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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【短編】 【罪と罰】〜自由を求めて『追放』されました。『世界の裁量者』が出現したらしく、俺の【罪と罰】の『力』の内容に思い当たる点が多すぎるが、俺は日課の『女風呂』を覗いているから放っておいてくれ!〜

作者:



 世界に激震が走った。


「『世界の裁量者』が生まれましたぞ!!」


 占いババアがこの言葉を言った事が原因らしいが、俺はそのババアを知らない。興味もない。知りたくもない。どうでもいいし、俺は基本的にババアは嫌いだ。


 美しく保たれたババアは大歓迎だが、そんな稀有な存在はいない。なら初めから『嫌いだ』と言っておいた方がいいだろう。



『世界の裁量者』


 この世の全てを手中に収め、世界の調和のために裁量する者のことらしいが、そんなもの俺には関係ない。


 この世界で稀に生まれる「特殊技能ユニークスキル」。それを与えられる者は、産まれながらにしてその力を持っているのが普通らしいが、俺にはそんな能力はない。


 いや、正確にはなかった。


 3日前から俺の目に映る景色は一変してしまったが、スキルではないだろう。産まれて16年経ってから、スキルが発現したなど聞いた事もないのだから、「コレ」がスキルなのかどうか俺には判別ができない。


 世界では『世界の裁量者』を血眼になって探しているらしいが、1年前、つまり俺が15になった頃、家から追い出され、ひっそりと暮らしている俺には無縁の話しだと思っていた。



――― アイルズ公爵家



「ジン。この家には必要のない子供だ。貴族であるのに『特殊技能』を持たない無能だ。礼儀作法や目上の者に対する態度も全てめちゃくちゃだ」


 偉そうで、無駄に金だけをかけている父様の部屋に呼び出され、見るからに座り心地の良さそうな椅子に腰掛けながら、父様は開口一番、俺を『無能』だと罵った。


 俺はそんな父様の言葉にピクッと眉を顰めて声を上げる。


「逆になんでそれに従わないといけない? 俺は誰かが決めたルールなんてまっぴらごめんだ!! 『必要のない子』と思うならそれでいい。でも、俺は望んでこの世界に産まれたわけじゃない! 父様が母様を孕ませたのが全ての元凶だ!!」


「ジン!!!! 貴様、それが親に対する態度か!! もううんざりだ!! この家から出て行け!! 二度と顔を見せるな!!」


「へぇー……そぉ。別に構わんぞ? どこにでも追放しろ!! ただ、ちゃんと仕送りはしてくれよ!! 俺は労働が大嫌いだ!! 頼む!! 資金はちゃんと提供してくれ!! ちゃんと遊んで暮らせるくらいは、お金をくれ!!」


「…………」


「…………」


「さっさと出てけーーーー!!!!!!」


「あぁ!! 出て行くとも!! わかった。父様がそこまで言うなら仕方ない!! 『3億バル』で手を打とう!! 二度と父様の前に顔を見せないと約束するし、父様の偉大さを周囲にふれてまわろう!!」


「バカもん!! お前は……。まずはその性格をなんとかしろ!! あれもヤダ、これもヤダ。何でもかんでも『やだ、やだ、やだ』と!! 挙げ句の果てには『金をくれ!』だと? 本当にいい加減にしろ!! 昔のお前はどこに行ったのだ……。もういい……出て行け!!」


 父様はそう言って部屋に執事を大量投入し、俺は外に放り出された。「金どぉーすんだよ!!」と喚き散らす俺に、家の使用人達は苦笑しか浮かべていなかった。



 俺は身一つで捨てられた。実の息子を捨てるなんて、とても血が通った人間の行為とは思えない。


(俺の何が、ダメなんだよ……)


 なんて心の中で呟きながら、込み上がる笑みを抑えられなかった。


「ハハハハッ! ハハハハッ! 俺は、自由だぁーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 長年の努力が実った瞬間だった。


 貴族同士の探り合い、派閥がどうだとか、どの殿下を押し上げるか、など、俺は心の底からどうでもいい。


「この令嬢はどうだ?」

「あそこの令嬢からも話しも来ている」


 俺の答えは「うるせぇー」だ。


 8歳の頃、俺は自分の人生が詰んでいる事に気づいた。特殊技能を持たない俺はあらゆる知識を自分の頭に叩き込み、成り上がるために必要な努力を延々と強要されてきた。


 そんな日々を送る中で、俺はふと思った。


(これ、できたからなんなの? 何で俺、こんな事してんの?)


