悪役令嬢ですが、予想外の展開になりました
ワタクシ、元日本人の転生者で、今はアズール王国の公爵令嬢、ミリアーヌと申します。
現在、ワタクシは途轍もない危機に瀕しております。
ええ、所謂「小説家になろう乙女ゲーム悪役令嬢テンプレ展開」に巻き込まれていますの。
ワタクシがこの世界の事を、なろう小説の中の世界だと認識したのは、5歳の頃でした。
似たような小説が粗製乱造されていたため、タイトルまでは思い出せませんでしたが、間違いはないと思うのです。
8歳で未来の王太子殿下の婚約者になり、12歳で貴族と平民が肩を並べて通う学園に通うようになり、この考えの正しさを確信しています。
だって「自称ヒロイン」に、婚約者であった殿下や、その御学友の方々を篭絡されてしまったのですから。
ワタクシは断罪ザマァをするつもりも、されるつもりもありませんでした。ヒロインさんとも、可能であれば仲良くしたかったのですが……。
困った事に、現地人でワタクシのように転生者ではなかった彼女とは話が通らず、謎の「恋愛至上主義お花畑理論」で、殿下を不当に拘束する悪役令嬢認定されてしまいました。
ええ、合理的で法的に、こちらの常識に合わせた提案をしていたつもりなのですが。
「愛し合う二人を引き裂くなんて、許されるはずがないわ!
愛してもいないくせに殿下と結婚しようだなんて、それがどれだけ罪深い事か、分かってるの!?」
本当に、話が通じなくて泣きたくなってしまいました。
その後は敵認定されたワタクシを嵌めようと、ヒロインさんは小細工を弄し、ワタクシの評判を貶めようとしました。
物が無くなった、教科書やノートが破られる、机に落書きをされたなど。鉄板の嫌がらせを、ワタクシが行ったと言い出したのです。
もちろん、そういった噂を放置しては御家の評判に関わりますので、徹底的に反論を行い、こちらの正当性を証明したのですが、それがいけなかったようです。
何故か殿下はヒロインさんを守るようになり、ワタクシは慈悲の無い、冷血令嬢として忌避される様になってしまいました。
……ここまでは、良いのです。
御父様からお叱りを受けたりしましたが、まだ常識の範囲でしたので。
問題は、いま現在の状況です。
「アメリア! 嘘だ! 返事をしてくれ!!」
階段の下、頭から血を流し冷たくなっていくヒロインさん。
そんな彼女の亡骸に縋りつく殿下。
そう、ヒロインさんは、ワタクシに階段から突き落とされたと言うために自作自演の事故を起こし……頭を強く打って死んでしまったのです。
ヒロインさんに、どのような勝算があって、あの様な事をしたのかは理解できません。
ですが、目論見は失敗して、ただの自殺をした事になりました。
ああ、もちろん、ワタクシには冤罪が擦り付けられぬように自衛していたので、ワタクシがなにかしたとは言われておりませんよ。
しかし、ですね。
「お前が……お前の存在が、アメリアを追い詰めていったのだ!」
「それは誤解ですわ。
アメリアさんに対する殿下の態度に問題があったのは、以前ご指摘したとおりですの。ワタクシはただ、余計な噂が立てられぬよう、正論と常識の範囲で自衛しただけですもの。
それとも殿下は、ワタクシに、彼女に虐げられる役を演じろとおっしゃいますの?」
殿下は恋人を死に追いやった理由を、ワタクシに求めたのです。
そもそも、殿下が浮気などされなければ、このような事にはならなかったのですけどね。御自身の軽率な振る舞いが人を死に追いやったと考えたくはなかったのでしょう。
殿下とアメリアさん、御二人が道を間違えなければ、こんな事にはなりませんでしたのに。
「この、冷血女! お前との婚約なんて破棄してやる! タダで済むと思うなよ!!」
ああ、もう。面倒くさいですわね。
令嬢が人前でする振る舞いではありませんが、ワタクシは「誰か助けてください」と、思わず天を仰ぐのでした。
よくある、「階段から突き落とされたの!」と叫ぶヒロインが失敗したパターンです。
なんで他のなろう小説のヒロインは、階段から落ちても軽い怪我で済むと思っているんでしょうかね? リアルでは、5段ぐらいの高さでも、階段から落ちれば死ぬときは死にます。