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論破王

「おのれ、この私を嘘つき呼ばわりするなど許せん! 人間があのような凶悪な犯罪を行う訳がない、あのようなことをする奴らは全員忌み子に違いない!」


 俺の言葉に神官は完全に激怒したようだ。

 顔を真っ赤にして叫ぶ。


「こうなったらこいつをボコボコにしろ! 恩人が痛めつけられていると分かればあの人間もどきもやってこざるをえないだろう!」


 彼の言葉に待っていましたとばかりにならず者たちも立ち上がる。

 まずい、目の前の男が許せなくてつい論破してしまったが、その後のことは全く考えていなかった。こんなことならこいつらの要求を呑んだ振りをして一度ここを離れるべきだったか。


 一応背後のドアに手をかけるが、鍵がかけられているのか開く様子はない。

 そんな俺をならず者たちはゆっくりと取り囲む。


 が、俺はそこでふと気づく。目の前の男たちの動きがやけにゆっくりに見えるのだった。どうやら俺はこいつらを昨夜“論破”したから動きが手に取るように分かるらしい。なるほど、これが進化したギフト“論破王”の力か。


 ついでに神官も先ほどの会話で“論破”したことになったのか、動きがゆっくりに見える。


「かかってこいよ。もっとも、神官の言うことを聞く代わりに犯罪行為を見逃してもらっているような腐った奴らに負けるとは思わないが」

「何だと!?」


 図星をついてしまったからか、男たちは頭に血を昇らせて剣を抜く。そして五人が同時に襲い掛かってくるが、動きが遅すぎる。

 俺が身をかがめて攻撃を避けると、男たちには俺が突然姿を消したように見えたのか、慌てて俺に振り降ろそうとしていた剣を止める。が、一人が勢いあまって俺が立っていたあたりに剣を振り降ろし、そのまま向かい側から俺に斬りかかろうとした仲間に剣を向けてしまう。


「うわっ、ばか、やめろ!」


 男は攻撃を避けようとして後ろに下がるが、狭い部屋だったこともあって背中から壁にぶつかる。


「馬鹿め」


 俺は残った男たちの背後に回ると、首筋に手刀を向けた。いくら俺が悪くはないとはいえ、教会内を血だらけにすると後が面倒くさそうだと思ったからだ。

 ギフトの力か、この男の弱点までがくっきりと浮かび上がって見える。

 俺はその場所を狙ってまっすぐに手刀を振り降ろす。


「……っ」


 手刀を受けた男はくぐもった声とともにその場に倒れた。


「貴様っ!」


 続いて次の男が斬りかかってくるが、俺は攻撃を避けると彼の後ろに回り、背中を押す。


「うわああっ」


 彼には急に目の前の俺が消えて突然後ろから押されたように感じたのだろう、すごい勢いでつんのめり、そのまま部屋の壁に激突する。


「何だ、こいつの身のこなしは」

「早すぎる!」


 それを見て残っていた男たちが驚愕の声をあげる。

 そして神官はというと、その表情が俺への恐怖で染まっていた。


「何をやっているのですか! こういう男を始末するために今までお前たちの悪事を見逃してやっていたというのに!」

「うるさい、いつも偉そうに指示ばっかしやがって!」


 勝手に敵同士で仲間割れが始まったが、それでも飽きずに俺に向かって剣を向けてくる。


「だからお前たちの攻撃なんて見えてるんだって」


 分かりやすく動きの差を見せつけるのにはどうすればいいのだろうか。両側から斬りかかってくる攻撃をかわすと、お互いの背中に手を伸ばして強く押す。


「うわっ!?」


 男たちは悲鳴を上げて正面から衝突し、その場に倒れる。


「ひっ」


 神官から見ると俺が目にも留まらぬ速さで動いて同時に男たちの背後に手を伸ばして押したようにしか見えないだろう。


「た、助けてくれ、命だけは……」


 そう言って彼は哀れにも尻餅をつきながら俺に命乞いをする。別に俺はこいつらを殺そうという気は全くないのだが。


 が、その時だった。

 こちらに走ってくる足音がしたかと思うと、バタン、と音を立てて背後のドアが開く。もしかして敵の増援か、と思い振り向くと、


「アランさん!」


 そこに立っていたのは焦った表情のオリアナだった。


「オリアナ? 何でここに!?」

「宿の人からアランさんが教会に呼び出されたと聞いてもしやと思って……でもこれは一体?」


 最初は蒼白な表情だった彼女は目の前の光景を見て首をかしげる。そこには俺が倒したり、自滅したりした男たちが五人ほど倒れ、神官が尻餅をついて命乞いするという異様な光景が広がっている。


「何かギフトが覚醒したおかげで倒せてしまった」

「良かった……」


 それを聞いてオリアナはほっとしたように息を吐く。


「で、あれは?」

「ひぃ、助けてくれ!」


 神官はオリアナの姿を見て本気で恐怖しているらしい。

 別にこいつには関わらずにさっさと立ち去ってもいいが、せっかくなので俺はあることを考える。


「お前がこいつらと組んでやっていたことを全部書面にして懺悔しろ」

「は、はい、分かりました!」


 彼はよほどオリアナのことを恐れているのか、その辺に落ちていた紙を掴むと血走った目でペンを走らせる。そこには男たちを見逃す代わりに忌み子や自分に敵対する者たちを襲わせていたことや、犯罪者が見つかった際にはそいつを忌み子と認定していたことなどが書かれていた。


「こ、これで助けてください」

「分かった。もうこんなところ出よう」

「は、はい」


 俺は困惑するオリアナを連れて教会を出ると、街の広場の掲示板に先ほどの神官が書いた紙を貼りつけたのだった。

 やつが今後どうなるのかは真相を知ったこの街の住人の判断に委ねよう。


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