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追放

「どうだった、アラン」


 俺が浮かない顔で教会を出ていくと、ディオンが期待した様子で声をかけてくる。三人とも役に立つギフトをもらっていたせいか、上機嫌で会話していたようだ。

 が、俺の浮かない顔に気づいたのだろう、バルバラとカトリーヌは気づかわしげに声をかけてくれる。


「大丈夫です、神がくださったギフトに外れなんてありませんよ」

「そうそう、あたしたちは仲間じゃん。お互い協力しよう」


 俺はそれを聞いて安心した。

 そもそもギフトは神様に一方的に授かるものであってどれだけ微妙なギフトをもらっても俺が悪い訳ではない。そのせいで仲間に白い目で見られるかも、と心配するのは半年間一緒に戦ってきた彼らに対してかえって失礼かもしれない。


 俺はほっとしつつ打ち明ける。


「ありがとう。実は俺がもらったギフトは『論破』で、少し言い出しづらかったんだ」

「え……」


 が、先ほどまでの和やかな雰囲気は俺がそう言った瞬間に凍り付いた。

 三人は冷えた表情でお互いに顔を見合わせる。明らかに雲行きが怪しい。

 そしてそんな三人を代表するようにディオンが口を開く。


「お前、今『論破』って言ったか?」

「あ、ああ、だが、ギフトは選びようがないものだが仕方ないって……」

「確かに自分で選ぶことは出来ないが、ギフトはそいつの本質に合わせたものが与えられたと聞くが」

「いや、俺はそんなことは……」


 雲行きが怪しくなってきた、と思った俺は必死で否定する。

 俺は別に議論が好きとか他人を言い負かしたいとかそんなことは思っていないはずなのに。

 が、今度はカトリーヌが口を開いた。


「『論破』って他人の足を引っ張ったり揚げ足をとったりすることしか出来ないギフトじゃなかったっけ?」

「そうです。そのようなギフトを授かる方は日頃から他人を貶めて自分がえらくなろうということしか考えてないと聞きます」


 バルバラも頷いた。


「お、おい、待ってくれ、俺は別にそんなことは……」

「ですが、知り合いが『論破』を持っている詐欺師に財産をだまし取られたと聞きました」


 バルバラが暗い表情で言う。それを聞いてディオンはさらに険しい表情になった。


「もしかしてお前、俺たちを出し抜いてパーティーの財産をだまし取ろうとか考えてるんじゃないだろうな?」

「そ、そんなこと考える訳がないだろう!? 半年間一緒に戦ってきた仲じゃないか!」


 が、俺の言葉に三人は顔を見合わせる。

 そしてカトリーヌがぽつりと言った。


「でも、あたしたちがギルドに成果を報告するとき、いつも文句つけてきたじゃん」

「それはみんなが嘘をつくからだろ」

「嘘じゃないって言ってるだろ!」


 俺の言葉にディオンが怒鳴る。

 冒険者の仕事が終わった後に俺たちはギルドに成果を報告するが、その際に倒した魔物の強さはいつも過大報告していた。倒した魔物の部位などは必要なので、ウルフを倒しだけでドラゴンを倒したと偽ることは出来ないが、普通のウルフを倒したのにキングウルフを倒したと報告するというのは日常茶飯事で、そのたびに俺は苦言を呈していた。


 他の冒険者もやっているらしいとは聞くが、だからといって嘘をつくのは良くないだろう。


「そうです、ギルドから多くの報酬を受け取り、それで次の魔物を倒す。これは正しい行為です」


 神官であるバルバラもそう言うので、俺以外は本気で、何が問題なのか、という顔をしている。

 とはいえ、俺はそういう風に嘘をついて多めに報酬を受け取ることはよくないと思っていた。


「でも……」

「それにこいつ、パーティーで報酬を分ける時に文句言ってなかった?」


 俺が言いよどんでいると、さらにカトリーヌが俺を責める。


「それは言ったけど、仲間なんだから意見を言うぐらい言った方がいいだろ?」


 ディオンは魔物を多く倒した者に優先的に報酬を分けるのが当然だと言ったが、それだと攻撃担当のディオンとカトリーヌばかりが必然的に報酬が多くなる。索敵や敵の妨害を担当する俺や支援回復担当のバルバラはいつも報酬が少なかったので報酬は四等分にしようという意見を言ったことはあった。

