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治癒魔法

 今、俺とフィオナ、ステファン、ルイ、フィンの四人と一匹はダンジョンで魔物も倒さず木の幹に腰をおろしている。


「————と、いうわけだ。分かったか?」


 ステファンが魔力の基礎について座学を開いてくれている。まず、頭で理解しろと言う事らしい。


「つまり、あれか……十人にお茶を配ろうとして一人に沢山淹れるのではなく、少量ずつ均等に淹れていくことが出来れば良いってことだな」


「例えがよく分からんが、そういうことだ」


「お義兄様さすがですわ」


「では、早速練習しよう。初めはフィオナがこのくらい小さい水の玉を十個出してみてくれ」


 ステファンが実際に水の玉を出して見せる。それをフィオナが真似をする。


「こうでしょうか」


「初めてなのに中々やるではないか。均等ではないが加減が出来ている」


 フィオナは照れたように笑っている。


「次、このフィオナが作った水の玉をクライヴが凍らせてみてくれ。ただし、カチコチにではなく外だけな。中を凍らせたらダメだ」


「俺だけ難しくない?」


「魔力量の調整ですからね。それくらい出来ないとラスボス倒すことなど到底できませんよ」


 ルイが軽く挑発してくるのでムッとした。しかし、俺は知っている。ルイは、俺が煽られれば煽られる程やる気が出るタイプなのを知っていて、わざと言っている。優しい奴だ。


 十個の水の玉を周りだけ均等に凍らすイメージで……。


 パキ、ピキ。


「どうだ? 外だけ凍ったか?」


「半分成功、半分失敗だな」


 失敗した方は中までカチコチになっていた。


「そうか。でも、これが出来るようになればラスボスまで体力も魔力も温存しながら最後に一気に叩けるってことだろ?」


「そういう事です」


「フィオナ、俺頑張るから!」


 勢い良くフィオナの手を取ったので驚かせてしまったが、フィオナはにっこり笑って返事をした。


「はい」


◇◇◇◇


 せっかくダンジョンにいるのに、どこでも出来る練習をいつまでもするのは勿体無いので俺達は前へ進んだ。


 次はゴブリンの群れが現れた。


「フィオナ、半分ずつ倒そう」


「分かりましたわ」


 フィオナがさっき作ったような小さな水球を作り出し、ゴブリンめがけて放った。


 ドーン!!


「……」


 フィオナ、その小さい可愛らしい水球は爆弾なのか? 当たったらちょっと痛いくらいの可愛い物ではないのか? 


 一撃でゴブリンが全滅したではないか。


「お義兄様、ごめんなさい。加減はしたつもりなのですが、半分残すことができませんでしたわ」


「いや、良いんだ。俺は別にゴブリン好きじゃないし」


「次はお義兄様の分も残しますわね!」


 フィオナが笑顔で言っている内容はもちろんゴブリンのことだ。『冷蔵庫のプリン全部食べちゃった、てへ』のような会話に聞こえるが、決してプリンの話ではない。


 それからもコボルト等、下級クラスの魔物が来るが難なくフィオナが倒していく。そこにホーンラビットが現れた。


「フィンとの出会いを思い出すよな」


「あれから私はホーンラビットを討伐出来なくなりましたよ」


 ステファンとルイが微笑ましい顔でホーンラビットを見ている。


 フィンが魔物の姿で近寄り、鼻をスンスンさせていると、ホーンラビットはどこかへ逃げて行った。


「最下層はこのくらいかな。まだ時間あるからもう少し上に行ってみるか」


 俺がそう提案すると、ステファンとルイも続けて言った。


「クライヴはともかく、フィオナは魔力を上手くコントロール出来るようになってきたみたいだし、中級のいる二十階まで一気に上がってみるか」


「そうですね。下層の魔物ではお嬢様の相手には力不足ですからね」


 ――と言うわけで、エレベーターみたいな魔道具に乗って俺達は二十階に来ている。


 先程とは雰囲気がガラリと変わり、薄暗い。いかにもって感じだ。俺の腕に絡めているフィオナの手に力が入る。


「少し怖いですわ」


「俺がついてるから大丈夫だよ」


 と言ってはみるが、フィオナの方が明らかに強い。俺も誰かを守れるように力をつけよう。改めてそんなことを考えていると、オーガが現れた。


「お義兄様、行って来ますわ」


「皆近くにいるから、安心しろ」


「はい」


 フィオナがオーガに向き直り、臨戦体勢につく。オーガはいわゆる鬼だ。中級魔物の中でやや強い。


「グオォォォ!」


 オーガが、フィオナへと一直線に走ってくる。フィオナも水球を作り出し、オーガに何発か命中させる。


 威力を制御させているからか、オーガには効果があまり見られなかった。そのまま突っ込んでくるオーガに驚いたようで、フィオナは転んでしまった。


「危ない!」


 咄嗟に助けに入ろうとした俺は、ルイに止められた。フィオナを見ると、水のシールドを作ってオーガを弾き飛ばしていた。


「もう少し見守りましょう」


「そうだな」


 フィオナは強い。だが、俺が必要以上に過保護なせいで、その成長を妨げている。義兄として時に信じて見守るのも必要なのだろう。


 フィオナは立ち上がり、先程の水球と違って小さな石ころくらいの大きさの水球を無数に作り出した。フィオナはそれを一斉にオーガに放った。


「グオォォォ」


 オーガは水の弾丸を無数に撃ち込まれ、呻き声を上げながら倒れた。


「お義兄様! 見ましたか? わたくし倒しましたわ!」


 フィオナが今までにないほど無邪気に喜んでいる。フィオナを抱きしめて、頭をポンポンと撫でながら褒めてやる。


「今の凄かったな。一瞬だった。怪我はしてないか?」


「転んだ時に足を擦りむいたくらいですわ」


 スカートを捲って膝を見ると、痛々しい程に血が滲んでいる。


「すぐに消毒しよう」


「大丈夫ですわ。実はわたくしこんなことが出来るんですのよ」


 そう言ってフィオナは膝に手をかざす。水がふよふよと傷口を覆い、数秒後に手を退ける。


「え?」


 俺は目を見張った。傷が見事になくなっているのだ。フィオナは聖属性ではないのにどうして?


 ルイとステファンも同様に驚いている。


「お嬢様すごいですね」


「いつ覚えたのだ?」


「お母様に教わりましたの。これ覚えてたら便利よって」


 そんな家事の豆知識を教えるような軽いノリで教わる代物なのかは甚だ疑問だが、本当に凄い。これでは本当に聖女の域だ。


「水は元々、清めの力があるからな。聖属性も水と光が合わさって出来たと言われている。だが、これを出来る人はそうそういない」


 ステファンのその知識量も凄いと俺は思う。


 それから何体か中級魔物を倒し、本日は解散となった。

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