お出かけ
一週間後の休日。
俺は王都にやってきた。
広場では、色鮮やかな麻のテントが張られ、人々は活気に満ちている。
「すまない、待たせたな」
「ステファンが遅刻なんて珍しいな」
野外活動の際、ステファンに軽く腹を立て何気なく交わした約束。あれを律儀に守ってくれ、今日は奢ってくれるらしい。俺も貴族の息子だから、お金には困っていないのだが。
「遅れたのは、ウェルトン嬢を迎えに行っていたからなんだ」
「え? アリスも来てるのか?」
俺とステファンの二人かと思っていた。まさか、また俺が邪魔をしているのでは……。
ステファンルートは俺の中で、アルノルドルートと同じくらい俺に関わる人が誰も不幸にならない最善のルートだと思っている。
俺の知らない人が犠牲になるかもしれないが、そこはごめんなさいとしか言いようがない。
「ごめん、俺、用事思い出したから帰るわ」
そういって我が家の馬車に戻ろうとすると、ステファンのエスコートで馬車から出て来たアリスに引き止められた。
「アークライト先輩帰っちゃうんですか? もしかして、私がいるとご迷惑でしたか?」
「迷惑とかじゃなく、用事が……」
うるうるした瞳で見上げられ、言葉に詰まる。すると、アリスの後ろからもう一人聞き覚えのある声がした。
「先輩! 野外活動ぶりです。便乗してついて来ちゃいました」
ははは、と笑いながら出て来たのはアルノルド。まさかの三角関係……。
「クライヴ、どうした? 来たばかりなのに帰るのか。寂しいではないか」
「男に寂しいとか言うなよ」
ステファンも本気で寂しそうな顔を見せる。
「分かった。帰らないからそんな顔すんな」
アリスとステファンの顔が同時にパァッと明るくなった。どうしたんだこの二人は。
仲介に誰か入ってくれないと恥ずかしくて喋れないとかだろうか。いや、この間普通にキノコの話してたか。
あれか、スフィアがいないから、変な話して嫌われないように見守って欲しいんだな。
「お前の考えていることは分かった。任せておけ」
ステファンに耳打ちすると、小首を傾げられた。
「考えていること?」
惚けたフリしてアリスにバレないようにしているんだな。うんうんと頷き、進行方向を向いた。
「よし、じゃあ行こう」
賑わう市場を興味津々に眺めつつ、俺とステファンの後ろを歩くアリスが興味津々に聞いてきた。
「先輩方、これは何処に向かっているんですか?」
それに対し、自分の店でもないのに何故か得意気に応えるステファン。
「最近できた、コーヒーの上に猫を描いてくれる店だ」
「へぇー、お洒落ですね!」
「男二人でいくのも照れるものがあったから、ウェルトン嬢が来てくれて助かった」
確かに、アリスがいなかったら俺はステファンと二人でカフェに行っていたのか。
その姿を想像して何とも複雑な気分になっていると、とある雑貨屋を見つけた。
「悪い。ちょっとここ寄って良いか?」
「クライヴが持つには、可愛すぎる物ばかりだが?」
「馬鹿、フィオナにお土産買って帰ろうと思って。最近機嫌が悪いんだよ」
可愛い物でも買って帰れば機嫌を直してくれるかもしれない。
「ああ……あれはクライヴが悪いな」
ステファンも色々事情を知っている為、すぐにピンと来たようだ。
「でも兄妹が増えたと思えば嬉しいことじゃないのか?」
「何の話をしている?」
「フィンのことだろ?」
「ああ、そっちもあるのか。だが、一番はアレン殿下の事だと思うぞ」
アレン? 何のことだ?
まさか二人きりでテントの中にいたことを怒っているのか。
「いや、あれは変な噂が出回っているが、断じて違うぞ」
「噂? よく知らんが、女性はプレゼントに弱いからな。良い案ではあると思う」
「僕とアリスも探すのお手伝いしますよ!」
アルノルドがアリスの腕を組みながら無邪気に笑った。腕を組まれたアリスが、やや顔を引き攣らせているように見えるのは気のせいか?