 確か、ワルツのダンスを習っている時だった。手を叩きながら、


「いち、にっ、さん! いち、にっ、さん!」


 と手を叩いている講師がすごくバカに見えて、(アホらしい……)と心から辟易したのだ。


 そこからの俺の行動は早かった。


(ここから、抜け出さなければ、俺に自由はない……)


 頑張った。俺は本当に頑張った。緊張しながらも、令嬢の乳を揉みしだき、テーブルの肉を手で食べた。講師には難癖をつけ、使用人にはいつも胸でパフパフして貰った。


 全ての事に「ノー!!」を突き立て、面倒な事は全てバックれた。


 全ては『自由』を手にするため。


 自分の父親ながら、よく15まで育ててくれたものだ。感謝しかない。こんな捻くれた息子に育ってしまった事を心から謝罪してやりたい。そして俺はついに手に入れた。


 身一つ、荷物は何も持ってない。かたっくるしい上着を玄関に投げつけ、俺はまだ見ぬ幸せなスローライフを求めて「追放」されたのだ。


 その代償はでかかった。すっかりその性格が染み付いてしまった事だ。だってそれは仕方ない。


 だって何もしたくないし、働きたくないし、乳は揉みたいし、嫌なことはしたくないし、お金は欲しいんだから。


 だってそれが「楽」なんだから。



――――



 そして「自由」を手にする聖戦から一年の月日が流れた。いま思えば、あの「追放」を求め、無茶苦茶をしている時が、一番『自由』だった事はわかっている。


 商人の馬車に乗せて貰いながら、だらだらと辺境都市「トアルシ」に流れ着いたのだ。


 今もそれなりに自由だ。薬屋のババアに拾われ、適度に働かない生活を過ごしている。ガミガミと文句を言われる事も少ないし、スローライフを満喫している。



 が、どうも様子がおかしい。


 3日前の事だ。俺はあの日も、風呂を覗いていた。


 その日が「大当たり」の日だったし、あれはなかなか忘れられる体験ではないので、よく覚えている。


 「大当たり」だったのは、美人で有名なパン屋の『ナージャ』が風呂に入っていたからだ。


 白いタオルで正面を隠していたが、完全無防備な後ろ姿を俺は「ふっ」と、クールに笑みを溢し、


(ナージャの裸は久しぶりだ。相変わらずのいい尻っぷりじゃねぇか……)


 と、プルンッとハリのあるナージャの尻を喰い入るように見ていた。陶器のように白い肌が風呂の湯気と同化して、見えそうで、見えない。


 湯気、尻、湯気、尻。


(おぉ。いいぞ!! これぞ、これぞ、『覗き』の醍醐味!!)


 俺は全神経を集中した。俺はただナージャの尻が見たかっただけだ。


 その時視界が、ザザッと揺れた。


 俺は「ん?」と目を擦り、また目を開くと、目の前は真っ暗だったのだ。


(お、おい。マジかよ……)


 絶句している俺はナージャの尻が見たくて仕方がない。(視覚を失ってしまったのか!?)と焦るよりも、「ナージャのお尻を見たい!」という気持ちの方が強かったのは確かだ。



