オリアナ
「あ、ありがとうございます」
ならず者たちが出ていくと、少女が心配そうな表情でこちらに歩み寄ってくる。
「私はオリアナと言います。助かりました」
遠目に見てもきれいだと思った彼女のきれいな顔は、間近で見るとより一層きれいでドキリとしてしまうほどだった。
が、遠目に見るときれいな白に見えた肌の白さは近くで見ると不気味にすら見えた。よく言えば、ガラス細工のように透明感のある白さは人間に近いながら一線を画している不気味さがあり、忌み子差別の一因となっているのではないかと思ってしまう。
「俺はアランだ。別に礼を言われるほどのことではない。正直、目の前で君が絡まれているのを見て不快感を覚えた自分に驚いたんだ」
「そうなのでしょうか?」
俺の言葉にオリアナは首をかしげる。
「ああ、俺は他人がどうなってようがあまり気にならないタイプだと思っていたがそうでもなかったらしい。それに、忌み子が狂暴であるとか、そういう嘘をつく奴らは大嫌だしな」
「嘘……それは本当に嘘なのでしょうか?」
ずっと狂暴狂暴と言われ続けたせいか、彼女もそうではないかと思い込んでいるのかもしれない。
「分かんない。だが、明確にデータがある訳でもないのに事実だと断定するのは嘘と言って差し支えないんじゃないか?」
「ありがとうございます。でも最悪私でも何とかなったので、あまり無理は……」
オリアナは遠慮がちに言う。
そう、それは俺も気づいていた。俺は冒険者としてオリアナからは尋常ならざる魔力を感じていた。元のパーティーで一緒だったカトリーヌやバルバラと比べても魔力は強いだろう。
俺が奴らに対してあそこまで啖呵を切ることが出来たのも、オリアナの強さに気づいていたからというのもある。
「いや、それはだめだ」
「え?」
「だってここでオリアナが魔力で奴らを叩きのめせばまた忌み子は狂暴だと思われる」
「でもあれは正当防衛で……」
「そんなこと、目撃者だった俺しか分からないだろ? 周囲のやつは忌み子と普通の人間が揉めて人間が倒れたと聞けば忌み子が悪いと決めつけるかもしれない」
「なるほど……ありがとうございます」
改めてオリアナは俺に向かって頭を下げる。
「オリアナはこういうことはよくあるのか?」
「はい、そもそも私が育った村でもここまで直接ではありませんでしたが、白い目で見られていました。ただ魔力だけはあったので、それを生かして冒険者になることにしたんです。それからも行く先々で色々トラブルはあったので、最近は店に入るときは出来るだけ顔を隠し、人のいない時間を選んでいるんです」
確かに冒険者というのは腕や魔力に自信がある命知らずが集まるので、忌み子でもそうじゃなくても狂暴な人間が多い。
そのため、冒険者ギルドでは他に比べて忌み子差別は少ないと聞く。それに、ある程度の魔力があれば一人でもやっていけないことはないし、旅をしながら生きていけばひとところで白い目で見られることもない。
「なるほど。色々大変なんだな」
「あの、アランさんは何かあったのですか? 随分深酒されていたようですが」
「あ!」
そこで俺はようやく自分のことを思い出した。
偉そうにオリアナを助けはしたが、俺は持ち金を全てはたいて酒を飲んだところだった。
「済まない、今日だけでいいから、宿代を出してくれないか!?」
「ま、まあ構いませんが、一体どうしたんです?」
助けた恩で頼んでしまったところはあるが、こればかりは仕方ない。
助けた相手にこんな事情を話すのも少し恥ずかしいが、俺は自分の身に起こったことを簡単に話す。
「実は……ということがあってやけ酒してたんだ」
「まあ、そのような」
俺が話し終えるとオリアナは驚く。
「ということは先ほどやたら口が回っていたのも『論破』のおかげだったんですね?」
「そういう訳だな。そう言えば、さっき議論だけであいつらを追い返したからか、ギフトが進化したんだ」
「え、『論破』って進化するんですか?」
ギフトによっては、使っていると稀に強いギフトに進化することがあるらしいとは聞くが、ケースが少ない上に個人によってまちまちなので法則はなぜだった。
「俺も初めて聞いたが、実際にしてしまった」
「それでどんなものになったんです?」
「『論破王』だ。どんな力があるのかは不明だが」
「『論破王』……格好いいですね」
「そうか?」
オリアナは無邪気に褒めてくれるが、正直あまり自分から名乗りたい称号ではない。
『論破』ですらあれほど色々言われたのに、その上”王”までつけたらどうなることやら。
「そういうことでしたら今夜の宿代は私が出しますよ」
「ありがとう」
ならず者に絡まれていた女の子を助けたはずなのになぜか全然格好がつかない。そんなことを思いつつ俺はオリアナに連れられて宿に向かった。
そしてその夜は街の安宿で一泊したのだった。




