脳でのびのびと書くとこんくらい適当な感じのが書けます。

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