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ドラゴン会議

大学時代のやつ。

 まず、ドラゴンのドラゴンが存在した。ドラゴンのドラゴンは、他の全てのドラゴンを創った。

 続いて世界のドラゴンが、この世界を創った。

 またこの次には天のドラゴンが天を創り、地のドラゴンが地を創った。

 それから海のドラゴン、風のドラゴン、山のドラゴン、草のドラゴン、川のドラゴン、石のドラゴン、人のドラゴンが、海や風や山や川や石や人を創った。以後も続いて、ドラゴンのドラゴンが生み出した様々なドラゴンが、様々なものを生み出していった。そうして今我々が生きる土台が成り立ったのである──。


 神竜大陸ドラガツクータ(ドラガツクータのドラゴンにより創られた、大陸及びその名称である)にはこのような神話が存在する。

「あなたがドラゴンに見守られている限り、あなたはいつでも新たな発見をするだろう。あなたがドラゴンに見捨てられるなら、あなたは無に閉ざされるだろう」、というドラガツクータの諺が示すように、この地において人間が得られるあらゆる叡智は、ドラゴンに支えられるものとして受け取られている。


 ドラガツクータにおけるこの壮大な創造神話とドラゴン信仰は、ドラゴンが確かに存在しているという了解のもとで人々の間で語り継がれてきた。ドラガツクータには人間が数え切れないほどのドラゴンが生息している。ドラゴンは時折、竜界(かつて竜界のドラゴンが創った、ドラゴンたちの生息地である異界)から人間界に降り立ち、自らの被造物を見守るかのように大空(天のドラゴンが創ったものである)を飛んだ。

 ドラガツクータには、何かを示す概念と同じ数だけ、ドラゴンが存在しているのである。その総数は、ドラガツクータに生きるドラゴン以外の生命体の総数よりも、はるかに多い。


 そしてここは、竜界。その、大会議場である。

 今この会議場に、ドラガツクータの全ドラゴンが集結していた。


「それではこれより──ドラゴン会議を開始する」


 議長を務めるのは、ドラゴン会議のドラゴンだった。かつて会議のドラゴンからその職務を受け継いだ、ドラゴン会議を専門に司るドラゴンである。


「新たなドラゴンの誕生を求めるもの、挙手せよ」


 大勢のドラゴンが、一斉に手を挙げた。ドラゴン会議のドラゴンは、その中からまず一体のドラゴンを指名する。


「では、クシャミのドラゴン」


「はい。では僭越ながら。近くに、クシャミをする人間たちの間で、新たな概念が起こる兆しが見えます」


「それは、どのようなものだ」


 ドラゴン会議が促して、クシャミを司るドラゴンであるクシャミのドラゴンは、クシャミの実情について語り始める。


「クシャミの仕方にも、いくつかのパターンがあります。中でも今最も注目されているのは、大きく口を開け、唾液や息を強く広範囲に撒き散らし、ビャシャアーーーッ、や、ンベェーーーッ、といったような声を伴うクシャミでございます。まるで我々ドラゴンのブレスにも似たこのクシャミの様式を、ブレス・シャドミスと名付け、ブレス・シャドミスのドラゴンを誕生させることを私は提案します」


「なるほど。人の体や病に関わることだ。ドラゴンを誕生させるに十分な必要性があるだろう。──ドラゴンのドラゴン様、如何でしょうか?」


 ドラゴン会議のドラゴンは、大会議場の最奥、豪奢なカーテンの向こうにそのシルエットのみが見える──原始のドラゴンにして全てのドラゴンを司り創るドラゴン、ドラゴンのドラゴンへと言葉を送る。

 大会議場に緊張が走る。何か大きなものが口を開く、ギギギ……と軋むような音が聞こえて、やがてその言葉は発された。


「──誕生を、許可する」


 ドラゴンのドラゴンによる、世界を揺るがす気迫を持った声が会議場に響き渡った。その言葉が発されると共に、ドラゴンのドラゴンのシルエットが膨れ上がる。その背から、水が湧くかのように新たなドラゴンが誕生したのである。


