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吉良吉良ヶ宮痣美の華麗なるダブル・ブッキング

大学!


 ダブル、という怪物がおりまして。

 ドッペルゲンガーとも言います。「自分と全く同じ姿の別人が現れた」──それは、ダブルが人に化けているからです。そしてこれもよく知られるように、自分自身に化けたダブルと出会ってしまったものは死ぬ、これもまた事実です。恐ろしいことですが。

 だから私はずっと、探していたんです。人間がダブルに対抗する方法を。

「最後の確認です。本当に、構わないのですね」

「わたくしを誰と心得ますの。吉良吉良ヶ宮(きらきらがみや)家たっての究極天才無敵美少女お嬢様、吉良吉良ヶ宮(きらきらがみや)痣美(あざみ)でしてよ!」

 彼女ならあるいは……、私はそう思いました。痣美様ならば、ダブルに対抗できるかも。ダブルがもたらす残酷極まりない死すら超越してくれるかもしれない。

「もう一度、説明いたします痣美様。ご自身のダブルを見た人は──」

()()()()()()()()、でしょう」

「ええ、まあ、はい。自身の精巧なコピーであるダブルに直面した者は、自分の醜さを直視することになり、絶望する……外から見た自分の容姿や振る舞いが醜悪でたまらなくて耐え切れなくなり、そして自ら命を絶つことを選択する。ダブルの罠にかかり人は容易く、己を呪いながら死ぬ! 痣美様! 貴方は本当に、それでも……?」

「心配ご無用ですことよ博士。私には──恥じるような、客観視できないような欠点など、マジでめちゃ全然普通に皆無ですことよーーーーッ!」

 そう絶叫しながら彼女は、ダブルを捕えた部屋の扉をドカーンと開け放ちました。


 吉良吉良ヶ宮邸の死ぬほどたくさんある部屋のうちの一つ、暗い暗い小部屋の中。椅子に縛り付けられたダブル──痣美様と瓜二つのそれは、超巨大水晶玉のように透き通る声で彼女に語り掛けます──。

「ハローですわ、わたくし」

「あな、た……そんな……」

「オホホ……どうですの? わたくしは、こんなにも……醜い! さあ、さあ、醜いわたくしに……絶望なさい、わたくし!」

 天使のような、それでいて蠱惑的な、モナ・リザを百倍に強めたような微笑みを湛えてダブルは語り掛けます──

「みに、くい……わたくしが、こんなにみにくい……」

「オホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ!」

「見にくいですわー! まぶしすぎますわー!」

「は?ですわ」

「わたくしがー! 完璧すぎてまぶしいですわー! 直視できませんわー! イヤーーーッ!」

 なんということでしょう! ダブルを目の前にして、彼女は全く普段通りだったのです! これは快挙です!

「痣美様、信じていました! 貴方なら……!」

「ええ、わたくしのウルトラ自己肯定パワーならばダブルに屈することはないと……むしろあのダブルをごらんなさい、完璧なわたくしが二人もいてさながら二つの太陽ですわね。もう二倍爆アゲでございますことよ」

「ど、どういうことですの……」

 ダブルはすっごい美しい困惑顔をしていました。

「わたくしのダブル! 貴方にはこれから、()()()()()()()()として活躍していただきますわよっ!」

 最初から我々はそういう算段なのでした。私は人間がダブルに打ち勝つ術を模索していた。多忙な彼女は人手が欲しかった。人類はこの時ダブルに対して、初めて一矢報いたのです。スーパーカリスマお嬢様の手によって。



(こちら痣美。計画は順調ですわ)

(こちらも痣美。異常なし)

(博士です。痣美様がた、よろしいですね)

((モチですわ))

 その日痣美様は、ご学友のお誕生日パーティに出席することになっていました。しかし運命とは意地悪で……同日に突然、某国首脳との極秘の密談の誘いが滑り込んでしまったのです。時間の都合でどちらかはお断りしなければならず、しかし日時も動かせそうにない。痣美様の叡智でも答えの出ない難問を、ダブルの存在が一瞬で突き崩したのです。どちらも出席するという最善の道を、可能にしたのです。

 ダブルと手を取り合ってから一週間。痣美様の全てを詰め込んだダブル……いえごダブル様は、もはや私の目には痣美様と見分けがつきません。性格も、完全に痣美様に染まっています。それでよいのですわ、わたくしたちはどちらも吉良吉良ヶ宮痣美なのですから──痣美様らはそう仰りました。


 計画は順調でした。パーティの痣美様はバーステーソングを百デシベルの声量で熱唱し、密談の痣美様は某国と日本の間に姉妹都市を百個新しく制定しました。

(こちら痣美。パーティはフィナーレですわ。各界隈の著名人からお祝いのメッセージを頂いておりますの)

(こちらも痣美。首脳との関係は非常に良好ですわ。今度一緒にサファリパークに行くことになりましたわ)

(博士です。両会場とも異常なしです)

 このまま問題なくミッション・コンプリート、痣美様はますますギガすごいキングオブお嬢様としての立ち位置を盤石のものとするでしょう。そう思っていたのですが……。

 事件はまず、密談の側で起こりました。気を良くした首脳が、痣美様に話を振ります。

「アザミ、君は素晴らしい人だ。私は人生で、君ほど魂の端っこまで美しい盛りの人間に出会ったことがないよ」

「光栄ですわ。わたくしの魅力に再度お気づき頂き、誠にありがとうございますわよ」

「そんな素晴らしい君だからぜひ、私の友人にも紹介したいんだ。彼女は今誕生日パーティをしていてね……私も今からビデオ通話で顔を出すんだ。君も一緒に映ってほしい。いいかい?」

