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挑戦状

『それは義妹に対する愛ですわ。わたくしを抱けますか?』


 即答出来なかった。俺はフィオナの愛を受け入れたはずだったのに。一人の女性として愛すると決めたのに。


 アリスのせいだとばかり思っていたが、俺のこの中途半端な気持ちが、フィオナを不安に陥れていたのだと実感した。


 あの日以来、フィオナは俺に付き纏わなくなった。代わりに屋敷でも淑女モードで、常に仮面を被って生活している。


「フィオナが心配なのは分かるが、この件はどうしようもない」


 ステファンが俺にそう言った。本日は、夏休み最後にステファンが遊びに来ている。


「でも全部俺のせいだし……」


「義兄妹として育ってきたのだ。すぐに恋愛感情に切り替えろと言う方が無理な話だ。ゆっくりで良いのではないか?」


 ステファン、やっぱ良い奴だな。俺が女ならすぐに惚れていることだろう。


「ただ、アリスとの接触には気をつけた方が良い。フィオナが再び暴走する可能性が高い」


「そうだな。変に関わるのはやめるよ」


 アリスがクリステルを攻略した所で、あの冷静沈着なスフィアなら自力でなんとかしそうだ。


 俺は何故そんな簡単なことにも気付けなかったのか。これでは、俺が関わる事で三人の友情を壊しただけではないか。


「そういえば、クリステルからこんな手紙が届いたんだ」


「クリステル殿下から?」


 俺はクリステルからの手紙をステファンに手渡した。静かに一読し、ステファンが嘲笑うように言った。


「クリステル殿下は何を考えておるのだろうな。これにサインする奴などいる訳ないだろうに」


「え? サインしたけど」


「は?」


「サインしたら何かまずいのか?」


 手紙にはこう記してあった。


『体育祭で勝負をしないか? ここだけの話、私はアリスを側室に迎え入れたいと考えている。私が勝てば側室に、負ければお前にくれてやる。どうだろうか』


 クリステルがアリスへの想いを自分だけで処理出来ないから、勝手に勝負事にして解決したいだけではないのだろうか。負けたら潔く諦めようと。


 ステファンが頭を抱えながら溜め息を吐いた。


「良いか? この便箋には魔法が付与してある。契約したからには約束を守らねばならん」


「そうなのか。で?」


「クリステルが勝てばアリスは側室に。本人の同意なしにだ」


「え? まさか、これ俺が勝手にアリスの将来決めちゃってる感じ? でも、アリスが拒めば良いんじゃないか?」


 クリステルが首を横に振って言った。


「書かれていることは絶対だ。本人が拒んだら、お前とアリスは死ぬ」


「嘘……。じゃあ俺が勝てば良いんだな!」


「お前が勝てばアリスはお前のものだ。故にお前はアリスと結婚することになるだろう。これはアリスをかけた闘いだ」


 は? 俺に何のメリットもないじゃん。


 俺はステファンに詰め寄って当たり散らす。


「じゃあ、フィオナはどうなる。俺はフィオナと結婚するんだ。今は義妹としての愛だが、いつかは女性として愛すると決めたんだ! 俺の覚悟は……フィオナの将来は……?」


「絶望的だな……」


「契約を無効にするにはどうしたら良い?」


「ない。出来るとすれば、この契約書の効果を無効にすると言う文言を入れた新たな契約書を準備することだが、殿下は恐らくサインしないだろうな」


 詰んだ……。魔族と人間の戦争が始まる前に詰んだ。


「でもでも、アリスが泣きながらクリステルに契約無効にしてくれって頼み込めばどうにかなるんじゃ……」


「それはあるかもな……ん? 何か追記してあるな」


 ステファンの言葉に期待を込めて便箋を見る。


『追伸、この勝負はアリスも承諾している。これで何も気にする事なく勝負ができるだろう』


 ちーん……。


◇◇◇◇


 憂鬱だ。憂鬱すぎる。


 フィオナになんて説明すれば良い? 淑女モードのフィオナはきっと笑顔でこう言うはずだ。


『頑張ってください、お義兄様』


 だが、裏ではどうだろうか……。ヤンデレが過ぎるフィオナのことだ、大暴走に違いない。


『お義兄様を殺して、わたくしも死にますわ!』


 みたいなことになりそうだ。言えない、言える訳がない。


「私がクリステルを殺して来ましょうか」


 頭を抱えていると、フィンが擬人化して物騒なことを言っている。


「殺してしまえば契約は無効でしょう。ご主人様の悩みは一気になくなりますよ。さぁ、命令してください」


「フィン。お前は加減を知った方が良い」


「でも、アリス様は何故承諾したのでしょうね」


 ルイがティーセットを片付けながら疑問を口にする。


「確かに。アリスに何のメリットがあるんだ?」


 クリステルが好きなら勝負なんてしなくても、普通に付き合えば良い。負ければ俺と結婚することになるのに。そこでふと思い出した――。


『アークライト先輩。好きです』


 フィオナが暴走してアリスに攻撃する直前に言われた言葉。フィオナの事でいっぱいいっぱいで、すっかり忘れていた。


「クライヴ様、モテ期到来ですね」


 悪役令嬢とヒロインにモテるモブってどうなんだ。これは勝てば良いのか? 負ければ良いのか? どっちなんだ。


 悩んでいると、ルイがハッと何かに気付いたように俺に言った。


「だからですね。フィオナお嬢様がアリス様に敏感なのは」


「なにが?」


「お嬢様からしたら、クライヴ様に好意を抱いている人は皆敵なのですよ。告白をしたアリス様は一番の恋敵です」


「まじか。恋敵をかけて勝負って……俺はなんてバカなんだ」


 明日から二学期、憂鬱過ぎる――。

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