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星見ヶ丘

一番星、見つけた。

 今日も仕事をミスってしまった。先週と同じところを。社会人になってそろそろ一ヶ月。はいった時こそ頑張ろうと思っていたのに今となったらこのまま出来るのかが不安でしかない。

 地震がなくなるとき、学生時代から寄り道をする。駅から家までの道のり。普通に帰れば10分で着くところを1時間以上かけて回り道をする。

 疲れている身体に鞭をうち山道を上る。着慣れてきたスーツにローファー。足が少し痛むがそんなことは気にせず、無心で山道を上る。

 少しすると覆われていた木々が晴れ、目の前が開ける。

 不安なとき、心配なとき、悲しいとき、人気の少なく、街を見下ろせるこの場所にいつも来る。しかし、いつもは誰もいないところに少年が一人。私がいうのもあれだが夜に一人で来るような場所ではない。

「こんばんは、僕。何しているの?」


 寝っ転がっている彼は私に気づいていないのだろうか。空をぼーっと見ている彼に気づいてほしかったわけではないのだが彼の視線にはいるように少しのぞき込む。


「あのー、私に気付いてる?」


 はっとした顔をして彼は起き上がり、


「あれ、こんなところに人がいるなんて、珍しいね。こんばんは」

「こんばんは。私はたまに来るのだけど、私こそ初めて見たよ」

「そうなんだ、僕は初めて・・・。かな。わかんないや。お姉さんはなんでここに来たの?」


 私の本音は失敗をしたから、一人になって落ち着きたくて。しかし、年下の少年に話すのはなにかどこかにある私のプライドが許さなかったようだ。彼からの目線を少し外し、


「軽くお散歩かな、ここからの景色が好きでさ」


 私はさっと嘘をつく。彼は首を少しかしげ


「ここから街が一望出来るの?! 知らなかったよ!! 本当だ!! 綺麗だね。知らなかったよ。教えてくれて、いいことを知れたよ!」


 彼の言い草からすると何度かは来たことがありそうなのにこの景色を知らなかったのか。不思議な少年だな。


「そういう僕こそここで何をしているの? 街を見下ろす位しかやることないよ?」


 彼は不思議そうな顔をして首をかしげる。


「僕はここで空を見ているんだ。さっきみたいにぼーっと夜空を眺めたり、望遠鏡を覗いて見たりするんだ。この街で星空が見れるはここだけだからね」


 私はそう言われ空を見上げる。そうすると視界には満点の星々が輝いていた。こんなに綺麗に見られるなんて知らなかった。


「お姉さん、知らなかったの? だめだよ、下ばかり見ていたら。僕みたいに上を見ていないと。いつも同じ方向ばかり向いていたら面白くないよ?」

「下ばかり向いているつもりは・・・。」

「下ばかり見ているよ、だってここに何度も来ているのにこの星空に気付いていないんだから。上を向けばこんなに星達が輝いているんだよ!」


 たしかにそうかも知れない。特にここに来るのは落ち込んでいるときだから余計に。


「そうかも知れないね、せっかくだし私に星達を紹介してよ。私、あんまり分からないんだ」

「してあげたいけど僕には難しいんだよなー。」


 彼は顔を曇らせてそう答える。


「なんでよ、だって星を見るのが好きなら・・・」

「誰も見えているなんて言ってないじゃないか、でも説明は出来るよ! この時期によく見えるのは春の大三角! うしかい座のアークトゥルス、しし座のレグルス。そして乙女座のスピカ!! どう? すごいでしょ!」


 彼は楽しそうに説明をしてくれる。私もこんな風に楽しそうに出来ているのだろうか。


「そうなんだね、でもすごいね! 私が僕みたいだったら空を見ようと出来ないかも知れないなぁ」

「ほら、また下向いているよ。僕が見えない代わりにちゃんと見つけてよね!」


 彼に怒られてしまった。私は無数に広がる星々の中から春の大三角を探す。使い慣れない望遠鏡をのぞき込みながら。そして


「見つけたよ!!多分これがスピカ!! 見てみ!」


 私は彼の顔を軽くつかみ、望遠鏡に目を合わせてあげる。


「お姉ちゃん、ここが春の大三角なの? すごいな。きっときれいなんだろうな、ちゃんと見えたらな・・・。」


 彼は小さい声でぼそっと言う。


「あ、僕が初めて下向いてるよ。大丈夫、見えるから! 私が見つけられて、見れたんだから!」

「そうだよね、そうだね!! お姉ちゃんに元気づけられるなんてちょっと悔しいな」

「なんで悔しいのよ!」


 私と彼は一緒に笑う。いつしか、下を向いていた私の心は上向きに変わっていた。


「そろそろ、僕は帰るね、時間も遅いし・・・」


 とっくに時間は遅く、今更と思ったがもう少しいたいと思った私は


「また、会えるかな?」


 こう聞かれた僕は「大丈夫、いつでも見えるよ」とだけ少しもの悲しそうに言う。


「そう、かな。またここに来たら会おうね! というか一緒にしたまで降りよっか。見えないでしょ?」


 彼は首を横に振り


「お姉ちゃんとは逆方向だから大丈夫だよ。あと、一番星なら見えるから」


 彼はこう一言だけ残して帰って行ってしまった。

 寄り道をしているのだから遅くなろうと追っかければ良かった。しかし私は追いかけることはしなかった。また、彼の輝いてる目にある一番星を見られるだろうか。

 私はそう思いつつ、地べたに寝っ転がり、一番星を眺めるのだった。


お読みいただきありがとうございます。

そろそろ疲れてきていたり、自信がなくなったりする頃だと思います。そんな時って下ばかり向いている気が私はします。そんな時こそ、上を見あげてみてください。夜なら星々が輝いていると思います。都心で街灯りでも一番星は輝いていないでしょうか?

自分はできない、役に立たない訳では無いんです。しっかりと頑張れば誰かは見ています。その一番星のように輝いて。

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― 新着の感想 ―
[一言] 少年との思いがけないふれあいの中で、上を見ることを知った主人公がこれから前向きに日々を過ごせるようになればいいなと思いました。 言われてみれば、大人になってからあまり空を見上げていないような…
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