サンサンアセロラウォーター!
高校時代か大学時代かに書いたやつ。BL。
いわゆる三題噺です。お題はなんでしょうかね。
「甘くておいしい!」
「酸っぱくておいしい!」
「ビタミンCたっぷり!」
「赤いさわやか!」
「クールなドリンク!」
「サンサンアセロラウォーター! 新発売!」
*
「サンサンアセロラウォーター!」
「うるさいよ……」
淳はサンサンアセロラウォーターを飲んでいて、樹はいつものココアを飲んでいた。
「樹さー、なんでサンサン飲まんの?」
「何飲むかとか個人の自由だし」
「別に….....」
「いやだって、樹アセロラ味好きじゃん?」
樹はサンサンが嫌いだった。
淳と樹の帰り道。途中の自販機で飲み物を買って、だらだら話しながら歩くのがいつものことだった。
樹は毎回ココアを買い、淳はいっぱい悩んだ末に毎回違うものを買う。そういうつまらなくて、単純で、のんびりした日常が樹は──好きだった。
「サンサンアセロラウォーター! サンサンアセロラウォーター!」
新発売のドリンクがある日自販機に並んだ。
テレビやネットでも大々的にCMが打たれ、赤色の飲料は瞬く間に街に蔓延る。老若男女サンサン。猫も杓子もサンサン。
いつもの帰り道、淳が迷うことなくサンサンばかり飲むようになったのもそれからほどなく。
「んー! やっぱりうまい! 水みたいにごくごく飲めるのに、ちゃんと甘くて酸っぱい!」
「こないだもおんなじようなこと言ってなかっ
た?」
「ほんとにうまいんだもん」
淳が雑な感想を口にして、樹は少し不機嫌になった。
樹はサンサンが嫌いだった。
やかましい広告。安っぽくて下品なラベル。それをみんなして飲んでいること、そして淳が飲んでいることが、妙にシャクだった。
先にサッサと購入を済ませた自分を待たせないようにと、あたふた自販機の前で悩む淳の姿が見られなくなったことがなんとなく......。
「でもさ、やっぱさ。前アセロラ好きって言ってなかった? 飲まず嫌いしてないで飲んでみな
よ、ほらほら」
「や、やめろよ……それじゃキ…… 汚いだろ!」
「汚かないだろ〜!」
強く抵抗してしまった理由が、樹自身にはよく分かっていなかった。
「樹ってそういうことあるよなぁ。なんか頑固っていうか」
「……」
樹はサンサンが嫌いだった。
淳と二人の時間を過ごしているはずなのに、二人の世界の外側から来た何かに大切な時間が奪われてるような気がして。だけど自分も淳も、当然いろんな世界と関わりがあるはずで、そんなことにいちいち目くじらを立てるのが情けなくて、 そういうのも引っくるめて諸悪の根源のサンサンが嫌いだった。
「じゃあさじゃあさ、明日はさ。二人でサンサン飲もうぜー」
「なんでそんなにサンサンにこだわんの」
いつもココアを飲んでいる。いつもうだうだ迷っている。いつも変わらないことが樹の安心。
それが崩されそうになるのは、少し不愉快だったけど、
「おいしいんだってば! そういう良いことって、誰かと共有したいじゃん?」
「……?」
「だから飲んでみなってば。絶対好きだよー、俺も一緒に飲むからさ!」
「淳が飲んでるのはいつものことじゃん......」
......そう口にして、樹は不自然に感じて、それから思い当たった。 「いつも」がいつの間にか変わっていたこと。それでも淳が隣にいたこと。
二人の時間を満たす赤い液体が、それにムカつくことが、気が付けば自分の日々に組み込まれていた。
それがいいことなのか悪いことなのかは分からないけど。
だったらまあ、仕方ないことなのかもしれない。
「ふーん、じゃあ一日くらいなら飲んでみるかなぁ」
「マジ! ぜったいだかんな!」
もしかしたら明日味わうかもしれない甘酸っぱい味を想像して、樹は苦笑いした。
お題は「赤」「水」「猫も杓子も」でした。
ここから数編、三題噺が続きます。




