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時計塔

書き上げたのになんか没にしたやつ。

コテコテのホラーみたいなのを実験的に書こうとしてた記憶があります(つまりこれはホラーです)


 はい、それならとっておきのお話がありますよ。誰かに怪談話を尋ねられたら、私は必ずこれを話すことに決めているんです。

 なぜって、私が実際に体験した話だからですよ。私にとって一番怖いのはそれ。自分がこの身で味わった恐怖こそが、もっともおっかないって、そう思いませんか。それに──。

 いえ。まぁ。御託は抜きにしますか。はい、はい、お話ししますよ、すぐに。




 そうですねぇ。あれは、私が確か、八つくらいの頃だったと思います。

 その時住んでいたのは、村……というには立派で。町でしたね。とある町に住んでいて。山が近くにあって、自然が豊富だったせいか、人々ものんびりとしていました。いいところでしたよ。今ではすっかり寂れていますけれどね。

 

 私は、両親と、それから妹と四人で暮らしていたんです。妹──リエちゃんは、そのとき五歳でした。

 私も、いま、ほら。右足がね。うまく動かなくて。障害があるんですよ。

 それで──関係ないといえばそうなのだけど。リエちゃんも、私の足は後天的なものですが、生まれつき、障害を持っていて。

 耳が全く聞こえなかったんです。

 だから親は色々苦労したみたいですけどね。でも私にとってリエちゃんは、ただのかわいい妹でした。

 リエちゃん自身も、耳のことで困ったりしていたんでしょうね。だからいつも私にぴっとりくっついてきて。私が口を動かすのを真似て、何か言葉にならない言葉を喋ってみたりだとか。私がどこへ行くにも付いて行こうとしたりして。ええ、ほんとうに可愛らしかった。私もリエちゃんのことが大好きでした。小さい私もすっかりお姉さんぶっちゃって、ねぇ。

 だけど、リエちゃんは六歳にならないうちに死んでしまった。

 はい、ここからがお話の本当の始まりなのです。あの日の幼い私が味わった身の毛のよだつ恐怖。そのはじまりがリエちゃんの死であった、ということ。


 だけれどリエちゃんのことをもっと喋るよりも先に、伝えなくちゃいけないことがあります。これがこの、私が体験した怪談話のいわばミソの部分なわけですからね。

 夕方になると、鐘がなるじゃないですか。日が落ちるのを告げる時計の鐘。子供たちに、家に帰れと告げる鐘。私の町にもありました。


ボーン、ボーン、ボーン。


 そういう音が。遠くに時計塔があって、毎日毎日、鐘が鳴るんです。いつ知ったのか分からないけど、いつからか私はそのことを知っていました。

 だけど私は、時計塔があることは知っていても、時計塔の場所は知らなかったんです。

 鐘の音が町中に反響して、ぐわんぐわんとうねっていく。

 だから本当は、鐘は三回きり鳴るのですけど、もっと多く聞こえた。


ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。


 ちょうどこんな具合にね。

 頭が痛くなるほど大きな音で、それが四方八方から、私をその場に閉じ込めるみたいにがんがんと響くのです。

 だから時計塔がどこにあるのか、音を聞いて判別することができなかった。それに周りを見渡しても、塔ですからね。高いところに時計があるじゃないですか。それを見つけられなかったんです。当時まだ子供でしたから。

 だから不思議なことに私は、どこにあるのかも知らない、見たことのない鐘の音を、「時計塔」のものだって思ってたわけなんですよ。

 時計塔って、日本にはあまりないじゃないですか。例えば札幌には有名なのがありますけどね。そういうふうに、有名で、観光名所になってしまうようなものですよね。

 とにかく幼少期の私の記憶にはいつも、


ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。


 そんな音が付き纏っているんです。




 リエちゃんの話に戻りましょう。

 ある朝目が覚めると、リエちゃんがいませんでした。

 その前の夜リエちゃんは急に熱を出して、いつもは私の隣で寝ているのですけど、病が私にうつるとよくないからってリエちゃんは母の隣で寝ていました。

 それで母が目を覚ますと、隣にいるはずのリエちゃんが消えていた。そう言っていました。

 もう私も父も、もちろん母も大騒ぎで、家中リエちゃんを探しました。押し入れ、洗濯機、冷蔵庫……きっと元気になったリエちゃんが、悪戯をしてどこかに隠れているんだって思って。だけど家のどこにもリエちゃんはいなかった。

