表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/33

第15話 幕間・1 ~現在~

1.


 僕と夕貴は門を乗り越え、小学校の敷地内に入った。


 廃校になったとはいえ、校舎の中に入れるのか。

 ユカリがここで自殺したというならもう入ることは出来ないのではないかと思っていたが、夕貴は僕たちでもかろうじて通れるくらいの窓が建付けが悪くなって鍵がかからなくなっている場所を見つけた、と説明して、裏庭のほうへ回った。

 

 胸くらいの高さにある窓から、僕たちは校舎の中に入った。


 僕たちが小学校五年生の時に閉じ込められた教室は、今いるB棟の三階、長い廊下のちょうど反対側にある。

 僕たちは階段を上り三階へ行くと、廊下の反対側に向かって歩き出した。




2.


 廃校になって数年経っているのに、校舎内は不思議と綺麗で、床に埃が積もっている様子もなかった。

 まるで今でも、普通に子供たちが通っているかのようだった。

 

 というより。

 僕は不安げに辺りを見回しながら考える。

 

 十年近く経っているはずなのに、校舎の中は僕が通っていた当時の学校の様子そのままに見える。

 白いタイルの廊下も、すりガラスで中がよく見えない小窓のついた教室の出入り口も、廊下の窓から見える中庭の風景も、十年前、僕が通っていた当時のままだ。


「全然、変わっていない」


 僕は辺りを見回しながら呟く。

 懐かしいと思うより、恐ろしかった。



 夕貴が持つ、か細いペンライトの光に照らされた廊下を歩いていると、自分が小学校五年生の時に戻ったような気持ちになった。

 

 その時にもこんなことがあったような。

 普段は現れない頭の裏側の部分で記憶がざわめくような、奇妙な感覚がして僕は身震いした。


「着いた」


 夕貴はひとつの教室の戸の前で、足を止める。

 

 五年二組の教室。

 僕たちが五年生だったときの教室だ。



 僕は感慨深げに、薄汚れた教室の白い扉を眺めた。

 

 このクラスでは色々なことがあった。


 黒須がトイレで死体で発見されたすぐ後に、学年で一番可愛くて人気があった女の子が屋上から飛び降りた。

 表向きはフェンスに破れた箇所があったために起こった事故、ということになった。だが子供たちの間では、自殺ではないかという噂が流れた。


 何故、そんな噂が流れたのかは分からない。

 死んだ子は、悩みとは無縁そうな明るく可愛い子だった。


 名前は確か……。


「入るよ」


 夕貴の固い声で、僕の思考は断ち切られた。

 僕が頷くと、夕貴は意を決したように教室の扉を開けた。 




3.


 教室の中は、机や椅子が片されており、傷のついた木の床だけが広がるガランとした空間になっていた。

 小学校五年生の時、夕貴たちと閉じ込められた時と同じように、窓からは満月に近い月の光が射し込んでいる。



 机も椅子も教卓も職員机も本箱も全てが取り払われた空間の中で、僕たちは部屋の中央に無造作に置かれている()()に、すぐに気付いた。


 ペンライトで辺りを照らし出す夕貴の表情が、緊張と恐怖で強張るのが伝わってくる。

 僕もまったく同じ表情を浮かべているに違いない。



 夕貴は躊躇いがちに、部屋の中央に置かれた()()に光を当てた。


 体の半分は人間の姿をし、半分はむき出しになった赤い筋肉の走行が描かれた()()は、手足を不自然な角度に捻じ曲げ、仰向けに横たわっていた。顔だけが横に向けられ、何も映らない無感動な眼差しが僕たちのほうへ向けられている。


 陶器で出来ている顔は何かを叩きつけたれたかのように割れ、その体は何かは分からない赤い液体で染まっていた。 


 

 ()()は僕が小学校五年生のときに教室で見た姿、そのままだった。


「人体模型?」


 夕貴が僅かに震えを帯びた声で呟く。


「何でこんなところに……」


 僕たちは月明かりの中に横たわる、破壊され血に染められた人体模型の姿を、震えがながら見つめていた。



★次回

第三章「カウマイは縁である ~小学校五年生の記憶~」

「第16話 消失」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