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ここは乙女ゲーム【Dear Venus】の世界。
舞台は女神信仰の国、ヴィアスト王国
孤児院で育てられたヒロインがある日怪我をした貴族を助け、"癒しの力"が発現。
助けた貴族の養子となり育ち、学園に入学。
平民上がりと疎まれることも多かったがめげない姿勢に攻略対象の好感度が上がっていく。
様々なイベントをクリアして、最後にして最大の困難に立ち向かった時覚醒し"女神の涙"の紋章が"胸元"に浮かび上がり聖女となる。
聖女となったことで平民と罵る者もいなくなり、身分の差もなくなって攻略対象と結ばれる。
というストーリー
そして、そんなヒロインに転生したのが私。
東雲 桜(享年27歳)
多分寝たまま死んだっぽいのよね。
最後にこのゲームをクリアして、何かアンケートに答えたあと急に眠気に襲われてーー
気がつくと涙ぐんだ院長(孤児院の)に抱かれていた。
私の母は元々この孤児院で育ったらしく、そりゃあもう美人で有名だったとか。
踊り子として各地を回っていて私を身籠ったことがわかり孤児院に帰ってきたのだ。
そして、私を産んだ後すぐに息を引き取った。
父親が誰なのかは頑なに言わなかったらしい。
ヒロインの出生にこんな話があったなんてね。
ところで
なぜヒロインなんだ!私は!
目立つの苦手!出来ることなら一生を日陰で終えたい精神の私がなぜ!?
こうなったら、全力で回避だ。
ずっと平民として暮らしてやる!ふははは!
なーんて、思った時期が私にもありました。
そうね、まず最初のシーンを回避しようとしたのよ。
怪我を負った貴族の元へ偶然を装い警備隊を誘導して全部丸投げしたわけさ。
これで万事解決!と思っていたのに。
街で会った老夫婦に道を教えてあげた所、後日一台の馬車が孤児院に。
なんとその老夫婦は前公爵夫妻だったのだ。
なんっでいんだよこんな田舎に!
格好もちょっと裕福な平民ぐらいな服装だし!
「お嬢さんを、我が家に迎えたいと思ってるの。」
「な、何故でしょう?私は何もしてませんが?」
「私達が、道がわからないからと騙されそうになったところを助けてくれただろう?それに、目的地に行くまでも、わざわざ警備隊が常にいる所を通って案内してくれた。」
ゔっ
「別の日に街であった事故の元に警備隊が早く駆け付けたのも貴方のおかげよね?」
うへぇ…どうやって調べたんだ。
「実は事故にあった家の者と我が家は親交があってね。君には本当に感謝しているんだ。」
ふむ。
実際のヒロインはルノワー伯爵家に引き取られた。
ルノワー伯爵家と親交があったと言うことは…。
ボソッ
「…ラヴェルディ公爵家」
「あらあら、まぁ!どうしてわかったのかしら?まだ名乗ってもないのに!」
ギクッ
「あの、馬車の!家紋を見まして!前にこの国の貴族と家紋の載った本を見せてもらったことがあって!」
「素晴らしい記憶力だね!ますますうちに来てほしい。」
「あ…あはは」
全て乙女ゲームの知識だけどね。
この世界へ来て10年。もう中身は37のおばさんよ。
「どうかしら?不自由な暮らしは絶対させないのだけど」
貴族になったら絶対攻略対象と出会っちゃうし。
「…答えが出ないようなら一度我が家へ来てみないかい?それから決めても遅くはないし。」
「…そう言うことなら…」
と返事をするとみんなして安堵の笑みを浮かべる。
そして何故だか2人から懐かしさを感じた。