 もう大慌てで、町の駐在さんとか、ご近所さんにもみんな伝えて、リエちゃんをあちこち探しに行きました。八百屋さん、公園、ケイコちゃんのお家……でもやっぱりリエちゃんはどこにもいなかった。

 昨晩まで熱でウーンウーンとうなされていて、しかも五歳の女の子ですよ。病み上がりだったとしても、自分一人でどこかへ行くなんておかしい。ましてや夜中に家を抜け出すなんて。

 最後にまだ探していない場所は、お山でした。町のすぐ隣にある山。信じられないけれど、もう残っているのはそこしかなかったんです。

 私は父についていって、山を登りました。八歳の子供には険しすぎる山で。転んで、擦り傷いっぱい作って土まみれになって探し回りました。

 でも、やっぱりこんなところにリエちゃんがいるわけない。リエちゃんにはこんな山を登ることができるわけがないでしょうから。

 

 なのに、私は信じられないものを見てしまったんです。ちょうど、


ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。


あの鐘が鳴り響いている時のことでした。山から聞く鐘は、いつもよりずっと怖く聞こえました。頭を殴られるような強い衝撃。

 リエちゃんの靴がかたっぽだけ、山道に落ちていました。もうすぐ頂上というところに、急に。

 道を少し外れると、そこはもう危険な斜面になっていて。父は恐る恐る、斜面の下を覗き込みました。そうして、ひぃっ、と小さな声をあげたのです。力強い父のあんな声を聞いたのは、これが最初で最後です。

 私はその先に何があるのかを確かめようと、父に駆け寄りました。

 父は私の頭をがしっと掴んで、強引に目を隠そうとします。そんな制止もふりきって、私は見てしまいました……。

 そこには確かに、何かがいた。

 ああ、いえ、お化けや怪生の類という意味ではありませんよ。

 やっぱりリエちゃんだったのです。私にはリエちゃんには見えなかったのですけど、ぼろぼろになった服や、「それ」の大きさは、確かにリエちゃんのものでしたので、認めざるを得なかったわけです。

 ひどいものでした。赤いものが強烈にぶちまけられ、そして斜面に線を引いています。その先には何かの塊があって。思い出すだけで気持ち悪くなります。リエちゃんの可愛らしい脚。リエちゃんのぷにぷにとしたお手手。リエちゃんの小さい頭。その──どれもが──。