 しかし報酬が少なかったバルバラも今のままでいいと言っていたため、結果的に俺の意見は通らずに終わったという訳だ。


「もしやあの時納得した振りをして実際は納得していなかったのでは?」


 バルバラも俺を訝し気に見つめてくる。

 が、そこで俺は授かった『論破』の力が発動するのを感じた。そうか、ここで言い返すにはこうすればいい、という言葉が即座に頭に浮かんでくる。


「ちょっと待ってくれ。『論破』はありふれたギフトだ。だからもし『論破』持ちがみんなそういうことを企んでいるのであれば今頃冒険者は詐欺師だらけになっているはずだ。そうはなっていないということは、『論破』を悪用するのはごく一部ということだろ?」

「おい、まさかお前は俺たちを論破しようとしているのか?」


 俺の言葉になぜかディオンは眉を吊り上げる。

 おかしい、なぜだ、正しいことを言っているはずなのに。


「いや、そういう訳ではないが……」

「先ほど仲間だと言っていましたが、まさか仲間相手にその力を使うなんて……やはりそんなギフトを持っている方は信用出来ません」

「確かに、あたしはそういうの苦手だから騙されるかもしれない……今も何かアランが正しいことを言っているように聞こえたし」


 カトリーヌも急に俺を脅えた目で見てくる。


「いや、今のは俺が正しかっただろ!?」

「まあ、仮にお前の言っていることが正しかったとしても、そんな役に立たないギフトしか持っていないのであればいらないな」

「は?」


 俺はディオンの言葉に耳を疑った。


「だってそうだろ? 俺たちは認定冒険者パーティーだから新たな仲間を加えればそいつもギフトを授かることが出来る。もっと強くてまともなギフトの持ち主を仲間にすればいい」

「そんな! バルバラも神がくれたギフトをそんな雑に扱うなんて良くないと思わないのか!?」


 俺は必死に仲間に訴えかける。

 が、バルバラは冷たい声で言った。


「神がそのようなギフトを与えたということはそのような人物だということでしょう」

「カトリーヌも今まで一緒にやってきただろ!?」


 俺は一縷の望みをこめてカトリーヌの方を見る。


「でもさっきあたしたちを論破しようとしてきたじゃない!」

「そんな……」


 二人の反応を聞いて俺は愕然とする。まさかこんなことで半年間の絆が壊れてしまうなんて。

 だが、三人の話を聞く限り、そもそも半年間の絆というもの自体が幻想だったのかもしれない。それを感じていたのは俺だけで、三人にとってはずっと俺は目障りだったのか。


 そう思うと目の前が真っ白になりそうだ。

 そんな俺にディオンが告げる。


「と言う訳だ。これがパーティーの総意だ」


 そう言って彼は手を差し出す。


「何だ?」

「パーティーを追い出される前に例の魔剣を置いていってもらおうか」

「は?」


 例の魔剣、というのは直近の冒険で探索した遺跡で見つけた“ダブルチャンネル”のことだろう。詳しい性能は分からないが、年代が古い遺跡の奥にあったので価値のあるものだろうということは予想がついていた。鑑定してもらう予定だったが、腕の良い鑑定士が見つかるまでは発見したため俺が預かっている。


「これは俺が見つけたものだろう?」

「何を言ってるんだ、あの遺跡のガーディアンを倒したのは俺だろう? 一番魔物を倒した者が報酬を受け取る。これがこのパーティーのルールだ」

「そんな……」


 俺は他の二人を見るが、二人とも俺に厳しい視線を向けてきて、取り付く島もない。

 それを見て俺は愕然とした。追い出されるだけでなく、俺が見つけた宝物さえおいていかなければならないなんて。

 とはいえパーティーのルールと言われればそうだし、三対一では俺の要求が通る訳もない。


 いくら『論破』なんてギフトを持っていても、相手が話を聞いてくれなければ何の役にも立たない。大体、世の中には議論で言い負かされたからといって相手の言うことを聞こう、などと思う人は少数派だ。


「分かった、もういい」


 俺は荷物から“ダブルチャンネル”を取り出すと無造作にディオンに渡す。ディオンはそれを満足そうに受け取った。


「じゃあな、せいぜい詐欺師なんかにはなるなよ」

「そうですね、詐欺師の元仲間なんかになるのはごめんですから」


 俺は最後までそんな心無い言葉を浴びせられながらその場を離れるのだった。


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