其方そなたに『力』をあげましょう」


 暗闇の中、直接脳に語りかけてきた女の声に、俺は(いらねぇー……)と心の中で全力で拒絶した。


「聞いておるのか? 其方に『力』を与えてやろうとしておるのだぞ?」


「大丈夫。間に合ってます」


「なんだ? その『シンブン』の押し売りを断るような態度は?!」


 俺は(『シンブン』ってなんだ?)と思ったが、本当に勘弁して欲しくて、はぁーっと長い息を吐いた。


「おいおい、ゲロすべりしてんじゃん!! わらわのツッコミが『センスない』みたいになってんじゃん!!」


「いや、あのー、あんた誰っすか? 俺、いまナージャの尻を覗いてるとこなんですよ」


「えぇ!! イカツッ!! 何よ、それ!! この状況で……? 『こ、これは何だ!?』とか、言わないわけ?」


「ちょ、ちょっとマジで、オシッコしたくなってきたんで、視界を戻してくれませんか? この暗闇、どうせあんたのせいでしょ?」


「やだ! なにこの子! 『恐ろしい子!!』」


「はぁー……」


「わ、わかった!! じゃあ、ルーレットスタート!! ドゥルルルルルルルルルル、ドゥルルルルルルルル! ドゥルルルルルルルル……『ストップ』って言ってよ!!!!」


「ス、ストップぅう……」


「いまかぁーーーい!! ………………なっ! これは!! 大当たりーーー!!」


「はぁああ……」


「君、本当に人間? なんか、こう、テンション上がらないの?」


「……ぅっ……うぅ……。……貴様……俺がいま泣いてんのがわからねぇのか!!!!? 気づいてねぇかも知れねぇが、いま俺は盛大にオシッコを垂れ流している!!!! 貴様が視界を奪ったせいで!! 俺はいま、16にもなってオシッコを漏らしてしまった!!!! ズボンが何か生暖かいぞ!! ボケッ!! 死ねッ!!」


「……。ご、ごめんね? 何か早く終わらせたいだけなのかって、……いや、くっさっっ!!!! めちゃくちゃ臭いな、君!!」


「テメェ……姿を見せろ。今の俺の股間に顔面押し付けてくれる……」


「ハ、ハハ……。やったね? き、君は『罪と罰』って『力』をゲットしたよ? よかったね?! んじゃ、ま、またねぇーーー!!」



 意味のわからない女は叫びながら気配が消したかと思えば、視界が徐々に元に戻って……いなかった。


 いや、色彩は戻って来ている。おかしなものが視界に飛び込んで来ているのだ。目の前には裸のナージャが顔を真っ赤に染めてぷっくりと頬を膨らませている。


 ちなみに俺はオシッコを垂れ流したままだ。

 ナージャが俺の顔を見つめている。それはわかる。


「な、なんだコレ……」


「ジン君!! 『何だコレ……』じゃないでしょ!? 女の子のお風呂を覗くのはダメだって何度言ったらわかるのよ!!」


 ナージャはぷりぷり怒りながらも少し嬉しそうに頬を染めているが、俺は目の前に浮かぶ文字に、それどころではない。



※※※※※※※※※※


ナージャ・ロリヤ  18歳 女


『罪』

・3人の男性と同時に交際している。

・たまに落ちたパンでも何事もなかったかのように、商品棚に戻している。


『罰』

・交際中の男性全員に同時に見つかり、悪評を広める。



『罰執行』


※※※※※※※※※※



 ナージャの横にこのような文言が視界に映し出されている。『罰執行』の所はボタンのようになっており、おそらく、それに触れると『罰』が行使されると言うことなのだろう……。


 俺はあまりの衝撃に絶句し、固まってしまう。


「あっ。ジン君だぁー!!」

「ジン君、また覗いてたの〜??」

「どうせならベッドに忍びこんでよ?」


「「もぉ! それは私からだから!!」」


 ナージャの他にも街の娘達が風呂に入っていたようで、そんな声を上げるが、俺はいまだに固まったままだ。


「ナ、ナージャ……嘘だと言ってくれ……」


「えっ? ジ、ジン君?」


「三股してるのは事実なのか……?」


「……!!!!」


 ナージャは驚愕して、口をあんぐりさせている。俺はナージャが好きだった。誰にでも優しく、俺が家から追い出され、飢え死にしそうになっている時、パンを恵んでくれた女だ。

 

