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【陰鬱系サイコホラー】 「カウマイが存在することを証明する」  作者: 苦虫
第三章 カウマイは縁である ~小学校五年生の記憶~
20/33

第20話 灯り

1.


 廊下の先に見えるオレンジ色の灯りを見て、僕たちは一瞬だけ黒須を見つけたと思った。


 だがすぐにおかしい、と気付く。


 灯りはまったく動かないうえに、僕たちの目線よりかなり下にあったのだ。

 一瞬後、黒須が持っていったランタン型の灯りが、廊下に置かれているだけだ、とわかった。


「黒須は?」


 僕たちは廊下の先のほうに目をこらしたが、誰の姿も見えない。

 廊下は相変わらず薄暗く、どこからも何の物音も聞こえてこない。


「黒須が、灯りを置いて行ったの? 《《何で》》?」


 璃奈の声は、怯えたような小さなものだった。


 黒須が一体、灯りを置いてどこへ行ってしまったのか、そもそもなぜ、灯りをあんなところに置きっぱなしにしたのか、僕たちは訳が分からず混乱していた。


 夕貴は璃奈や僕の言葉にはすぐには答えず、懐中電灯の灯りで慎重に廊下の先を照らしていたが、やがて納得したように言った。


「よく見ろよ」


 夕貴に言われて、僕と璃奈は恐る恐る視線のかなり先にあるランタン型の灯りのほうを見る。


「あそこはトイレの前だ。黒須はトイレに入ったんだよ。灯りは外に置いて、入ったんじゃないかな」

「なんだ、そうなのね」


 璃奈がホッとしたように息を吐いた。

 そうか、と僕も呟いた。

 

 だが何かがおかしい。

 何か、とは言えないけれど、どこか違和感があった。


 ぼんやりとした灯りを放つランタンを見ているうちに、その違和感がどんどん膨れていくのが分かる。


「とりあえず黒須と合流しよう。もしかしたら、大人と会っているかもしれないし」

「うん」


 夕貴の言葉に璃奈が頷く。


 夕貴は歩き出そうとして、ふと僕のほうを振り返り尋ねた。


「どうしたの?」

「いや……」


 僕は口ごもった。


「そのう……何か変な感じがして」

「変な感じ?」


 夕貴と璃奈から怪訝そうな眼差しを向けられて、僕は消え入りそうな声で続けた。


「そのう、トイレにしては長くない? 長くかかりそうなら、灯りも持って入ると思うし。それに……何で《《廊下の真ん中に灯りを置いたのかな》》? 何だか……」


 得体の知れない恐怖が背筋を這い上って、全身を震わせた。

 僕は震える声で囁いた。



「僕たちを誘っているみたいだ」



 二人の顔がどことなく不安そうになった。

 申し合わせたように、二人は廊下の先に置かれた灯りを見つめる。


「じゃあ」


 妙に平板な、乾いた声で夕貴が言った。


「黒須はどこに行ったんだよ? あんなところに灯りを置いて」



 僕は答えられず、言葉にならない声を口の中で出した。

 璃奈は不安そうな顔をのまま、陰に隠れるように夕貴の服を両手で握りしめる。


 夕貴はしばらくの間、ジッと廊下の先を見つめていたが、やがて意を決したように歩き出した。


「僕が見て来るから、二人はここにいろよ」

「嫌よ」


 璃奈が悲鳴のような声を上げる。


「璃奈は夕貴と一緒に行く!」

「僕も……僕も行くよ」


 僕も慌てて言った。

 一人にされてはたまらない。


 

 夕貴はそれ以上、何も言わなかった。


 僕たち三人はひと固まりの影のようになって、息を潜め、トイレの入り口の前に置かれた灯りに向かって歩き出した。

 

★次回

「第21話 トイレ」

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