ギフト
「うおお、俺のギフトは『致命斬』だ!」
「私のギフトは『超回復』でした」
「あたしは『広域魔法』か、まあ割といいかな」
俺はそんなパーティーメンバーの会話を聞きながら緊張してくるのを感じる。俺たちの半年ほどの活動の末、ようやく実績が認められてパーティー“白銀の旋風”は街の聖教会に認定された冒険者パーティーになることが出来た。
教会に認められた冒険者パーティーはギフトという能力を授かることが出来る。ギフトは教会で授かるものだが、無限にもらえるというものではない。一つ目のギフトはパーティーが教会に認定された時だが、二つ目以降は冒険者ランクが上昇する時にしかもらえず、次のギフトは当分先になるだろう。
だからギフトというのはかなり重要なのだが、ギフトの強さはピンキリで当たりはずれが大きい。
そのため、俺たちはこの日を楽しみにしている反面、“ゴミギフト”を授かることがないか心配していた。どれだけ役に立たないギフトであっても神からの授かり物である以上返品という訳にもいかない。
そして先に他のメンバーがギフトをもらい、リーダーであり剣士のディオンは『致命斬』という恐らくは剣の威力を高めるギフトを手に入れたらしい。彼は体格がよく、大きな両手剣を軽々と振り回して魔物を倒していた。
そして教会に所属する神官でもあるバルバラは『超回復』を手に入れた。彼女は神官らしくお金よりも魔物を倒すことを目的として冒険者をしているようで俺たちをしばしば助けてくれて、回復や支援の魔法を得意とする。
最後に攻撃魔法を得意とする魔術師のカトリーヌが『広域魔法』とそれぞれの役割に見合ったギフトをもらっている。彼女はどちらかというと天才肌で、魔術師と聞いてイメージする眼鏡をかけて分厚い本を読む老人とは真逆の存在だ。
「心配していたが、やっぱり神様はきちんと私たちにふさわしいものをくださるようです」
結果を見てバルバラがほっと一息つく。
「そうそう、アランも緊張しないでさくっともらってきなよ。アランは軽戦士だから動きが素早くなる系のギフトがいいよね」
カトリーヌは早くも俺のスキルに勝手に期待している。俺もディオンと同じ剣士だが、ディオンは怪力で大剣を振り回すのに対し、俺は素早い身のこなしで短剣を操るスタイルだ。
それを聞いてディオンも相槌を打つ。
「そうだな、もしくは感覚強化系もいいかもしれない」
「確かに、索敵能力が高いのもいいですね」
「じゃあ俺も行ってくるよ」
三人の会話を聞いていると、俺もそれにふさわしいスキルが手に入るような気がしてくる。そしてこれまでの緊張が嘘のように気安い気持ちで教会の奥の間に進んでいく。
そこには司教が立っている。年をとった白髪白髭の老人で、恐らく長年教会で修行を積んできたのだろう。俺が入ってくると手をかざして言う。
「ではアランよ、これが神がおぬしに与えてくださったギフトだ。ありがたく受け取るが良い」
「は、はい、謹んでお受け取りいたします」
俺が答えると、司教の手が光り、俺の中に魔力が満ちていくのを感じる。そして次の瞬間には俺は“ギフト”を受け取ったのを感じた。
そして司教がおごそかに告げる。
「おぬしが授かったギフトは……『論破』だ」
「『論破』?」
それを聞いて俺は思わず落胆を表に出しつつ訊き返してしまう。
すると司教は厳しい表情で言った。
「神様が与えてくださったギフトに不満を言うな!」
「す、すみません、素敵なギフトをありがとうございます!」
不満ではあるが、とても「他のギフトに交換できませんか?」などと頼める雰囲気ではない。
仕方なく、俺は逃げるように司教の前を離れた。
「まいったな……」
俺は司教の部屋を出ると溜め息をついた。
『論破』ギフトはありふれたギフトで、その名の通り議論が強くなるものだ。
俺たちは冒険者パーティーとして主に魔物討伐や、魔物が跋扈する危険な場所での任務を受けている。だからディオンの『致命斬撃』やカトリーヌの『広域魔法』のような魔物を倒すのに役に立つギフト、もしくはバルバラの『超回復』のような味方の役に立つギフトが望まれていた。
それなのに『論破』だなんて……。そもそもほとんどの魔物は人間の言葉を理解しないのに魔物相手には何の役にも立たない。
もちろん全員が全員、自分に役立つギフトをもらえるとは限らないしそもそもどのギフトを授かるかは俺の意志ではどうにもならないが、三人ともうまくいっているだけに余計に顔を合わせづらい。
俺は気まずい思いで三人の元へと戻るのだった。