 ……。

 ひしゃげて、割れて、潰れて、私のかわいいリエちゃんは死んでしまった。

 山道で足を滑らせて。


ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。


 鐘の音。時間が止まったみたいな私の世界に、ずっとずっと鳴り響いていた。

 単に、そう感じただけかもしれません。だけど私には本当に、永遠に、永遠にあの時計塔から、鐘が鳴り続けるように思えて──。




 それから、意識が遠くなってしまいました。

 気がつけば私は家に帰っていて、近所のおじさんが私の背中をしきりにさすっていました。

 リエちゃんは、お山に連れて行かれてしまったんだよ。お山の神さまのところで、リエちゃんは幸せに暮らすんだよ……。

 おじさんがそう言ったのを、私は覚えています。

 今思えば、とてもシンプルな、日本のどこにでもありそうな、山への信仰と畏怖、そんな言葉ですね。

 それはつまり、悲しい山の事故への、なんとかひり出した慰めの言葉です。


 ああでも、結局みんな、分からずじまいだったのです。どうやってリエちゃんは、どうしてリエちゃんは、あんな山の高いところまで。

 誰にも言わなかったけれど、私は思っていたことがあります。おじさんの慰めを聞きながらも。


 きっと山は、関係ないんだ。

 リエちゃんは、ただ、高いところにいきたかったんだ。


 そう、思っていました。




 ……話が長くなってしまいましたね。

 でも、ごめんなさい。まだ続くのです。

 だってこれだけじゃあ、怪談話とは言えませんものね。まだ、私の体験した、不思議で悲劇的な事故の話しかしておりませんから。





 リエちゃんが死んで、お葬式も済ませました。

 子供の私には意味のわからない儀式が延々と続いていました。

 リエちゃんは、こんなことをしたって救われない。リエちゃんはどこかくらいところで、私を探している。

 天国に、行く。そんなのは無理です。だってリエちゃんはいつも、どこへ行くにも私についてきていたのに。


 リエちゃん、どうして、ひとりで山に行ったの。


 それから父と母は何度も喧嘩をしました。

 リエは死んだ、仕方ない、あれで良かったんだ。何を言っているの、ひどすぎる、リエちゃんをなんだと思っているの。


 私は、いつもこっそり聞いていましたけど、母の意見に賛成でした。

 リエちゃんが死ぬなんておかしい。リエちゃんに、戻ってきてほしい。


 私が、死ぬ直前のリエちゃんと同じように、突然熱を出したのはそれから数日後です。

 父も母も怯えていました。私もまた、リエちゃんみたいに、急に飛び出して、死んでしまうのではないかと。

 

 私はといえば、体がとっても熱くて、重たくて。呼吸すら苦しかった。私を囲んで、めそめそと涙を流す母、何も言わずに拳を堅く握る父。

 二人ともそんなに心配しなくてもいいのに。私はこんなに苦しいから、リエちゃんみたいにどこか遠くへ行ってしまうことはないよ。私はきっと、死ぬ時もこのまま、ベッドで死ぬんだよ。そう伝えたかったけど、息はぜぇぜぇいうのみで、言葉なんて一つも出なかった。


 でもそんな心配への心配さえも、じきに熱が溶かしてゆく。あれこれの考えがぜんぶどろどろに溶けて、私の心はただ一つに埋め尽くされてゆきます。


 高いところへ行きたい。

 

 それしか、考えられなくなって。




 気がつくと、夢を見ていました。

 リエちゃんが、私たちの町をひとりで歩いています。まるで、黒い太陽にでも照らされているような、明るい影が伸びているような、不自然に暗い町でした。


ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。


 あの鐘が鳴っています。あちこちで反響しています。終わりなどないみたいに、ずっとずっと鳴っています。

 それでもリエちゃんは、どこかを目指してまっすぐ進んでいきます。きっと鐘の音のする方へと歩んでいるのでしょう。そう思いました。


 いや、それはおかしいはずだ。私は瞬時に気がつきました。リエちゃんには鐘の音が聞こえるはずがない。あの子は、耳が聞こえなかったから。

 リエちゃんがひとりで歩いているはずがない。あの子はいつも、私の後ろをついてきた。


 すると、夢見る私の意識は、俯瞰的に見るそれから、主観的なものへと変わりました。夢の中の私の視界です。

 私が、鐘の音の方に向かっているのでした。リエちゃんはその後を追っていました。

 

 それでは私はどうして、鐘の音を探し求めているのでしょう?


 高いところへ行かないと。


 その時の私は、この気持ちでいっぱいだったのです。高いところへ行かないと、「やつら」に追いつかれてしまうから。


 そうしたらすごい地響きがして、遠くから何かが津波のように押し寄せてくるみたいです。

 それは蛆でした。蛆の大群。

 たくさんの蛆が町を飲み込んでいきます。眠っているお父さんお母さんのからだを蛆が這って、がぶがぶと食っていきます。皮膚を食い破って、更に奥へと。


 やっとこの時、わかったのです。リエちゃんもきっと、「やつら」から逃げていた。高いところへ行かないと、でもリエちゃんは耳が聞こえなかったから。だからあの時計塔のことも知らなかった。

 

 あそこへ行けば助かるのに。


 だからリエちゃんは山で死んで、そして今も、天国になんか行けずに……私の夢の中を彷徨っていたのです。

 ようやく私はリエちゃんと再び出会いました。リエちゃんを連れて私は、時計塔を目指します。うしろから、がさがさ、蠢く音がする。


ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。


鐘の音もする。それから逃げるようにして、時計塔のある方へと。


 蛆は地を這っていて、高いところには来られないに違いありません。夢の私は、時計塔の場所をはっきり知っていた。精一杯走っても、私もリエちゃんも、息は苦しくなかった。さっきまで夢の外では、熱で苦しかったのに。


 時計塔の下に辿り着きました……。


ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。


 もはやどこにも反響していないはずの鐘は、それでも何回も何回も鳴り続けます。警報のようで不気味です。


 私たちの町は、もうとっくに、蛆が全て食べ尽くしてしまった。背後に見えるのはひとつの生き物みたいにゆがむ群体だけ。

 塔の裏手にまわると、扉があって、開いていました。リエちゃんの手を引いて、私は中の螺旋階段を駆け上ります。はやく、はやく。いちばん高いところなら、きっと大丈夫だから。

