第六話 戦いの火蓋は切られた
『みんなのクレジット被害者の会』に集った同志達。
俺達は掲示板を通じて情報交換を行い、互いの不安を慰めながら今後の方針について協議した。
また、金融庁やマスコミ、消費者センターに通報して、みんクレへ業務改善を求めるように働きかけた。
しかし、そんな俺達をあざ笑うように、事態は悪化の一途を辿った。
関東財務局の行政処分を受けて、S社長は代表を辞任した。
そして仲間が後任となり、新体制が発足した。
建前は、親会社ブルーウォールジャパン(BWJ)との関係解消。
融資元と融資先の社長が同一なら、利益誘導を図るのは当然のこと。
投資家から借りた金を、直接自分の懐に入れているようなものだ。
一見すると、代表の交代でグループ会社から独立したように思える。
だが、後任のA氏もまた融資先の経営者であり、癒着状態は全く解消されていなかった。
むしろ代表者連帯保証を背負っていたSがみんクレが抜けたことで、首輪が外れてしまった気さえする。
さらには東京都からも行政処分が下り、次々と問題が発覚していった。
俺達が思っていた以上に、この会社の内情は真っ黒だったらしい。
東京都に指摘されたのは、過大な担保と利息制限超過。
グループ会社の担保は未公開株や絵画などが多く、経営が傾いた時の保証にはなっていなかった。
その一方で、一般の企業に対しては厳しい条件を提示していたらしい。
ソーシャルレンディングは原則として二つ以上の融資先をセットで販売する決まりになっているため、単一の企業に100%融資することはできない。
どの案件に投資してもその投資金は分割されて、複数の会社への融資されることになっていた。
それだと比較的安全な第三者への融資が半分くらい含まれているように聞こえるかもしれないが、そうは問屋が卸さない。
実際に全融資額の97%以上はグループ会社が対象だった。
カラクリは簡単だ。
仮に1000万円の融資案件だとしたら、
・案件1 身内企業 990万円
・案件2 外部企業 10万円
というようにセットで募集するだけ。
内訳に制限はないから、外部(身内で作ったペーパーカンパニーでもいい)に小銭を出すだけで法律に則った案件を作り出せる。
融資先の会社名や資金の割合は非開示なので、投資家からは分散しているように見えてしまう。
ソーシャルレンディングの匿名性を利用した詐術に、俺達はまんまと引っ掛かったわけだ。
社長交代後の新体制に一縷の望みを託したが、当然のごとく期待は裏切られた。
1ヶ月の停止期間を過ぎても、みんクレは営業を再開しなかった。
これまでは時間通りに行われていた償還と利払いも、少しずつ遅くなっていった。
そして、とうとう6月の支払日は入金がなく、翌日にずれこむ事態に陥った。
もはや事業を継続する気がないのは明白。
このまま倒産したら、俺の2000万円はどうなってしまうのだろう?
「営業を再開しなければ、いずれ資金が枯渇する」
「できるだけ速く動かなければいけない」
俺は決意を固めた。
当然、不安に思っていたのは俺だけではない。
掲示板には日夜書き込みがあり、倒産の懸念や悪い噂が溢れていた。
みんなわかっていたのだ。
このまま放っておいても、全額返済されて皆が笑い飛ばせる『ハッピーエンド』はやって来ないことを。
そして、俺達は今後の活動を真剣に話し合った。
話し合いの内容はもちろん、『集団訴訟』だ。
金融庁も東京都も、当てにはならない。
聖人のような役人様が詐欺師を逮捕して金を取り戻してくれるなんて、トラックに轢かれて異世界に転生するぐらいあり得ない話。
投資家が出したカネは、投資家自身の手で取り戻すしかない。
相手がどんなに悪逆非道だろうと、法廷でそれを立証しなければカネは返ってこない。
かくして俺達は行動を開始し、長い長い法廷闘争の幕が開けた。
けれど、そこでまた大きな壁が立ちふさがり、せっかく集まった同志達は分断されることになる。
あの事件の後、いったいどれだけの仲間が俺を恨んだのだろうか・・・