 今思えば、あのパンは地面に落ちた物だったのかもしれないが、俺はナージャに会ったからこの街に決めたと言っても過言ではない。



「ジ、ジン君。ひ、ひどいなぁー。私がそんな事するはずないでしょ?」


 ナージャの目は泳ぎまくっている。もう、高速に動きすぎて、目が真っ黒になっている。


 16歳の男の子は、年上の女の子に憧れる年頃なんです。なんかすごくいい感じに見えるんです。


(俺の純情を弄びやがって……)


 冷静に考えれば、日課のように風呂を覗いている俺が純情なはずはないが、なぜか裏切られた気分でいっぱいだ。


 俺は『罰執行』のボタンに触れると、


「俺はナージャが好きだった!! たった今、それをやめた!! その乳だって、3人に揉まれたから大きくなったんだ!! もう知らん!! 勝手にしろーー!!」


 と叫び、その場から走り去る。



「ナージャ・ロリヤへの『罰』を行使します」



 頭の中で誰だかわからない無機質な声が響くが、俺は走った。涙で滲む視界の中、ズボンの不快感に耐えながら、懸命に俺が今住んでいる家へと走った。


「ジン、おかえり。まさか、また覗きに……って、何泣いてんだい?」


 俺を拾ってくれた薬屋のババアはぐちゃぐちゃになった俺の顔に驚いたような顔をしている。


 俺は泣きながらもババアを見据える。



※※※※※※※※※※


アスカ・バレン  75歳 女


『罪』

・人間らしからぬ慈愛の心を持っている。


『罰』

・長寿の生物として生まれ変わり、その慈愛で人々を救い続ける。



『罰執行』


※※※※※※※※※※



 俺はババアの胸で泣いた。柔らかいすべすべの肌なんかなく、少し薬草の匂いがしたけど、なんだか安心して、涙が流れてしまったのだ。


(よかった。ババアがいいやつで……)


 ふざけた『力』に目覚めてしまった。なんかよくわからないけど、人間不信まっしぐらな『力』を与えられてしまった。


「どうしたんだい? ジン」


 ババアは俺の背中を撫でるが、すぐに手を止め、「ん?」と首を傾げる。


「ジン、あんた何か臭いよ?」


 俺の感動はさらさらと冷めていく。そそくさとシャワーを浴び、服を着替えに自室に戻ると、


「ジン! 何があったか知らないが、今日はあんたが好きな魚介のパスタにしてあげるから元気出しな!!」


 とババアの叫び声が聞こえた。


「おう!! ありがとう!! 今日は配達あるのか?」


「ああ! 隣町の薬屋にポーションを卸に行くよ! 無理そうなら家で待ってるかい?」


「いや、重たいだろ! 手伝うよ!」


「何だい。珍しい。こりゃ雪が降るね……。それじゃぁ準備しとくから早く来な!」


「ああ!」


 今日くらい労働してやってもいい。人間不信に陥りそうになってしまったのを止めてくれた礼だ。強制されるのは大嫌いだが、自分からする分には大丈夫だ。俺はすぐに支度を済まし、ババアと一緒に隣町へと足を進めた。


 

 街をババアと歩いていると、3人の男に囲まれたナージャの姿があった。




※※※※※※※※※※


ナージャ・ロリヤ  18歳 女


『罪』

・3人の男性と同時に交際している。

・たまに落ちたパンも何事もなかったかのように、商品棚に戻している。


『罰』

・交際中の男性全員に同時に見つかり、悪評を広める。



『罰執行中』    『中止』


※※※※※※※※※※



 俺は遠くからナージャと目が合うと、また文字が浮かびあがった。『罰執行』から『罰執行中』に変わっている。それに『中止』のボタンも増えているみたいだ。


「本当だったんだな……」


 俺はまだ少しナージャを信じたかったが、揉めている4人を見ながら、この『力』とナージャの三股が本物である事を自覚した。


「何が本当なんだい?」


 ババアは老人らしからぬ、地獄耳で俺に問いかけるが、俺は、


「いや、なんでも」


 とババアに拾われた事を嬉しく思った。このババアはかなりババアだが、嫌いじゃない。俺は少し笑み浮かべながら隣町へと薬屋を運んだ。





 そしてその日から3日後、俺はいま窮地に陥っている。目の前にはヤバいヤツらが立っている。その筆頭はこの女だ。



※※※※※※※※※※


ジュリアン・シルバ 17歳 女


『罪』

・美しすぎる。


『罰』

・自分の気持ちを素直に表現できなくなる。常にツンツンしてるが、たまにデレデレしてしまうようになる。


『罰執行』


※※※※※※※※※※



「貴殿がジン・アイルズだな?」


 ジュリアンはキラキラと輝く紫色の瞳で俺を見つめる。


(ハゥアッッ)