店内に入ると、アクセサリーから小物、ハンカチやグローブなどが雑多に置かれていた。そのキラキラした雰囲気にテンションが上がる。
アリスとアルノルドも感嘆の声をあげる。
「わぁ、可愛い物が沢山!」
「本当だ、これなんてアリスに似合いそう!」
そこに紳士的にステファンが言った。
「この間のわびだ。ウェルトン嬢、何か欲しい物があれば僕が買おうじゃないか」
「え、とんでもないです」
「これなんてどうだい? 君のピンクの瞳と合わさって、まるで花にとまった蝶のごとく可憐に周囲の目に映ることだろう。こっちも儚気で、純真無垢な君が着ければ……」
得意の美辞麗句で商品をアリスに勧めていくステファン。アリスは若干困った表情を浮かべるが、こうなったステファンは誰にも止められない。
「アリスにはこっちの方が絶対可愛いよー。僕とお揃いなんてどう?」
負けじとアルノルドが参戦する。
「いやいやいや、ウェルトン嬢は……」
「フィオナのプレゼント一緒に選んでくれるんじゃなかったのかよ。ま、良いけど」
三人は放っておいて、どれにしようか悩んで見ていると、羽をモチーフにしたペンダントを見つけた。
「それ、可愛いですね」
「あれ、アリス? ステファンとアルノルドは?」
「なんか良く分からない勝負が始まって、逃げてきました」
ははは、と困り顔で笑うアリス。
だが、こっちに来て良いのだろうか。攻略対象の好感度アップの絶好のチャンスなのに。きっと、どちらのプレゼントを選ぶかで今後が左右されていくと思うのだが……。
「良いんですよ。アークライト様……フィオナ様へのプレゼント選びに入ったんですから」
俺に対してフィオナを姓で呼ぶとややこしくなると思ったのか、アリスは名の方に言い換えた。
「フィオナ様と仲が良いんですね!」
「ああ、最愛の義妹だ。嫌われたら生きていけない」
「まぁ、そんなにですか」
シスコンが過ぎて引かれただろうか。誰もが知っていることだから今更隠すつもりもないけれど。
「私もフィオナ様とお友達になりたいんですけど、同じクラスなのに接点が中々なくて……今度ご紹介して下さいませんか?」
「え?」
「やっぱり、私なんか駄目ですよね」
「いや、駄目ではないけど……」
ヒロインと悪役令嬢がせっかく離れているのに、無理に会わせるのはいかがなものか。
「では、是非」
キラキラ光る桃色の瞳に上目遣いされた。
ぅう……その顔はやめてくれ。目が、目がヤられる。
「分かった」
俺は観念して、今度アリスを屋敷に招待することにした。
◇◇◇◇
フィオナへのプレゼントも決まり、目的のカフェに到着した。
各々好きな物を注文して待っていると、ステファンとアルノルドが上機嫌に話をしていた。この二人、闘いの末に意気投合したようだ。
「ステファン先輩、僕にもその技を伝授して下さい」
「良いだろう」
「何を伝授するんだ?」
何のことか気になってステファンに質問すると、意気揚々と返ってきた。
「美辞麗句の使い方だ」
「は?」
「ステファン先輩、素晴らしいんですよ! 次から次へと女性を褒める言葉が出てきて、僕、感心しました」
目をキラキラさせて言うアルノルド。
良いのか? ステファン二号になってしまっても。そのままの純真無垢なアルノルドの方が俺は好きだぞ。
そこで俺はハッと気が付いた。アリスの意見を聞けば考えも変わるかもしれない。
「アリスは、どういう男性がタイプなんだ?」
「そうですね。モ……」
「も?」
「いえ、優しくて頼りになる人が良いです。命懸けで守ってくれて、最後に頭ポンポンってされた時にはもう……。きゃー、何言わせるんですか」
だそうだぞ。ステファン、アルノルド、二人とも頑張れ!
心の中で応援しつつ、フィオナへのプレゼントの渡し方を考えながらウサギの描かれたコーヒーを飲んだ。