 どうしてでしょう、蛆は構わず追ってきます。高いところへ進んでいるのに。

さっきまでリエちゃんが踏んでいた階段は、すぐに蛆が食べてしまいます。私たちの下には無限の闇がぐんぐんと広がっていきます。


 ようやく扉が見えました。そこは、時計盤の真裏の部屋です。最上階なのです。

 だけど私は、はやく気付くべきだった。

 ここが時計塔だというのなら、こち、こち、こち、こち、こち、こち、こち。そういうふうに時を刻んでいなければ、おかしかったのに。


ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。


 死んだ音色の鐘が狂ったように鳴り続けるだけ。ここは、時間が止まっていたのです。

 この時計塔の時計なんて、あってないようなものなのです。必要なのは鐘の音だけ、私の頭の深層まで届くこの鐘の音だけが。

 扉を開け放ち、そしてすぐに閉めました──。追ってきた蛆が扉に潰されて、ぐちゃり、ぴぎり。か細い音をたてました。

 

 そうして私はようやく、騙された、と察したのです。

 リエちゃんの小さな小さな手が、私の指をぎゅうっと握りしめます。


 その空間は臭かった。生きている人が嗅いではいけない匂い。そうしてまた、息が苦しくなりました。暑くて、篭っていて、臭い。鼻が縦に潰れて、喉の奥がぐぅっと詰まって、お腹からいやなものが込み上げてきます。

 足元が悪い。靴の裏に、生暖かくて柔らかいものを感じます。足が震えると、ぴちゃりぴちゃりと音がします。


 そうして私たちが見たものは、蛆でした。数え切れない、地上を満たすそれとは桁違いの、蛆、蛆、蛆の大群が。それが、何十、何百、何千もの、なにか、に集っています。

 蛆は部屋からはみ出して、小さな小さな窓からみちみちと、ぼとぼとと、地上に落ちていきます。地上の蛆も全て、ここから来ていたのです!


 ああ騙された、高いところへ行っても助からなかった。罠にはまった。

 蛆が一匹、私の右足に飛び付きます。痛い痛い痛い。肉がぶちぶち音を立てて、だけど怖くて怖くて動けなかった。


 感覚がゆっくりで鋭敏になっていく。右足の痛みを受け続ける。


ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。

ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。


 鐘が鳴るたびに、ずき、ずき、ずき。


 痛みと、血が巡る感覚。巡った地は、右足からどぷりと溢れ出す。

 そして、人差し指。人差し指に血が通った。


 リエちゃんが私の指から、小さな手を離した。


 リエちゃんは私の前に飛び出した。


 蛆の大群がうねって、大きな大きな口を開いた。


 リエちゃんは。それから。



 ……そこで、目が覚めたんです。

 起きたら気分はすっきりしていて、熱なんて全くなかった。私を挟み込んで寝ている両親の暖かさを感じました。生きている暖かさでした。

 目が覚めた父と母は、私が無事であることを泣いて喜びました──。


 それからというもの。ボーン、ボーン、ボーン。あの鐘の音は。全く聞こえなくなってしまいました。

 そもそもあんな時計塔自体、この世のものではなかったのでしょう。

 私はあそこに行って、高いところへ行って、食われて死ぬはずだった。……リエちゃんが身代わりになって、私は助かった。


 それでも右足だけは、今もおかしいんです。意識を向ければ、あの時の痛みが蘇るよう。力が入らない、動かない。

 あれはただの夢ではなかった。





 ……思っていたより随分と、長くなってしまいましたが。

 どうです、お気に召しましたか。

 そうですか。最初にも言いましたけど、私はあちこちでこの話をしていますからね。


ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。


 ところであなたには、何か鐘の音のようなものが聞こえたりしませんか。高いところへ行きたくなったりはしませんか。


ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。


 そんなことはないのなら、お気になさらず。さっきのも、ただの怪談話といって流してしまってくださいな。


ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。


 だけどもし、聞こえてしまうのならその時は。


 リエちゃんのところへ、あの時計塔へ、行ってあげてください。

 あの子はきっと寂しがっています。


ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。





 あなたには聞こえますか?

 私には残念ながら、もう聞こえないんですよ。 


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