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プラネット・セクシーボム

個人的に書いたやつ。

男性同性愛と性的表現を含みます。

 木内は俺とセックスをする関係にある男だ。セックスをする友達なのか、セックスをする恋人なのかはよくわからない。

 木内は俺の家の浴槽にみっしりおさまっている。体が妙にでかいやつなので、一緒に浴槽に浸かって密着してどうのこうのみたいなのは起こせない哀れな巨体だ。一人でぽっかりお湯に浮かんでいる。浴槽から追いやられた俺は仕方なく体を洗っている。湯気に負けないほど強い近頃の外気がひやっとした。

 木内とセックスをした後の、体の滑りを泡で落としていく。俺は泡立てネットで泡を作るけど、木内はそういうときだいたい石鹸を体中あちこちにそのまま擦り付けて洗う。汚いし、人の家の石鹸をそうやって無駄遣いしないでほしい。

「金田、見ろ」

 木内の無駄にでかい声が浴室に響いた。浴槽のデブに目を向けると、その手元には薄ピンク色のたゆたゆした何かがあった。

「なにそれ」

「コンドーム水風船。リサイクル」

「なんでゴム捨ててねえんだよクソ、意味わかんねえんだけどマジで」

「そんなこと言ってやるな。かわいいおれの精子たちがこの中で泳いでるんだ。神聖な小宇宙だぞ」

「お前それ湯船に入れたら殺すからな。ばっちいんだわ」

「水に浮くかどうか気にならない?」

「ぜんっぜん気にならない」

 木内はセックスの時に使ったコンドームをなぜかそのまま風呂に持ち込んで、それに水を注いでいた。そういう意味不明な振る舞いを頻繁にする奴ではあった。

 木内のだらしない体にも似た水風船を、木内はうっとり見つめながら弄んでいる。シンパシーを感じているのだろうか。

「一回の射精に何匹くらい精子いるんだっけか?」

 木内は、かと思えば素っ頓狂な質問をしてくる。とことん何を考えているのかがわからない生き物だ。

「知らんけど、二億とかじゃなかった?」

「二億か。日本の人口よりは多いな。それだけいればこの中で、立派な文明を築き上げていくことだろう」

「……精子が?」

「精子が。おれの」

 木内の持つ水風船の中の水がうっすら白濁しているのか、はたまたそれがコンドームの元からの色なのかはいまいち判別がつかない。俺はシャワーを浴びて体の泡や汚れを流した。こっちのは清らかな流れる水だ。

「おおよしよし、元気に育てよ〜。お前たちが未来を作っていくんだぞ」

 木内が水風船を撫でると、それはぷよぷよと揺れた。自分の精液混じりの水を、一体どういう感慨で愛玩しているのだろうか。

「ゴムに射精したら、割とすぐ精子って死ぬんじゃねーの?」

「金田には見えないんだな。この星にきらめく生命の萌芽たちが」

「見えてたまるか、この顕微鏡マンが。どうせ一生無駄撃ちしかしないクソホモ野郎のくせに」

「それは金田もだろー。だいたい無駄撃ちってなんだ、何をもって無駄だってんだ」

「はー、そりゃー、だって子供できないし」

「子供ができれば無駄ではないと?」

「まあ、一般的にはたぶん」

 木内の太い人差し指が俺の目の前にニュッと伸びてきて、揺れた。これはアレだ。なんかあの相手の甘さを嘲笑うような、チッチッチ……みたいなやつをやろうとしているのだ。

「甘いぜ。考えてもみろ。二億の精子がたとえば一気に中出しされたとしよう。女性に。すると精子たちのレースが始まるな。お分かり? 保健体育」

「はあ」

「レースに勝つのはその中でもたったの一匹のみ。まあたまには二匹だったり三匹だったり六匹だったりするんだろうが。勝者は二億分の、分子はたったの一とか二とかなんだ」

「へえ」

「そうだぞ、どうせ着床できたって二億分の千九百九十九万九千九百九が無駄になる……としよう! それならおれはここで、この愛の星の中で、二億の全てを愛してやろう。その方が無駄がないんだ!」

