フィオナとアレン
俺とフィオナは生徒会室の隣にある、生徒会長専用の部屋に通された。中は高級そうな絵画やインテリアに豪奢な装飾がついている。この部屋だけ別世界に来たみたいだ。
「ご機嫌よう。アレン様」
「入学おめでとう、フィオナ。時間が限られているからな、早く食べよう」
大きな机を挟むように漆黒の革製のソファが置かれている。そこに俺とフィオナが隣合わせで、その向かいにアレンが座る。
早速食事にとりかかると、アレンがフィオナに話しかけた。
「フィオナ、初めての学園はどうだ?」
「はい、とても広くて迷子になりそうですわ」
「ははは、そうか。そういえば、今朝迷子になっている女生徒がいたよ。珍しい桃色の髪をしていたから、フィオナも見かけているかもしれないよ」
桃色って……アリス!?
アレンは既に出会いイベントをこなしていたのか。
「おそらくですが、わたくしと同じクラスの方だと思いますわ。アリス・ウェルトンさんと言ったかしら」
「アレン殿下……アレン様は、その女生徒と何か話はされたのですか?」
俺も気になって聞けば、アレンはニヤリと笑った。
「なんだクライヴ、その令嬢のことが気になるのか?」
「アレン様はフィオナの婚約者ですからね。可愛い義妹を泣かせるようなことがあれば容赦致しませんって話です」
俺は冷気を身体に纏いながら、笑顔で牽制した。アレンも黒いモヤのようなものを出して余裕そうに応える。
「ほう。俺がフィオナを泣かせると? その言葉、そっくりそのまま返そう」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ」
「お義兄様、アレン様、おやめ下さい」
収拾がつかないと思ったのか、フィオナが仲介に入った。
それに対し、アレンが謝罪とは程遠い謝罪をしてきた。
「ごめん、ごめん。クライヴの反応が面白くてついつい苛めたくなるんだよ」
そして、フィオナはそれをスルーしながら俺に言った。
「ご安心下さい。わたくしはアレン様に側室がいようが構いませんことよ。お義兄様が気を揉む必要はありませんわ」
「フィオナ……」
堂々とフィオナが愛人OK宣言をした。
良いのか、フィオナ。アレンが目の前にいるのに、そんな堂々と。
それに、フィオナはアレンのことが気に入って婚約したんだよな? まるで全く興味がないみたいに聞こえるんだが……。
「寛容な婚約者だ。だが、案ずるな。俺はこう見えて一途だからな。フィオナ以外を迎え入れる気はないよ」
「アレン様。無理はいけませんわ。お世継ぎの為、何人でも側室を迎え入れて構いませんのよ」
「フィオナ、そんな悲しいことを言わないでおくれ」
なんなんだ。この二人の会話は。
一見して仲が悪いようにも見えるが、仲が良いようにも見える。
はっ! これはフィオナの性格がツンデレで、素直になれていないだけなのかもしれない。
ここは義兄として、アレンに忠告をするのではなく、二人の仲を深める恋のキューピットをした方が正解なのでは?
アレンは気に食わないが、フィオナが好きな相手だ。義兄として人肌脱ごう。
「アレン様、義妹は多少キツい言い方をすることもありますが、相手の最善を考えての発言です。自分の本心とは裏腹なこともありますので、どうか寛容に見守ってやって下さい」
「「…………」」
アレンは少し驚いた顔をし、フィオナは複雑そうな表情になる。
なんなんだ、この微妙な空気は……。
やはり、俺に恋のキューピットは無理か。そもそも色恋沙汰に兄妹が出てくると碌なことにはならないのかもしれない。
「出しゃばったまねをして申し訳ありません」
ひとまず謝罪をしておいたが、その後の空気といったら、何とも居心地が悪かった。
◇◇◇◇
それから俺の知る限りでは、何事もなく学園が終わった。
ただ、帰宅途中のフィオナの様子が少しばかり変だった。何がと問われると分からないが、何となく寂しそう。空元気で笑っている。そんな感じだ。
屋敷に戻るなり、ルイと使い魔のフィンが出迎えてくれた。
「フィンー! 会いたかったぞ」
フィンに抱きつき、もふもふしていると、相変わらず角でグリグリされる。フィンも嬉しいようだ。
「お二人とも、お疲れ様でした。先に湯浴みされますか」
「そうだな。フィオナも疲れただろう。夕食までゆっくりすると良い」
「分かりましたわ」
俺とフィオナはそれぞれ自室に戻り、俺は先に風呂に入ることに——――。
「クライヴ様、準備が整いました。どうぞ」
「相変わらず魔法って便利だな」
ルイが炎を操って風呂を沸かすのだが、あっと言うまだ。薪を焚べたりせず、ただの水が炎によって一気に熱せられる。
「でも、どうしてこの屋敷は一家にひとつの風呂じゃなく、各部屋に一つついてるんだ」
制服を脱ぎながら独りごちていたら、ルイがそれをハンガーにかけながら聞いてきた。
「何か問題でも?」
「大有りだ。湯船が各部屋に付いているということは、各部屋で髪を乾かすことになるんだ。分かるか?」
「はて……?」
ルイは分からないようだ。風呂上がりのマジックを。
あの超絶可愛いフィオナのことだ。髪の濡れた姿はさぞかし美しいことだろう。美男美女は風呂上がりこそ三十倍美しさが増すんだ。
せっかく異世界転生して超絶可愛い義妹が出来たのに、その場面が見られないなんて悲しすぎる……。
「はは。クライヴ様は、また一人の世界に入っていらっしゃいますね」
アホな妄想をしながら、浴室へと足を踏み入れる。
貴族なら体を洗うのも本来侍従に任せるのだが、やはりと言うべきか、転生あるあるが生じた。洗ってもらうのに至極抵抗があるのだ。故に、風呂は自分で済ませる。
それはさて置き、我が家は落ち着く。学園にいると無意識に気を張ってしまう。一日でこれなのに、この先大丈夫だろうか。心労でハゲないことを祈るばかりだ。
さて、明日からはどんなイベントが待っているのやら……。