 思わず、視線を合わせると悶絶必至だ。


(な、何だ、この女!! 尊い!! 眼福だ!! 乳!! 騎士なのか? 女騎士なのか!? 鎧の乳のサイズ、それ正解なのか? エロすぎるだろ!! あっ。なんかいい匂い!!)


「聞いているのか?」


 ジュリアンはいまだ悶絶を続ける俺に再度問いかける。


(綺麗な声!! いや、そんな事より、乳!! 乳!! 父!! 血血!! 口元のホクロがセクシーだ!! 触ってみたい)


「お、おい。どうした? 大丈夫か?」


「あぁ。お前のその綺麗な金色の髪をひと束、俺に下さい」


「な、な、何言ってるんだ! お前は!!」


(何だよ。赤くなっちゃって……。コ、コイツは……かなり『罪深い』女だ……)


 俺はゴクリと唾を飲み込む。ちょっとカッコつけてみてもいいんじゃないでしょうか!!!???


「いや……。俺がジンだが? 何用かな? 麗しの姫……」


「な、何が『麗しの姫』だ……! ふざけるでない! ほ、本当にお前が『世界の裁量者』なのか……?」


 ジュリアンの言葉に俺の昂った気持ちもヒエッヒエッだ。面倒くさいことになる予感しかない。俺から『自由』は誰にも奪わせない。


「いや、違います。さようなら。違った形で出会いたかった……」


「ふざけるな!! お前を王都に連行するために私はこの地を訪れたのだ!! ジン・アイルズ!!」


「人違いです。さよなら」


「その黒髪に黒い瞳。長身に整った容姿。それにぶっ飛んだ性格……。アイルズ公爵の御子息に間違いない!!」


 ジュリアンが叫ぶと、周りの騎士達から声があがる。


「本日もジュリアン様は麗しい……」

「お、俺もあんな風に指さされたい……」

「ジュリアン様……。何であなたはジュリアン様なのです……」


 騎士達はすでにジュリアンにメロメロのようだが、ぶっちゃけ俺には関係ない。王都になんて絶対行きたくない。あの陰謀で渦巻く世界はもううんざりだ。


 俺はフンッと鼻で笑い、ジュリアンを帰らせる最善の策を見つけた。


「等価交換だ! ジュリアン・シルバ!! 今この場でその鎧を脱ぎ捨て、公衆の面前で裸になれたのならお前の申し出を受け入れよう!! いや、最悪、俺の部屋で2人きりでもいい!!」


 俺の言葉に周囲から怒号が響き渡る。


「て、テメェ、ふざけんじゃねぇ!!」

「誰がテメェにジュリアン様の裸を見せるんだ!!」

「こ、ここでなら、別にいいんじゃないか……?」

「何が『世界の裁量者』だ!! 死ねッ!!」


 1人、俺と同類が混じっているようだが、ジュリアンがこれを承伏するはずがない。決して、俺の願望を声に出したわけではないのだ。


 ジュリアンはアワアワと顔を染めながら口を開く。


「な、なにをバカな……イカれているのか……? そ、それに、なぜ、私の名を……?」


「この話はなかった事に……」


「ま、待て!! 王都にて、財や地位を約束する! 貴様の望む、『悠々自適』な生活を保証しよう!」


「なるほど。俺については調べがついてるんだな……。『だが、断る!!!!』」


 俺の脳裏にはババアの姿が浮かぶ。素性もわからない俺を、家に住まわせてくれた俺以上にぶっ飛んだババアの姿だ。


 俺は今のままでそれなりに幸せだ。ババアは1人だし、置いていく事は出来ない。


(ハハッ。ババアのくせに……)


