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雪山の麓(ふもと)に桜は咲いたか

作者: くにたかあきな

私が小学校の高学年まで、両親は私の感性を磨くためにアートに触れさせようとあちこちの美術館に連れまわしていた。両親は良く言えば真面目だったのだ。自分たちはアートの知識も無ければ興味も無いのに、聞きかじった情報を頼りに娘のために奔走していた。


あの日は、地元の高校生が全国美術コンクールで入賞したということで、作品を展示している市立美術館に連れていかれた。

入賞作品は白雪のヴェールをかけた美しい成層火山の一枚絵。作者の女子高生が疲れた笑顔で大人たちと会話していた。

小柄な私が見上げた雪山の絵は、動物や植物の営みを静かに見守る女神のようで、春を思わせる温かな絵からあふれ出した桜色の風景が私を包み込んだ。


「桜の花が咲いているよ!」

私は思わず叫んだ。クスクスと笑う周囲の大人たち。恥ずかしそうにする両親。

またやってしまった。国語の授業でも想像を膨らませた感想文を読み上げたときと同じ空気。

友芽ちゃんオカシイヨ、ヘンダヨ。

同級生は笑い、先生は困った顔をした。嫌な記憶。


「ねぇ、桜の花、どこにあるの?」

絵を描いたお姉さんが私に掴みかかる勢いで目線を揃えた。鼻をかすめるいい匂いにドキドキする。

「すみません。子どもの言うことですから、気にしないでください。友芽、桜なんてないよ」

「私は今、この子に聞いています。桜の花はどこに咲いているの?」

この人は私と対等に会話しようとしている。先生や両親のように正解を教えようとしない、同級生のように笑わない。自分が描いた絵を見て私が感じたことを、ただ知りたい、純粋な熱意だ。

「絵の中には無いよ。お姉さんの絵はあったかそうだから、山の下に行くとポカポカしていて桜の花が咲いているの。お山の動物たちがお花見しているの」

「素敵」

「でも、本当は山の絵だから、桜が咲いているなんて言ったら間違いだよね」

「間違いじゃない。誰が何と言おうと、あなたが感じたこと、思ったこと、見えたことはあなたが見つけた正解だから。あなたが大事にしたいことをこれからも大切にして」

胸がポカポカした。自分の気持ちを素直に話して笑わない人がいた。雪山の絵に桜を咲かせても良いと言われた経験が私を支え続けている。


「――甘井さん、先日アップされた商品のアレンジ企画、反応いいですよ。ヒットの秘訣教えてくださいよ」

私は、後輩からの憧れと嫉妬の混じった視線を感じながら言葉を返す。

「秘訣なんて無いよ。自分で考えて探すの」


人は知らず知らずのうちに影響を与え合っているのだと思います。

そして、偶然の出会いがその人の人生に大きな影響を与えることがあります。

この物語の主人公は誰かが決めた「正解」に満足せず、自分で「答え」を考えられる子です。環境によっては否定されてしまうような彼女の考え方を尊重してくれる人と出会えたこと、それがきっかけで大人になってからの活躍につながる。そんなこともあるのではないか…というのは想像の中だけでしょうか。


なろうラジオ大賞5の投稿作品は今作で終了です。ご覧いただきありがとうございました。

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