第五話 被害者の会はカップラーメンより軽い
みんなのクレジット行政処分の発表があったその日、俺は大慌てで金融庁に電話した。
もしみんクレが倒産すれば、俺の2000万はパーになる。
「投資家に被害が及ばないように、きちんと償還できように指導してほしい」
と懇願した。
しかし、全く安心はできない。
役所は形ばかりの処分と業務改善命令を下すだけ。
不正業者が素直に従うわけでもなければ、代わりに金を取り戻してくれるわけでもない。
結局みんクレは『業務停止1ヶ月』というごく軽い処分になっただけ。
詐欺や横領とも取れる行為をしたというのに、経営陣は一切刑事罰を受けなかった。
やはり頼れるのは法律の専門家である弁護士。
昔とある事件でお世話になったS弁護士に、俺は事件の経緯を報告した。
こんな安易な手口に引っかかったので内心は呆れていたのかもしれないが、先生はすんなり相談に乗ってくれた。
俺はこれまで投資した内容(案件や金額、支払い状況)をHPからスキャンし、先生に詳細を伝えた。
投資詐欺の手口としては典型的。
おそらく民事訴訟ないし民事調停を通じて、契約無効と返金を求めることになるだろう。
だが、安易に訴訟を提起して、賠償を請求することはできない。
企業を相手どって裁判を起こすとしたら、莫大な費用と手間がかかるからだ。
みんクレに財産の殆どを奪われた俺に、そんなコストを払う余力が残っているだろうか?
みんクレが集めた金額は、約45億円。
会員数は公表されてないが、少なくとも1000人は超えているはず。
たった2000万の投資額しかない個人が訴えて、どうにかなる話でもないだろう。
そこで、弁護士の先生からアイデアをもらい、一つの手を打つことにした。
「仲間を集めて、被害者の会を作ろう」
被害者が1000人いるなら、団結して立ち向かえばいい。
知り合いは誰もいないが、ネットで繋がれる現代なら決して難しくないはずだ。
裁判をでも調停でも、戦力が多いに越したことはない。
俺が一人で頭を抱えていてもどうにもならないが、仲間をたくさん集めれば良い知恵も浮かぶかもしれない。
質問「被害者の会を作るのには何が必要か?」
答え「何も必要ない」
土地もいらない。
金もいらない。
知名度もいらない。
敢えて言うなら、俺の意思と『インターネット回線』だけが必要だ。
作業も中学生程度の文章力があれば問題ない。
ブログやツイッターを介して、
「みんなのクレジット出資者を救済するために、被害者の会を設立しました」
と宣言するだけでいい。
組織とは所詮幻想であり、人の頭の中にしかない。
インターネット上で「被害者の会」と書き込めば、社会から存在を認知される。
ささっとキーボードを打って、ブログに記事を公開する。
カップラーメンの3分間よりも早く、被害者の会は出来上がった。
参加者からは「そんないい加減でいいのか!」と怒られそうだが、言い出しっぺなんてそんなものだ。
もちろん、単に告知しただけ何の活動もできない。
電話やメールで連絡を取り合うのも効率が悪い。
だから『意見交換の場』を用意した。
インターネットには、2ちゃんねる(5ch)をはじめとして多数の掲示板やチャットサービスが存在する。
俺はお馴染みの5chに似たタイプでかつ会員制の掲示板を一つ借りて、自由に書き込めるスレッドを作成した。
あとは連絡をくれた被害者をそこに誘導すれば、この問題に対して議論ができるようになる。
特に料金はかからなかった。
時間もカップラーメンとはいかないが、1日足らずで準備できた。
組織を作るには何かと手間がかかりそうなイメージがあるが、法的な手続きでなければどうということもない。
今必要なのは『スピード』。
不正がバレた以上、相手は資金を海外口座や仮想通貨に逃がしていくだろう。
他人や行政機関が動いてくれるのを悠長に待っているわけにはいかない。
「思い立ったが吉日」と信じて、自ら行動するしかない。
俺のブログやツイッターでは目に留まるか不安だったが、翌日に数人から連絡が届いた。
みんクレの行政処分の報を聞いて心配になり、ネットを検索して辿り着いたようだ。
俺は彼等の被害状況を尋ね、掲示板に誘導した。
その後クチコミで広まったのか、続々と被害者が集まってきた。
会員は10人、20人と増え、ある方の加入をきっかけに最終的には100人を超える大所帯となっていった。
皮肉なことに、その膨れ上がった組織が後々俺を悩ませることになるのだが・・・
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