 俺は心の中でババアに悪態を吐きながら、(我ながら、ちょっとカッコいいじゃねぇか……)などと考えていると、俺の横からひょこっとババアが現れた。



「あら。こりゃべっぴんさんだねぇ。ジン!! いっといで!! 誰かに求められるってのはいい事だよ? それにタダ飯食わすのはもう限界じゃわ!! そろそろ働きなさい!」


「ふ、ふざけんな! ババア! た、たまにだけど配達手伝ってるだろ!? それに……」


 (ババア1人になっちまうだろ!?)と言葉を続けようと思ったが、何か恥ずかしくて言えなかった。


「騎士様。ちょっとアクは強いですが、心根は優しい男ですので、どうぞよろしくお願いします」


「おい!! ババア!! 勝手に話を進めるな!! 行かない!! 王都は嫌いだ!! ジュリアン・シルバが脱がねぇと絶対行かねぇ!!」


 俺の絶叫に、ババアもジュリアンも、騎士達も。周りの住人さえもとても冷ややかな視線を俺に向ける。


「……い、いいだろう。もう手段は選ばんぞ」


 俺はジュリアンとババアの『罰執行』に手を伸ばす。


 ババアの『罰』は「長寿の生物として生まれ変わり、その慈愛で人々を救い続ける事」。


 ジュリアンの『罰』は「自分の気持ちを素直に表現できなくなる。常にツンツンしてるが、たまにデレデレしてしまうようになる事」だ。


(自分の身に異変が起こりゃ、俺に構ってる暇ねぇだろ……)


 俺は薄汚い貴族顔負けの悪い笑みを浮かべる。



「な、なにをするつもりだ!??!」


 ジュリアンは慌てて声を張り上げるが、もう遅い。俺はそのボタンに手を触れた。



「アスカ・バレン、ジュリアン・シルバへの『罰』を行使します」



 無機質な声が脳内に響き、光が辺りに満ちると、ババアは尖った耳の子供のエルフに様変わり。俺は、何かギャップが激しすぎて吐きそうになってしまった。


「なっ!! コレはなんじゃ!! ジン!! 何をした!?」


 ババアは自分が翡翠の瞳に銀髪の超絶美エルフになった事に驚きながら、ポカポカと俺の足を叩いてくる。



「オロロロロロロ」



 耐えきれず、嘔吐してしまう俺。


「な、何したのよ!! えっ!!?? だ、大丈夫?! い、いや、別に心配してるわけじゃないんだからね!!」


(ジュ、ジュリアン……尊い……。なんか、全てが斜め上になっちゃった……)


 と俺が困惑していると、空が急に暗くなる。「ん?」と空を見上げると、それはそれは巨大なドラゴンが……。


「はっ?」


 俺がキョトンとしているとジュリアンは慌てて声を張り上げる。


「ドラゴンだ!! お前達は住人を連れ避難しておけ!! べ、別にお前達の命の心配してるわけではないぞ!?」


「「「「ジュ、ジュリアン様!!!!!」」」」


 騎士達はジュリアンの破壊力にその場に倒れてしまった。


(ま、まぁ気持ちはわからんでもないが、コイツら無能すぎるだろ……)


「ジ、ジン。早く逃げなさい……。なんでこの時期にドラゴンが……。あと30年は猶予があるはずじゃろう……?」


 ババアはドラゴンに真っ青だ。


(何でそんなん知ってんだ! ババア!!)


 と俺は心の中で絶叫し、ドラゴンを見据える。



※※※※※※※※※※


炎竜フレアドラゴン 628歳 男


『罪』

・複数の国、都市の破壊、蹂躙。


『罰』

・死刑



『罰執行』



※※※※※※※※※※



 俺は普通に目を疑っていた。


(えっ? コレ、ボタン一つであのドラゴン屠れるんじゃね?)


 少しドキドキしながら、執行ボタンに触れる。


「フレアドラゴンへの『罰』を行使します」


 無機質な声が響くと、


ギュォォオオオオン!!


