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嘘つくのやめてもらっていいか?

 翌朝、俺は目を覚ますと宿の食堂に向かう。昨夜全額店主に払ったためパンの一つも買うことが出来ない。オリアナが起きてくるのを待って彼女に頼めば朝食代ぐらいは出してくれるかもしれないが、これ以上タカり続けるのも少し気が咎める。どの道どこかで自分でお金を稼がないといけない以上、この街のギルドに行って仕事でも探すか、などと思った時だった。


 不意に宿の人が俺の方へ歩いてくる。何の用だろうと思っていると、彼は一通の手紙を俺に差し出した。


「あなたにこの街の教会から手紙が来ています」

「教会?」


 教会のお世話になることはしていないが一体何だろうか。

 そんなことを思いつつ俺は手紙を開く。

 するとそこには、旅の冒険者と聞いてやって欲しい仕事がある、と書かれていた。何でそんなことを知っているんだと思ったが、昨夜あれほど大騒ぎをしたのだから誰かがたまたま聞いていてもおかしくはないのかもしれない。

 ちょうどお金がなくて困っていたところで仕事がやってくるなんて渡りに船だ、と思い俺は教会に向かうことにした。




 アルザスの街は人口数百人程度のそこまで大きくない街であり、中心部にある教会が一番大きな建物であった。

 このぐらいの規模の街であれば俺ぐらいの冒険者でも強い方なのかもしれない、と思いつつ教会の中へ入る。

 そして近くにいた神官に手紙を見せると、すぐに奥の間へ通された。礼拝堂より奥に入るのは二回目なのでギフトをもらった時のことを思い出し、少し嫌な気持ちになる。


「ではこちらへ」


 そう言って神官が一つのドアを示す。

 ドアの奥には数人の人物がいる気配を感じたが、俺は特に気にせず中に入った。

 すると、目の前には若そうな神官が一人、そして昨夜俺が“論破”したならず者たちが五人ほどにやにやしながら座っているのが見える。


「どういうことだ!」


 異様な風景に思わず叫ぶが、その瞬間に後ろのドアが閉まる。

 それを見て俺は自分が良からぬことに巻き込まれたことを悟った。


「いえ、あなたは忌み子に対して珍しい知見をお持ちということで話を聞かせていただきたいと思いましてね」


 神官はそう言って笑うが、目は笑っていない。それを見て俺は嵌められた、と気づく。神官の中には過激な忌み子差別派がいるとは聞いていたが、これまで遭遇したことがなかったので自分が巻き込まれるとは思ってもみなかった。


 何でかは分からないが、このならず者たちは神官と繋がりがあり、昨日の俺の行為をこいつに注進したのだろう。教会からの手紙ということで無条件に信用し過ぎたことを悔やむ。


「……神官の癖にこんな卑怯な手を使うとは落ちたものだな」

「ははは、何を言っているのですか。では私が集めたデータをご覧ください」


 そう言って彼は一枚の紙を見せる。

 そこにはいくつかの街における人口に占める忌み子の割合と、犯罪件数、そしてそのうちに占める忌み子の割合が書かれていた。

 確かにこのデータを見ると忌み子は他の人間の五倍以上の割合で犯罪をしている。


「お分かりいただけましたか? 忌み子が凶悪だということはすでに立証されているんです」


 が、そこで俺は彼の言葉に違和感を覚えた。と同時にギフトが発動するのを感じる。もしかしてギフトが進化したから相手の嘘が分かるのか?


 ということはこのデータは嘘なのだろう。

 とはいえ、ただ「嘘だ」と言っても水掛け論になるだけだ。何が嘘なのかを暴かなくては。


「これであなたも間違いが分かったはずです。もし過ちを認めるのであれば一つやって欲しいことがあります。それをしていただければ昨日の行動は水に流しましょう。やって欲しいことというのは昨日の忌み子をこの路地裏におびき出してほしいのです。あなたのいうことなら彼女も聞くでしょう……」

「この……人間のクズめ」


 俺が黙っていると、神官は好き放題に耳障りなことをしゃべる。それを聞いて俺はどんどん不愉快になっていった。こいつにとっては忌み子とは本当に人間とは異なる駆除すべき存在に過ぎないのだろう。

 が、俺の言葉に彼は顔をしかめる。


「何ですと? 奴らは神が造った我ら人間と違って危険な存在。野放しにしておく訳にはいかないのです」

「なるほど。じゃあ一つ聞いていいか? 忌み子と人間はどう違うんだ?」


 オリアナの場合は見た目で分かったが、やろうと思えば見た目をごまかす手段はいくらでもあるだろう。それでも見分けることは出来るのだろうか。


「忌み子は我ら人間と違って穢れた魔力を内に秘めています。我ら聖職者にとっては見るだけで分かりますよ」

「じゃあこのデータにある犯罪者が忌み子かどうかも神官が決めたということだな?」

「そうですね、我らが判定させていただきました」

「つまりお前たちは人間の凶悪犯罪者でも忌み子だったことに出来る訳だ」

「……っ!?」


 俺の言葉に神官は顔をしかめる。どうやら図星だったようだ。


「ち、違う、我らは神に与えられた力で普通の人間と邪悪な人間の区別がつくのだ!」


 神官の言葉に俺のスキルが反応した。こいつは嘘をついている。


 世間の人は何となく神官は正義感が強いから嘘はつかないだろう、と思っているようだが歪んだ正義感というのはある意味小さな悪よりも性質が悪いらしい。

 俺は正義を振りかざして事実を捻じ曲げる神官に向かって言う。


「何だろう、嘘つくのやめてもらっていいか?」


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