「皆の者、新たなドラゴンの誕生に拍手を!」


 ドラゴン会議のドラゴンがそう呼びかけると、パチパチパチパチ……拍手のドラゴンを先頭に、会議場のドラゴンたちの全てが弾けるような音を立てた。


「オギャア! オギャア!」


 拍手ののちに、新たなドラゴンが産声を上げる。ブレス・シャドミスを司るドラゴン、ブレス・シャドミスのドラゴンの誕生であった。そしてこのときドラガツクータにも、ブレス・シャドミスの概念が発生したのである。


「次に新たなドラゴンの誕生を求めるもの!」


 ドラゴン会議のドラゴンがそう呼びかけると、クシャミのドラゴンを除いて……先程と同様のドラゴンの面々が、挙手をする。ドラゴン会議のドラゴンはまた、その中から一体を選んだ。


「では、ミョルデの滝のドラゴン」


「はい、ミョルデの滝のドラゴンです。ミョルデの滝に住まう全ての種の生命のドラゴンを代表し、わたくしから述べさせていただきます」


 ドラガツクータ南西部、タダラの国に存在する滝ミョルデを司るドラゴンである、ミョルデの滝のドラゴンは、透き通ったようでありつつも凛と強く貫く大きな声を会議場に響かせた。


「我がミョルデの滝がどれほど生命に富んでいるかについては、改めて語る必要もありますまい。滝では多くの生き物たちが調和し、生態系を構成しています。ですが──近頃、看過できぬ問題が発生しています」


「というのは、いったいなんだ」


「ええ──我が滝に住まう魚類の一種、ユアンデレがこの数百年、滝の中でも特に繁栄している種でございます。しかしユアンデレの個体数の増加により、滝ではピョリトイが減少するほか、ユアンデレの糞が分解しきれなくなる……などの問題が発生しております。わたくしが提言しますのは、ユアンデレを捕食するものであるところの鳥類ラバテニョイの大量発生を起こすこと……すなわちラバテニョイの大量発生のドラゴンの誕生でございます」


「なるほど。生態系のバランス維持は、我らドラゴンにとってもっとも重大な役割のひとつと言ってもよいであろう。──ドラゴンのドラゴン様、如何でしょうか?」


「──誕生を、許可する」


 再びドラゴンのドラゴンがその存在感を放つと、すぐさまドラゴンのドラゴンからはラバテニョイの大量発生のドラゴンが生み出された。

 パチパチパチパチ……拍手のドラゴンらが立てるその音に、ブレス・シャドミスのドラゴンもまた、新たなドラゴンの誕生を祝福する側として加わっていた。


「オギャア! オギャア!」


 このときラバテニョイの大量発生の概念がドラガツクータにも生まれた。やがて、ラバテニョイはラバテニョイの大量発生のドラゴンの加護の下、大量発生するだろう。


「続いて、第三に、新たなドラゴンの誕生を求めるもの!」


 ドラゴン会議のドラゴンは場を仕切り、次の議題を促した。幾竜ものドラゴンが挙手する中で、ドラゴン会議のドラゴンが指名したのは、一竜のいけすかないドラゴンだった。


「では、火炎魔法のドラゴン」


 火炎魔法を司るドラゴンである火炎魔法のドラゴンは、のっそりと話し始める。


「ああ。オレがドラゴンの爺さんに創ってもらいてぇドラゴンは、ずばり……フォスティラデストリアリエスのドラゴンさ」


「火炎魔法のドラゴンよ! ドラゴンのドラゴン様に向かって、そのような無礼な態度を取るとはっ! 貴様……」


「はいはい、そんなこと言ってていいんすかねぇ、ドラゴン会議のオッサン。オレをここで糾弾でもして、フォスティラデストリアリエスを発生させなかったら……後で困るのはあんたも含めた、この世界の全員だぜ?」


「ぐっ、貴様……減らず口を。まあ、よい。では話してみせよ。フォスティラデストリアリエスとは一体、何なのかを!」


「言われなくてもそうするっつーの……。んじゃ、まず、フォスティラデスについては全員知ってるよな?」


 首肯のドラゴンを先頭に、会場のドラゴンたちは皆頷いた。

 それを確認した火炎魔法のドラゴンは、ニヤニヤ薄ら笑いを浮かべて、自分の隣に腰掛けるフォスティラデスのドラゴンをバンと叩いた。

 フォスティラデスのドラゴンは、何故だかすっかり縮こまっている。その代理として、火炎魔法のドラゴンは話していた。


「フォスティラデスを詠唱する際には、リエスが必要になる。九千回前の会議で、リエスのドラゴンが誕生した時にも確認したことだ。だがよぉ、ハハッ、笑えるぜ! 人間ってヤツぁ、本当に!」