 とドラゴンは大きな咆哮をあげると、村外れの森にグザァァァンッと落ちていった。



 俺は衝撃的すぎて、鼻水を垂らした。

 


「な、なんだ?」

「どうなったんだ……?」

「い、いまドラゴンいたよな?」

「え? 『夢』か……?」


 住人達は各々の心中を吐露する。俺は未だ鼻水を垂らしている。


(マジかよ……。とんだチートじゃねぇか!!)


 俺が心の中でも鼻水を垂らしていると、ババアがゆっくりと口を開いた。


「ジン。あんたがやったんだね?」


「……そ、その姿でババアみたいな事言うな」


「あんた……一体……。って、あんたがこんな姿にしたんでしょうが! 何をしてるんだい!! 本当に!!」


「ま、まぁ、まずはドラゴンだろ?」


 俺はバックれる準備を始める。面倒事からは逃げるに限る。ドラゴン襲来で俺に構ってる場合じゃないだろうし、さっさと家に帰って寝よう……。


 俺はしれぇーっとその場を後にしようと一歩を踏み出すと、ガシッと両腕を捕まれる。


「ジン!! あんた、こんな『力』、人のために使わなくてどうするんだい!!」


「ジン・アイルズ!! 何をどうしたの!!?? ふざけてないで教えなさい!! べ、別にあなたに興味津々なわけじゃないんだからね!!」



 俺は2人の腕を振り解き、走った。おそらく人生で一番走った。


(知らん!! 俺は知らん!! 俺はもう寝る!!)


 家に着くなり、自室に飛び込み鍵をかけた。すぐさまベッドにダイブし、俺は現実逃避を図った。


(みなさん。おやすみ。ボク、ジン、チガウヨ。ヒトチガイダヨ。ナニモシテナイヨ……)


 なぜか違う大陸の人達がこちらの言葉を話す時のように呟きながら目を閉じると、思ったよりもすぐに眠りについた。


 安定の15時間睡眠を終え、目を覚まし、トイレに向かうと鍵が閉まっていた。


「おい、ババア! 漏れそうだ。早くしてくれ」


 俺が寝ぼけながら声をかけると水を流す音が聞こえた。はぁーっと深いため息を吐きながら、ふぁ〜と欠伸をしていると、トイレから超絶美女が中から出てきた。


「お、おはようございます」


「あっ……。ジュリアン……おはよう」


 俺は小さく挨拶を返し、トイレに飛び込んだ。


(よし。ババアには悪いが、また逃避行の再開だ!)


 そう決心し、先程、びっくりしすぎてちょっとチビってしまったパンツをトイレの窓から投げ捨てた。





初めて短編書いてみました!

読者様からの評価、ブックマークが多いようでしたら連載してみたいとも思っております!


ほんの少しでも、「面白い!」もくしは「連載したら読んでやるよ!」という優しい読者様。


 【ブックマーク】をポチッとお願いします!!


ついでと言ってはなんですが、下にある評価の所から、【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら、最高です!!


「何だコレ?」「全然面白くないな!」という読者様も「まぁ減るもんでもないしな……」という優しい気持ちで、下の【☆☆☆☆☆】のどこでも良いので、ポチッとお願いします!!


今はメインで、


『【洗濯】のダンジョン無双〜「クソスキルの無能が!」と追放されたスキル【洗濯】の俺だけど、このスキルは控えめに言って『最強』でした。綺麗な『天使』と可愛い『異端竜』と共に、俺は夢を叶えます〜』


という作品を書いています。かなり作風は違いますが、読んで頂ければ幸いです!


よろしくお願いします!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらず安心する文章ですね。楽しく読ませて頂きました。 [気になる点] ちょっとエッチでしたけどこれ以上はノクターンですよ? [一言] 続きが、私とても気になります! 是非この物語の続き…
[一言] 新しいチートスキルですね。 掴みとしては面白いです。 『罰』はオモシロ選択肢が複数個とかあるといいかも。悩む主人公が見たいw
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