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何故最下層に②

「ルイ、遅い!」


「ははは、すみません。何やらお困りの冒険者がいましたので、少々手助けしておりました」


 ルイの顔を見た瞬間、俺は泣きそうになった。もちろん安堵の涙。怪物に襲われている時に、スーパー戦隊が現れた時の村人Aの気持ちが痛いほどに分かった。


「それよりも、アレをどうにかしないといけませんね」


 ヘラヘラした表情が一変、真剣な顔になった。こんな時に考えることではないが、顔が良い……。


「ステファン様、少々お力をお借りても宜しいでしょうか?」


「もちろんさ、僕に出来る事なら」


 ルイがステファンに協力を仰ぐと、ステファンも緊張した面持ちで返事をする。


「デュラハンの半径五メートル四方に大きくて強固な水壁を作って頂きたいのです。出来ますか?」


「……そういうことか、お安い御用だ。任せておけ」


「ありがとうございます。では行きますよ」


 ルイは剣を構えると、その剣は炎を纏う。


 ルイは炎属性だったのか。なんともタイミングが良い。本当はルイが主人公の物語なのではないかと思う程に。


 ルイは一気に走り出し、デュラハンの懐に入る。ステファンもデュラハンの半径五メートル四方に水壁を作る。


 水壁があるため、外からはシルエットしか見えないが、金属音が重なる度に爆ぜる音も聞こえる。


 俺は息を呑んで見守る。先程までは考える余裕もなかったが、これがリアルな闘いなのだと改めて思うと怖くなってきた。


 生きるか死ぬかの闘い。俺にもいつかはフィオナの為に闘って、闘った末に死ぬこともあるかもしれない。


 それは剣を初めて持った日から覚悟していた。『守りたい!』と言ってフィオナの盾になって“死ぬ覚悟”。


 だが、残された方の気持ちを考えたことが無かった。こんなにも怖くて、切なくて、どうしようもない気持ち……。


 こんな思いをフィオナにさせるのは嫌だ。


 それに、自分より強い者に助けを求めて人任せにする今の俺も嫌だ。強くなろう、誰よりも。“生きる”為に。


 剣の音が一瞬鳴り止んだかと思った次の瞬間。


 ドカーーン!


 大きな爆発が起こった。水壁のおかげで、爆風や火の粉による周囲の被害は殆ど無かった。


「ルイは? ルイは無事なのか!?」


 水壁は解除され、煙の中から一人歩いてくるのが見える。どっちだ。どっちが勝った……。


「ッ——!」


 俺は思わず駆け出し、ルイに思い切り抱きついた。


「はは、照れますね」


「死んだらどうしようかと思った……」


「死にませんよ。私はクライヴ様の執事ですから」


 ルイはいつものようにヘラヘラ笑っており、俺の背中をポンポンと優しく撫でてくれた。


「無事でなにより。ルイがいなかったら僕らはやられていただろうな。感謝する」


「いえ、お二人が攻撃し続けたおかげで大分弱っていましたから。なので、簡単に倒せたのです。そうでなければ私でも苦戦していたでしょう」


 どこまでも主人を立てようとする、執事の鑑だ。謙遜が過ぎる。


「でも、あんなに爆発したのに綺麗だな。まるで戦隊ヒーローだ」


 ルイが格好良く締めくくってくれたのに、どうでも良い疑問がつい口から出てしまった。悪い癖だ。


 だって本当に綺麗なのだ。あんなに爆発したのに傷どころか汚れ一つついていない。なんなら良い匂いまでする。


「はは、何ですかそれ。私は炎属性ですからね。自分の炎に焼かれないように、魔法を使う時は体全体に対炎用のシールドを纏うんですよ」


「へー、そうなのか」


「昔は上手く出来なくて、服だけ燃えて外で全裸なんてこともありましたよ」


「それは……」

 

 女子達が見たら間違いなく黄色い声援が上がるな。ブサメンの裸なんてみたくもないが、なんせルイは顔が良いから……。


「ちなみに、炎属性の人は基本、周囲に火災が起こらないように水属性の相棒を連れているんですよ」


 だから、山火事になったりしないのか。RPGでは炎は格好良いから派手に使っていたが、リアルはそういうところもしっかり配慮されているのか。


 納得していると、ピョコンとフィンが顔を出し、ピョコピョコと近付いてきた。


「フィン! お前も無事だったんだな」


 ルイから離れ、フィンを抱っこして思い切りモフモフした。


「魔物が人間に懐くこともあるのだな。闘いの隙に逃げていると思ったのだが」


「本当、珍しいですね」


 ステファンとルイは不思議そうな顔で俺とフィンを見ていた。


◇◇◇◇


「なんだ、あいつらは。上級魔物をいとも簡単に倒すとは」


「計画が台無しだ」


 とある部屋の一室で、ローブを深く被った男たちが会議をしている。部屋は薄暗く、お互いの顔も見えない


「あの騎士は厄介だな。剣に炎を纏って闘うとは」


「いや、それより属性を二つ持っているやつがいた」


「あれが力をつければ脅威になる」


「私に妙案がある」


 四方から次々に声が上がっていたが、男の中の一人が言葉を発すると静かになった。


「ほう?」


「何かな?」


「あれをこちら側に取り込んでしまえば良いのだ」


 男は不敵に笑った。


「出来るのか?」


「私を誰だと思っている」


 ローブの隙間から金色の瞳が不気味に光り、男は不敵に笑った。


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