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怒り

「おい……お前よそ者か? この街では麻薬の売買については介入してはいけないと誓約させられているはずだが」


 男は俺の方を見ると、低い声で言う。

 目の前でこんなことをしておきながら権力に守られていると思うと、虫唾が走る。


「知るかそんなことは! おまえも自分が何を言ってるのか? あの娘はお前を心配して見ず知らずの俺たちを頼ってきたというのに」

「だ、だが俺はもう薬がないと生きていけないんだ!」


 そう言って男は手を震わせる。どうやら禁断症状が出ているらしい。

 俺はとっさにオリアナの方を見る。彼女なら魔法でどうにかできるかもしれない。


「クレイドル」


 オリアナが魔法を唱えると、男は魔力に包まれて寝息を立て始めた。とりあえず眠ったならよしとするか。


「まあ、依頼者が寝たならこれで終わりだな」


 そう言って黒ローブの男はその場を立ち去ろうとする。

 向こうからしてみれば商売機会はいくらでもある以上、うっとうしいよそ者が立ち去った後にまた商売すればいいということだろう。

 だが、そんなことを許してはおけない。


「待てよ」


 俺はこいつの前に立ちふさがる。


「何だ? 俺はこの男と会話して立ち去るだけだ。それをお前は襲うと言うのか?」

「そうだ。最初は街の人がお前たちを見逃しているなら好きにやれと思っていた。でもそのために子供を売るような真似をさせるのはおかしいだろ」

「そうです、いくら何でもひどすぎます!」

「酷い? まあどう思おうがお前たちの勝手だが、お前たちにはどうすることも出来ない。痛い目に遭う前に立ち去るんだな。そうすればもう嫌な光景を見なくても済むぞ」


 この街ではよほどシャドウが幅を利かせているのだろう、こいつらは自分たちが悪であることを隠そうともしない。

 そんな相手であれば論破以前の問題だ。


「そうか。もういい、クズが」

「え、いいのですか?」


 俺が立ち去ろうとするとオリアナが驚いたように尋ねる。


「こいつを痛めつけても殺してもこの街は変わらない。それよりもこの街を変えるなら街で一番えらいやつをどうにかするしかないだろ」

「え……でも、どうやって?」

「分からないが、とりあえず会って“論破”して考える」

「分かりました」


 そもそも偉い人に会うこと自体が簡単でない上に、論破したところで何かが変わるのかもよく分からないが、オリアナは頷いてくれた。


「その前に一応彼だけやっつけてもいいですか?」

「……分かった」


 こいつを倒しても巨悪を倒すことは出来ない。そうと分かっていても放っておけないのはオリアナが純心だからだろう。


「さっきから黙って聞いていれば舐めやがって! 人を殺すと面倒だから帰ろうと思ったが、襲ってくるというなら容赦はしない!」


 そう言って男は短剣を抜いてオリアナに襲い掛かる。

 彼女がただの少女にでも見えたのだろうが、可哀想なことだ。


「シルバー・ブラスター」

「ぐわあっ」


 次の瞬間、オリアナの手から噴出された魔力の奔流が男を襲う。男は身をかわそうとして失敗し、直撃を受けてその場に倒れた。


「よし、行こう。いや、その前に」


 俺はぐうぐう眠っているヤク中の男の体を抱え上げると、元の道路に戻る。

 そして先ほどの少女に駆け寄った。


「あ、ありがとう」

「とりあえず今は眠らせているが、治ったかは分からない。中毒が治るまではずっと見張っていなければならない」

「分かりました、ありがとうございます」


 彼女は父親の体を抱きかかえながら俺に頭を下げる。


「じゃあ俺はもう用があるから行く」

「は、はい」


 こうして俺たちは、再び街の中心部に向かうのだった。


 そこには昨日向かった中央会館の他に、「街庁」という通常の役場がある。俺はオリアナとともにそこに入り、受付で尋ねる。


「この街で一番偉いのは誰だ?」

「代官様ですが……」


 突然やってきた俺に困惑しながら受付嬢が答える。


「だったらそいつに会わせてほしい」

「はあ? そんなこと無理です」


 もちろん俺もいきなりやってきてすんなり会えるとは思っていない。


「オリアナ、適当に何かやってくれ」

「いいんですか?」

「ああ、そうしなければ代官も会ってくれないだろう」

「では……コンセントレート」


 そう言ってオリアナは手元に大量の魔力を集める。

 この魔力を何らかの魔法にして発射すればこの建物を破壊することも出来るだろう。やってしまうと全面戦争になってしまうが、力を見せれば代官も会ってくれるかもしれない。


「ひっ、分かりました、呼んできます!」


 そう言って受付嬢は逃げるようにその場を去っていくのだった。周囲の客も俺たちに脅えており、役場は大混乱している。


「心配することはない。俺たちは普通に生きている人に敵意を向けることはない」


 そうは言っても周囲の混乱は収まらず、大騒ぎになった。

 少しして、先ほどの受付嬢が戻ってくる。


「代官様がお会いになるとのことです」

「分かった」


 こうして俺は多少強引な方法ではあるが、代官と会うことに成功したのだった。


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