「ええ、もちろん。わたくしの輝きが貴方のご友人に笑顔を届けることを顔パスでお約束しましてよ。いいですわ。ところでそのお方というのはどのような?」

「××××という、日本人だ。知っているかい?」

「えっ?ですわ……」

 驚くべきことでした。その名は、もう一人の痣美様がいる誕生日パーティの主役のそれと、全く同じだったのですから。

 そも、こんな無茶な計画はどちらの予定も他言無用の超ド級セレブの秘密の場であるからこそ成立しえた事。しかしその前提が最悪な形で覆る瀬戸際なのでした。

(こちら痣美。ピンチにござりますわ)

(こちらも痣美。忍者語お混ざりになってますけれども、それほどの緊急事態ということでよろしくて?)

(左様でござるわよ)

(よっぽどですわねコレ)

(全てを見聞きしてました、博士です。かくかくしかじか……)

(かくかくしかじかってホントに言うお方初めて見ましたわー!)

(そういう言葉の綾は結構でござるからちゃんと説明してござりやがってくださる⁉)

 私は一部始終を報告しました。しかし時すでに遅し、首脳はビデオ通話を開始するところでした。

「それではスペシャルゲストの紹介です! ××国の××××様、ご登場です~!」

 パーティの側では司会がこう切り出し、五千インチの特大モニターに、某国から生中継の映像が届けられます。同時にパーティ会場から首脳のいる部屋へも。

((ヤバいでござるわ~!))

 痣美様らのそんなハモりもよそに、画面が切り替わってしまいます。

「こんにちは、××××。素敵な誕生日を過ごしているかい?」

「ご、ごきげんよう、××××様。吉良吉良ヶ宮痣美ですわ。貴方のお誕生日のお祝いに、わたくしの美貌をご覧あそばせ」

 絶句する会場。遅れて絶句する首脳。

 スクリーンに、会場に。痣美様が二人。

「あれは、痣美様?」

「どうして……?」

「痣美様が、二人……?」

 人々がざわざわと、騒ぎ始めます。状況を飲み込んで、ではどちらかはニセモノかと、二人の痣美様に目を凝らします。

 ──しかし。

「ビューリホー……。アザミ……ビューリホー……」

 どれほど見比べても、二人の違いを見極めることは不可能でした。ルックス、振る舞い、心意気。そのすべてが同質の、うつくしきものふたつ。

「そんな、ことって……! あれはまるで……!」

「二つの、太陽……!」

 ざわめきはやがて歓声に変わりました。そんな歓声──痣美様がこれまで人生でしこたま浴びてきたはずの歓声は、この時二倍の充足感を痣美様に齎します。


「ああ、わたくしたちは」


「わたくしたちとしたことが、失念していましたわね」


 そこにはご本人も、化けるダブルも、もはやありません。

「「吉良吉良ヶ宮痣美(わたくし)が二人もいるなんて、世界にとってこれ以上ない幸福なのだと──」」


 私が思うに、この時に痣美様とごダブル様は、真の意味で「痣美様ら」になれたのでしょう。痣美様と、それを映したダブル──いいえ、ノーです。どちらも痣美様。最初から、二人で一つの痣美様。表裏一体の痣美様。それが、彼女らなのです。

 ……それからの痣美様のご活躍はと言えば、皆さんもよくご存じのことでしょう。私から特別お話しすることは、ございません。



「素晴らしいですわ博士。わたくしの魅力を一滴残らず語りつくしているといっても過言ではなくてよ」

「恐縮です」

 あなたは今日この時、吉良吉良ヶ宮痣美の講演会に訪れていた。彼女と言えば……であるところの、ごダブル様と二人で一人の活躍についての武勇伝を博士が語り終え、ゴージャスな椅子に腰かける痣美様が拍手を送った。

「では次に、第二部『痣美様ハイパーリッチ歌って踊れるディナーショー爆』に移りたい……ところですが。ここで皆さんにお知らせがございます。痣美様のツイッターアカウントをご覧ください」

 促されるまま、あなたは痣美様のアカウント(フォロワー三兆人)を見る。最新のツイート二件、画像付き。

『今日からバカンスですわ! ハワイ中のロコモコを食べますわよ』

『本日は世界オキアミサミット出席のためベルギーへ。スーパーセレブとしての責務を果たしますわ』

 麗しい痣美様の自撮りつきだった。投稿日はどちらも数分前。

 痣美様が自身のごダブル様と二重の生活を送っていることは、今や誰もが知ることである。……しかし、では、あれは? 今この講演会の会場にいる、あの痣美様は? 見間違えるはずもなくあの美貌は、痣美様である。いったい何が──?

「こちらのツイートは全て、各地の痣美様らご本人のリアルタイムの物です。しかし今会場にいらっしゃるこちらの方もまた、痣美様なのです。そうなのです! この度我々は、ダブルに化けて死に至らしめる全く新しい怪物……『トリプル』を発見しました! しかしご安心ください!」

 華麗なる吉良吉良ヶ宮痣美が微笑んでいる。優雅に腰かけて客席に手を振っている。

「痣美様らは既に、トリプルをも取り込みました! 痣美様らはもう既に、三人での活動を始めています!」

 ご本人様かごダブル様かごトリプル様か見分けのつかない痣美様が、美しくそこに居る。


おふざけ枠。


少し前の、オーバーおバカお嬢様キャラの大ブームが来る少し前に書きました。私には先見の明があります。言うほどそうか?

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