「じゃあもうオナニーでもしとおけばいいんじゃないのか。ゴムオナしとけ」

「金田の中で出した精子だから尊くて神秘的なんだろー。精子は蒸留器にかけなきゃ生命が生まれないんだ。ホムンクルス作ったことないの?」

「俺のケツって蒸留器なの?」

「察しがいいな。金田のケツはあったかいからな」

「飽くまで下品を突っ走るなあ」

 木内の分厚い舌が雄弁だ。キスをする時に俺の口内をでたらめに振り回して息苦しいばかりの舌だ。いつも突拍子のないことを思いつくままによくしゃべるんだ。おかげで木内は言葉責めが、へたくその域を超えてオモシロに突入している。

「下品さの中に突き抜けた高尚さを感じるだろ」

「さっきから、ずっとクソ下品などうでもいいことばっか言ってんなって思う」

「そう言わずに、金田も触ってみ。水風船、おもしろいぜ」

「俺のケツの内壁に触れた部分だろそこ」

「そう言われると興奮してきたー」

「ヤッバ」

 木内がとにかくしつこい性格であることも知っている。こういうくだらない対話でも簡単に押し負けたりはしないし、俺のことが好きだ好きだとしきりに付きまとってそのうち家にまで転がり込むようになってしまった。あんまりよくないことだとは思う。

「……でもそれ、結局マジで無駄でしかないだろ。さっきも言ったけど、結局精子は全部死ぬのに」

「最初から無駄にする前提で無関心なのと、無駄にしたくないと思いつつも無駄にしてしまうことには泥とスッポンほどの差がある」

「泥とスッポンは同じサイドじゃねーか」

「スッポンの方が生きてて偉い」

「その理屈で言うと雲と泥と月とスッポンの中でスッポンが一番偉いことになる」

 木内に、亀ちゃん可愛いねとか言われながら亀頭責めをされたことがあったのを思い出した。しつこく責めるのも、謎の可愛がり方をされるのも、どっちもいい加減にやめろと言ってもやめなかったので普通に怒って殴った。結構前のことだった気がする。

「じゃあ、実際スッポンがそうなんだろ。おれは、金田との愛の交わりの中を生き抜いて散っていったこの二億匹を尊ぶよ」

「お前が勝手に気持ちよくなって出しただけじゃねーか」

「金田も悦んでたくせによく言うぜ。あー、またムラついてきた」

「なにもかもがクソだなお前……」

「あとで風呂上がったらもう一発、無駄じゃない無駄撃ちしようぜ。お前も精子を愛したくなったんじゃないか?」

「ならんけど。木内、さっさとどけ。寒いから俺だって風呂浸かりたいんだよ」

「まあそろそろいいだろう。おれと金田の愛の結晶たるこの惑星を授ける」

「というか、いうほど俺たちの間に、愛ある?」

「ええー。いまさらそんな」

「とっとと上がってそれちゃんと処分しろよ。台所に流したら殺す」

「わかったわかったって。じゃあ待ってるからー」

 

 待つって、何を?


 浴室から木内が不在になる。ザブンという大きな音と、容赦なく俺にぶち当たる大移動と、扉を開け放ったせいで飛び込む冷気をワッともたらして、そのほかには特に何も残らない。話す言葉も贅肉も、何もかも無駄ばかりの男だった。

 無駄をこね上げて、無駄にでかく作った、空間を無駄に食う、中身がスカスカでまんまるな男だ。星みたいな。


 二億の命を乗せた水風船と木内が去った浴室は、静かで広い。だから何というわけでもなく、単なる事実としてそうなだけだ。


 たった一人で使うのにちょうどいい浴室に、俺がたった一人いる。今この空間には無駄がないな、と思った。無駄がないということも、だから何というかわけでもなく、単なる事実としてそうなだけだ。無駄がないのが悪いとか、結局あった方が良いとか、そういうものではない。さっぱりと。

 

 

ツイッターで下ネタばっか日々つぶやいていたので、逆にそれを小説に昇華するのはどうか?というアイデアから生まれた作品。

まあまあ反応が良かったのでうれしかった。

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