「火炎魔法のドラゴンよ、関係のないことを話すのはドラゴン会議規則にて禁じられていますぞ……話は手短に。そしてフォスティラデスのドラゴン、可能ならこれはあなた自身の口から語りなさい」


 ドラゴン会議のドラゴンの横に座る、ドラゴン会議規則のドラゴンが、火炎魔法のドラゴンとフォスティラデスのドラゴンを注意する。

 フォスティラデスのドラゴンは小さく首を縦に振って、火炎魔法のドラゴンへ目を向けた。


「ハッ、うるせえよ。これが笑ってられるかっての……近頃の人間はよぉ、聞いて驚くぜ? フォスティラデスを詠唱するためのリエスを、ガロンテにするヤツが現れたんだよ! バッカだよなあ!」


「リエスを……? ハッハッハ、嘘だろ!」


「嫌だわ、ガロンテなんて……神聖な大会議場で!」


「人間の下品さには、目を当てられないものがあるな……」


 会場のドラゴンたちはざわついて、それぞれにガロンテにされたリエスについての反応を示した。それを見て火炎魔法のドラゴンは更に大笑いして、フォスティラデスのドラゴンは赤面して俯いている。


「ん、まあ、そんでよぉ。ガロンテにされたリエスで使うフォスティラデスは、当然だが普通のフォスティラデスとはずいぶん違う。魔力構成からして別物だ。ありゃあもう、フォスティラデスと同じものとして見ちゃいけねぇわけだよ。んな訳でオレはこの、ガロンテにされたリエスで使うフォスティラデスを、フォスティラデストリアリエスと名付け、その誕生を求める。……あーっ、真面目に言えば言うほど馬鹿らしいぜ! ワッハッハ! さ、どうだ、ドラゴン会議のオッサン?」


「ぐ、ぐぬぬぬぬ……態度こそふざけてはいるが……このことは火炎魔法及びフォスティラデスにとって、無視できない存在であることもまた事実。非常に不快ではあるが……ドラゴンのドラゴン様、如何でしょうか?」


「──誕生を、許可する」


「皆の者、新たなドラゴンの誕生に拍手を!」


 パチパチパチパチ!


「オギャア! オギャア!」


「おー、おー、ありがとーごぜぇます。なあなあなあ、どうだぁフォスティラデスのドラゴンよぉ! ガロンテにされたリエスで、きょうだいができた気分! ワハハッ、信じらんねえよなほんと!」


「やめてよ火炎魔法の兄さん、一番恥ずかしいのは僕なんだよ……」


 その後も紆余曲折ありつつ、今回のドラゴン会議は無事終了した。今回新しく誕生したドラゴン及び概念の数は、千を超えた。

 こうしてまたドラガツクータに、新たな概念が広まることになった。ドラゴンたちは人間界に下り、自らの司る概念を見守るように空を飛ぶ。

 生まれて間もないフォスティラデストリアリエスのドラゴンもまた、そのうちの一体だった。フォスティラデストリアリエスする人々を、フォスティラデストリアリエスのドラゴンは見つめている──例えフォスティラデストリアリエスが一般には許されないような、禁忌に近いことだとしても、フォスティラデストリアリエスのドラゴンは穏やかな瞳でただ見つめていた。フォスティラデストリアリエスを、このドラガツクータでただ自分一体だけでも許容するように、そして自らに誇りを持つように。

 そしてドラゴンのドラゴンもまた、自らが生み出したドラゴンたちを穏やかに見つめていた。そのうちにはブレス・シャドミスのドラゴンも、ラバテニョイの大量発生のドラゴンも、当然フォスティラデストリアリエスのドラゴンも含まれていた。

 全ての概念に貴賎はない。全てはドラゴンありきで、全てのドラゴンに貴賎はない。全ては等しくドラゴンのドラゴンから生まれただけのもの。

 それを真に深く識るドラゴンのドラゴンは、その大きくて重たいばかりの老体でも、それでも創造の意志を未だ持ち続けていた。

 嗚呼、ドラゴンたちが空を行く。それを見上げるたびにドラガツクータの生き物たちは、また新たなものを得るのである。


おふざけ枠につきノーコメント。

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